第四十九話
「ぐっ……うう……」
妹の呻き声。そして……
身体を『く』の字に曲げた妹に向かって、背後から男達が手を伸ばして行く。そして男達が妹の手首を掴み、ぐいっ、と引っ張る。
「は 離せっ!!」
妹が叫ぶ、だけど男達は止まらない、背後から首に腕を回し、妹の身体が持ち上げられる。
妹はジタバタと藻掻いて、唯一自由に動く足で男達を蹴飛ばしたりするけれど、男達はやはり眉一つ動かさない、そればかりか妹の足首を掴んで、左右に広げさせた。
「や 止めろ!!」
妹が叫ぶ。
そのまま男達は、妹の制服に手をかける。
「い 嫌だっ!!」
妹が叫ぶ。
ビリビリと布が裂ける音、そして男達が妹に群がり始める。
そのまま妹の姿は、群がった男達の背中で見えなくなってしまった。
それでも。
それでも、妹が……
妹が、何をされているのかは……
「い 嫌だ、離せっ!! 離してくれ!! 私の、私の初めては兄様に……!!」
「……っ」
僕は、ぎりり、と歯ぎしりした。
背後から僕の身体を押さえつける大男の身体を、無理矢理振りほどこうとするけれど、男の身体はびくともしない。
僕は、自由に動かせる首だけを何とか動かして、背後にいるガスマスクの女を睨み付ける。
「止めさせろ!!」
僕は叫んだ。
「お前の狙いは僕だろう!? 妹は……」
僕は、ぎりっ、と歯ぎしりする。
「玲奈は、もう関係無いはずだ!! だから……」
僕は言う。
そうだ。
妹は……
妹は、何も……
何も、関係無いのだ。
僕は……
僕は、今になって……
その事を、思い出した。
女が、すっ、と。
右手を上げる。
一人がそれに気づいて、ぴたり、と動きを止める、それに合わせて、他の男達もみんなそれぞれ動きを止め、さっきまで妹の身体を掴んでいたり、服にかけていた手を離した。
どさり、と音がした、多分妹が、地面の上に落ちたのだろう。
「確かに」
マスクの女が言う。
「私の目的は、貴方一人だけ、貴方が私と一緒に来てくれれば、これ以上妹さんに手は出さない、と約束しても良いわ」
マスクの女が告げた。
僕はその女の顔を、じっと睨み付ける。
この女の言葉を、何処まで信用して良いのか、それは解らない。
だけど、今は……
今は、こいつの言葉を信じるしか無い。
でも。
「玲奈と……」
僕は言う。
「妹と、二人きりで話をさせてくれ、ほんの数分で良いんだ」
その言葉に。
マスクの女は、僕の身体を押さえている男に向かって、またすっ、と右手を横に振って見せた。
それを見た男が、ゆっくりと僕の身体を押さえる手を離した。
僕は、ふらふらと立ち上がり、そのまま妹に向かって走る。
大男達は、まだ妹を取り囲んではいたけれど、妹に駆け寄る僕を見ても、まるで人形のようにその場にじっと佇んでいるだけだ、それがより一層不気味ではあったけれど、今はそんな事より、妹の方が先だ。
僕は、妹に駆け寄った。
「玲奈!!」
立っている男達を押しのけて、僕は妹に向かって叫んだ。
妹は……
アスファルトの上に、力無く……
力無く、横たわっていた。
「……っ」
その妹の姿を見て、僕はまたしても歯ぎしりした。
周りの男達を見る、何人かが、引き千切られた妹の制服の一部と思われる布を、手に持っている。
よくも。
そういう感情と同時に、僕の心に生まれたのは……
妹に対しての、深い謝罪だった。