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3 幼馴染の男の子 後編

3週目。意外と続きそうか……?

「おい、不良娘。」

「ひッ」


 急に声をかけられた私は、思わず悲鳴をあげる。声のしたほうを恐る恐る向くと、そこにはけいちゃんがいた。


「なんで……」


「何でって。どこかの不良娘がお酒を手に取ったのが見えたからな。」


「不良じゃないし。」


「お酒持ちながら言っても説得力ないんだが……。」


 そういわれて、私がお酒を手に取っていたことを思い出す。


「放っといてよ、けいちゃんには関係ないでしょ。」


「まぁ、確かに俺には関係ないかもしれないな。でも、まぁ、あれだ、その、幼馴染の、し、親友が犯罪に手を染めようとしてたら普通止めるだろ、そういうことだよ、うん。……とりあえずそれ置いて家に帰れよ。今のことは誰にも言わないから。」


 そういうけいちゃんの顔は少し照れていて、いつもよりちょっと早口だった。でも、私はけいちゃんの言葉には従えない。いつも通り優しい言葉をかけてくれるけいちゃん。でも、いつもなら心地よく思うような言葉も、なぜか今日は私の心を逆撫でするようだった。能天気なまでの優しさ100%の言葉。私だってやりたくてこんなことしてる訳じゃないのに。余裕のなさとか、訳のわからない怒りとか、自分への諦めとか、こんなときまでも優しくいられるけいちゃんへの羨望とか、そういう仄暗い感情がごちゃまぜになって私から溢れ出す。


「けいちゃんには……。けいちゃんには分からないわ!私が無くしたもの、全部持ってるけいちゃんには分からないわよ……。」


「なにかあったのか?」


 けいちゃんは心配そうに尋ねてきたけれど、私は横に首を振るしかできなかった。こんなにも薄汚れた私を知られるわけにはいかない。いつもの私を演じないと。いつもの私。イツモノワタシッテナンダッケ?


「家まで送っていくよ。もう夜も遅いしさ。」


 家まで送っていくよ。そんななんてことはない言葉が脳内に幾度となくリフレインする。思わず私はけいちゃんに差し出された手を弾いてしまっていた。


「嫌っ!」


「え、ごめん……。そんなに嫌だったか……?」


 あ……。やってしまった。だめだ、嫌われるかも……。いや、もう嫌われたんじゃ?……けいちゃんに嫌われたら私はどうすればいい?嫌われたくない。そんな言葉だけが頭の中をぐるぐるまわっていて。つぎつぎに口から言葉が滑り出してしまう。


「ううん、けいちゃんじゃないの。ごめんなさいごめんなさいお願いだから私を嫌わないでゆるして……」


「え、あ、ちょ、ちょっと待て!ほら、嫌わない!嫌わないから泣くなって!お願いだから泣き止んで!」


 けいちゃんに言われて気づいたけれど、私は泣いていたらしい。何でもないようなちょっとしたことにまで気が動転してしまって、なんだかバカみたいだ。


「……もしかして家に帰れないのか?」


 この質問に肯定してしまったらすべてが終わってしまう。けいちゃんに今の私を知られてしまう。そう考えたけれど、私は思わず首を縦に振ってしまっていた。


「……うん。」


「そっか。今日は父さんも母さんもいないからうちに来てもいいよ。部屋余ってるし。」


「ありがと……。」


 それから私たちはコンビニを出て、啓ちゃんの家に向かった。けいちゃんの家にはよく来ているが、今日は泊まるのだと思うとなんだか新鮮だった。


 けいちゃんの家に着くと、客間だという部屋に案内された。こんな立派な部屋を私ごときが使ってもいいんだろうか?


「今日はこの部屋を使ってくれ。客間だけど一応鍵は掛かるから。」


「ありがと……。」


 私が使うことになった部屋からは当たり前だけど、けいちゃんのにおいがした。昔のお父さんみたいな、ちょっと安心するにおい。私ってけいちゃんにもらってばっかりだ……。


「先風呂に行くか?」


「ううん。けいちゃん先に行っていいよ。私はただでさえ迷惑かけてるんだから。」


「別に迷惑だなんて思ってない!……たぶん悠華だって同じ状況ならそういうに決まってる。」


 けいちゃんはそういうけれど、いくら貰っても、私には返せるものがない。そのうち負債ばっかり貯まって、きっと私はその重みに潰されてしまうだろう。それでも、私がけいちゃんにあげられるものは何もない。何も、ただのひとつとして。……ほんとに何も?

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