第四十八話
「殺すだなんて」
マスクの女は、妹に銃を突きつけられながらも、動じた様子も無く、飄々とした口調で言い、クスクスと笑って見せた。
そして。
「そういう怖い事を言う娘には、『お仕置き』が必要ね」
そして。
女は、すっ、と。
右手を上げた。
そして。
「さあみんな」
女が言う。
「その娘に、『お仕置き』をしなさい」
そして女が。
すっ、と右手を振り下ろす。
その言葉と同時に……
男達が、ゆっくりとした動きで妹に近づいて行く。
一人が、妹の前に立ちはだかる。
「退けっ!!」
妹は言いながら、銃の引き金を躊躇う事無く引いた。
乾いた銃声。
そして……
妹の前に立ちはだかる男の額に、銃弾が命中し、男が大きく身体を仰け反らせた。
額から血が噴き出し、その男は倒れる……
僕は、そんな光景を想像した。
そうだ。
今までだって、何度も見てきた光景、銃で撃たれた人間は、皆……
皆、そうなるのだ。
僕は、そう思っていた。
だけど……
だけど……
妹に、額を撃ち抜かれたその大男は……
その場に、どん、と足を踏ん張り……
そして……
仰け反らせた身体を、まるで……
まるで、何かで引っ張られたみたいに……
真っ直ぐに、立て直す。
「な……!?」
妹が、驚愕に目を見開く。
それが、一瞬の油断を生んだ。
妹を囲む様に建っていた大男達のうちの一人が、ぬうう、と手を伸ばした。
まるで大蛇の様に音も無く伸びた手が、妹の銃を握りしめる手首をがっ、と掴み、そのままぐいっ、と横に引っ張った。
「ぐうっ……」
妹が呻く。
男はそのまま引っ張った妹の手首をぎりり、と捻る。
「うっ、うう……」
妹が呻きながら、手に力を込める、だけど。
どんどん強く腕を捻られ、ついに……
ついに妹は、銃を取り落とした。
「玲奈っ!!」
僕は叫んで、妹の方に駆け寄ろうとした。
だけど。
がっ、と。
背後から頭を鷲掴みにされ、そのままだんっ、とアスファルトの上に身体を押さえつけられる。
「うぐっ……!!」
僕は呻いて、目だけを動かしてそちらを見る、さっき僕を、あのマスクの女の前まで連れて来た、あの大男が、僕の身体を押さえつけていた。
「は 離せっ!!」
僕は叫んで身をよじるけれど、大男の手は巌の様にびくともしなかった。
「兄様っ!!」
妹が叫ぶ声。
慌てて男の手を振りほどこうとするが、やはり大男の手はびくともしない。
そして……
妹の眼前に、さっき額を撃ち抜かれた大男が立ちはだかる。
「玲奈っ!!」
僕はもう一度、妹に向かって叫んだ。
だが妹の姿は、大男の背中に阻まれて見えない、そして……
大男が、握りしめた拳を、妹に向けて繰り出す。
ぼすんっ!!
と。
鈍い音が、響いた。




