14. 拗れきって
今年最後の投稿です。メリークリスマス!
どうして、こうなってしまったんだろうか。俺は心の中で、そう問い続ける。どこで間違ってしまったんだろう。
最初は、汐のことを親友だと思っていた。いつまでも、ずっと親友だと。でも、いつからか俺は汐のことをただの親友としては見れなくなってしまっていた。
汐は、俺にとって1番親しくて、1番気安くて、1番一緒にいる幼馴染だった。俺は無邪気にも、そんな関係がいつまでも続くと思っていた。
初めて自分と周りの空気のずれを感じたのは、中学生のころ。同級生の何人かが汐に気があるような発言をしているのを、俺はたまたま聞いてしまった時だ。汐にラブレター。そんなことがあり得るなんて想像すらしていなかった。
その日から俺の戦いは始まった。朝早く起きて学校に行き、潮の靴箱と机の中身をチェックする。そして、手紙が入っていたら、それを汐に気付かれないように処分した。
汐は高校に入って初めてラブレターをもらったと思っているが、そうではない。中学生の頃から、汐はかなりの量をもらっていた。それを隠し通せたのは、悠華の協力があったからだと思う。
それでも、俺はまだ楽観していた。汐が俺たちから離れることはあり得ない、親友という関係でなくなることはあり得ない。そう頑なに信じ込んでいた。
でも、汐を家で匿うことになった日。俺は、汐が女の子だったってことを思い出した。それも、とびきり魅力的な女の子。汐が、誰かと付き合う。そのシチュエーションが、嫌に現実味を帯びて想像できてしまったのだ。
汐に好きな人ができて、俺から離れていく。それはまだ、現実になっていないのに、想像しただけで胸がずきずきと痛んだ。俺はできるだけ今の関係を壊すまいと努力したけれど、汐と暮らすようになって、どんどん汐の魅力を知っていって。もう、前と同じように接するなんてできなかった。だからある日、俺は悠華に相談することにしたんだ。
その日、俺は汐に用があるからと言って先に帰ってもらった。そして、誰もいなくなった教室に、悠華を呼び出したんだ。
「で、さ。話があるって言ってたけど、話って?」
「悠華、どうしよう。俺、汐のこと好きになったのかもしんない。」
「ふーん。そうなんだ……ってはぁ!?え、い、今さら何言ってるんですか、この人」
「いや……、だからさ……」
「うん、まぁ、落ち着け。けいちゃんがゆうちゃんのこと大好きなのは昔からだよ。まさか、それが相談の内容だなんてことないよね?」
「そんなことはないと思うが……。」
「いや、ラブレターの処分とか好きでもなかったらやらないでしょ、普通。いや、普通はそもそも人に宛てた手紙を勝手に捨てるなんてことしないと思うけどさぁ。」
「その節はご迷惑を……。」
「まぁ、いいわ。……ってそういえば、けいちゃん、今ゆうちゃんと住んでるんだっけ。もしかして、無理やりやっちゃったとか?」
「おい!人を犯罪者呼ばわりするなよ!まだしてないぞ!」
「まだってことは、これから間違いが起こるかもしれないってこと?」
「いや、耐える。耐えたい、耐えれたら、いいなぁ……。」
「そこは自信持って断言しようよ。そんなに好きなら告白したら?」
「いや、でもさ……。今告白したら遠回しな脅迫じゃないか?」
「うーん。別にゆうちゃんもけいちゃんのこと嫌いじゃないと思うし、問題ないんじゃない?」
結局、その日はこんな感じで終わってしまって、もやもやしたものを抱えながら家に帰ったんだ。でも。家に帰っても、汐はそこにいなかった。
夕方、雨が降りだした。それでも、汐は帰ってこない。そのまま、夜ご飯の時間が近くなっても帰ってこなかった。俺は、心配になって汐のスマホに電話を掛ける。
…………汐は、電話に出なかった。もう一度掛ける。すると、今度は少しして繋がった。
「汐!?汐か!?」
繋がるや否や、叫ぶようにしてそう問いかける。電話の相手は少し驚いたような、間延びしたような汐の声で返答した。
『う、うん。そうだけど……』
「無事か!?今どこにいる!?」
『え、ねぇ、けいちゃん?何があったの?』
「何があったの、ってお前なぁ……。今何時だと思ってるんだ……。みんな心配してる。早く帰ってこいよ。」
『ごめんなさい……。それでも、私は帰れないわ。』
「は!?なんでだよ!?」
『だって、私がいたら迷惑になるわ。もう、これ以上迷惑掛けられないもの。……本当にありがとう。夢みたいな時間だったわ。でも、もうおしまい。』
「潮のことは迷惑なんかじゃない!迎えに行くから今どこにいるか――っておい!汐!?汐!?」
俺が全て言い終える前に、電話が切れたことを示すツー、ツーという音が無慈悲に流れる。
「くそっ!」
俺は慌てて家を飛び出して、汐を探し始めた。悠華と親にも連絡して、汐の捜索を手伝ってもらえることになった。