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戦争と兄妹  作者: KAIN
第一章:開戦と兄妹
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第九話

「……ふ ふざ、けるな……!!」

 僕は、妹に向かって、掠れたような声で言った。

「お お前……お前……っ!!」

 ぎりり、と歯ぎしりする。

 怒りなのか、それとも恐怖なのか……訳の解らない、それでも強い感情だけがこみ上げて来る。

 僕はその感情のままに手を伸ばし、妹の服の胸ぐらを掴んで、ぐいっ、と引き寄せた。

「お前、自分が何をしたか解ってるのか!?」

「……ん?」

 僕は、怒鳴りつけたけど、妹は、きょとん、とした顔だ。僕に胸ぐらを掴まれている事も、まるで意味がよく解っていない、という様子だった。

「何の話だ? 兄様?」

 妹が、のんびりした口調で言う。

「とぼけるなっ!!」

 僕は叫んだ。

「お前……お前がした事は……っ」

 僕はそこで言葉を一瞬途切れさせる。

 言いたくない。

 だけど……

 言わなきゃいけない。

 そうだ。

 コイツが……

 この妹が、した事は……

「殺人……」

 ぽつりと呟く。

 そうだ。

 こんな恐ろしい、今の今まで、自分の人生で、無縁だと思っていた言葉を、まさか口にする日がくるなんて……

 しかも……その相手が……

 その相手が、妹だなんて……

 僕は、涙が出そうになった。

 それでも……

 それでも、僕は強い口調で言う。

「殺人だぞ!?」

 僕は、怒鳴りつけた。


 しばしの沈黙。

 ややあって……

「そうだな」

 妹は、のんびりとした口調で言う。

「……そうだな……って、お前……っ」

 僕はぎりっ、と歯ぎしりする。

「だがな、兄様」

 妹が、またのんびりと言う。

「あいつらが、兄様に何をしようとしていたのか、気がつかなかった訳じゃ無いだろう?」

「っ!!」

 その言葉に、僕は一瞬、息を呑んだ。

 妹が、僕の顔を見ていた。

「あいつらが、兄様に、何をしようとしていたのか――」

 妹が、一言一言、区切るように言う。

 僕はその言葉に、一瞬……

 一瞬、あのオブジェ近くに倒れている青年の方を見る。

 彼が、何をしようとしていたのか。

 否。

 彼が、僕に対して、何をするつもりだったのか。

 僕は……

 僕は、気づいていた。

 そう……

 彼は……

 あの青年は、あの時――僕に……

 僕に、何をしようとしていた?

 そして……

 僕は……

 僕は……

「気がつかなかった、という訳じゃ、無いだろう?」

 妹が、またしても区切るように言う。

「それ、は……」

 僕は呟く。

 妹の胸ぐらを掴む手が、するり、と離れる。

 そう。

 僕は、見た。

 はっきりと、見たんだ。

 あの青年が……僕に……

 僕に、何をしようとしていた。

 そう。

 あの時――

 彼は……

 彼は……僕に……

 僕に、銃を……

「どうして……」

 僕は呟いた。

 そうだ。

 どうして、僕が……

 僕が、見ず知らずの他人に、いきなり銃を向けられなければいけないんだ?

 僕は、妹の顔を見る。

「……お前は……その……」

 僕は、妹に問いかける。

「その……知っているのか?」

 妹は、僕の顔を見ていた。

「どうして、僕が……あんな風に、命を……」

 命を……狙われるのか。

「……それは……」

 妹が、口を開く。

 だけど、それよりも早く――


「いたぞーっ!!」


「っ!?」

 男の声に、僕は思わず振り返る。

 人だ。

 駅舎の中、恐らくは逆側の出入り口の方から、沢山の人がこちらに向かって走って来る。

 その人の群れの先頭に立っているのは……

「あそこだ!! あそこにいるぞっ!!」

 一際大きな声が響く。そのおかげで、その人物だけが目立っていた。

 立っていたのは、青い制服に身を包んだ長身の男性。

 警察官だ。

「警察……」

 僕は小さく呟く。

 そうだ。

 警察だ、警察に連絡しないと。僕は、周りの人達の死体を見る。

 彼らは……僕を殺そうとしていた。どうしてなのかは解らない、けれど、間違い無く、僕を殺そうとしていたんだ。

 当然、まずは誰かに――警察に助けを求めるべきだろう。

 妹の方を見る。

 コイツのした事は、もちろん許される事では無い。

 だけど……

 コイツは、僕を守ろうとして、あんな事をしたんだ。ちゃんと話せば、きっと解って貰えるだろう。

 僕は手をあげ、走って来る人達をこちらに呼ぼうとした。

 だけど……

 がしっ、と、その手を横から誰かが押さえつけた。

 妹だ。

「……おい」

 僕は、妹に言う。

「何してるんだよ?」

「兄様こそ、何をしているんだ?」

 妹が、鋭い口調で言う。

「何をって……今は誰かに助けを求めるべきじゃないか?」

 僕は言うけど、妹は首を横に振る。

「兄様、悪いが今、兄様の事なんか誰も助けない、この私以外はな」

「……どういう事だよ?」

 僕は問いかける。

「今は、それを話している暇は無い、とにかく、一緒に逃げよう、兄様」

「……」

 僕は何も言わない。

 妹は、僕の顔をじっと見つめた。その表情は、普段のコイツからは想像も出来ない程に真剣なものだった。

「頼む、兄様」

 妹が言う。

「今は、私を信じてくれ」

 僕は、何も言わない。


 信じる?

 コイツを?

 僕は、自問する。

 つい今し方、沢山の人を銃で殺した、この狂った少女を?

 信じろ――っていうのか?


 僕は、妹の顔を見る。

「……兄様」

 妹が言う。

 僕は、また黙り込んだ。

 僕の手首を、ぎゅっ、と、痛いくらいの力で握りしめる妹。

 だけど……

 だけど……

 その手が、微かに……

 微かに……震えていた。

「……」

 僕は、妹の顔をもう一度見る。

 妹の目が、不安げに揺れていた。

 そうだ。

 僕は、自分に言い聞かせる。

 コイツは……

 コイツは……僕の……

 僕の、妹なんだ。

 どんな事があっても……

 何をしても……

 僕の……

 たったの一人の……妹なんだ。

 僕は、ゆっくりと……

 ゆっくりと、息を吐いた。


「……解った」

 妹に向けて、小さく言う。

「今は、お前を信じるよ」

 しばしの沈黙。

 そして……

「ありがとう、兄様」


どうもこんばんは~^^


KAIN(カイン)です。


まずは「犬たちは~」の方、ブクマ10件、ありがとうございます^^

こちらの方にもそれなりにブクマが増えている様で、重ね重ねありがとうございますm(_ _)m


で、今回の話。

なんか一行で行変わるの多過ぎね?

うーむ……臨場感というか引きというか……それを作る為にやっているのですが^^;

落選の理由もそんなところにあるのかな?


ともあれ、とりあえずは妹を信じる事にした雅志君。

はたして二人の運命は!?

そして雅志は何故、狙われるのか!?

次回更新で、その辺がとりあえずは明らかになります……多分^^;


では、また

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― 新着の感想 ―
[良い点] 物語の導入部分は思いっきりラブコメテイストで、たのしくワイワイキャッキャしてたのに、突然の出来事で私も雅志くんどうよう大混乱です!! なぜ雅志くんが狙われるのか!?気になる!! とにかく今…
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