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戦争と兄妹  作者: KAIN
第四章:激闘と兄妹
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第四十七話

 どさり、と。

 車の外に放り出される、妹が車内から何かを叫んでいるのが聞こえたけれど、その妹の声も、すぐに聞こえなくなる、多分妹も、車外に引きずり出されてしまったのだろう。

「……っ」

 僕は歯ぎしりしながら、立ち上がって妹の方に走り寄ろうとした、だけど……

 がっ、と、背後から、頭や腕を掴まれ、僕の身体はだんっ、とアスファルトの上に叩きつけられる。

「ぐっ……」

 僕は呻いた。そのままぐいっ、と頭だけを引っ張られ、強引に正面を向かされる、あの女が……

 ガスマスク姿の、背の高い女がこちらをじっと見ていた。

 僕は、ぎりっ、と歯ぎしりしてマスクの女を睨み付けていた。

 そのまま、女が顔を少しだけ上げ、他の方を向いた、僕を押さえつけている連中に向かって、微かに頷きかける。

 そのままぐいっ、と身体を持ち上げられ、僕は女の前にどさり、と放り投げられる。

 僕は女を一瞥した後で立ち上がり、妹の方に向かおうとした。だが……

 妹の方を振り向いた時、背後からぴたりと何かが首筋に押し当てられる。

「っ!?」

 僕は目だけを動かして、そちらを振り返る。

 ガスマスクの女が、無言でこちらを見ていた、そして……

 その手に握られた無骨な金属の塊、それはどうやら、建設現場などで使われる釘打ち機の様だった、だがそこには、釘の代わりに、毒々しい色の液体で満たされた注射器が取り付けられている、女が引き金を引けば、中の液体がこちらに注射される、という仕組みだろう。

 僕はマスクの女の顔を見る。相変わらずマスクに覆われていて、その顔は解らない、それでもこの女が、何を言わんとしているのかは解る、動くな、という事らしい。

 僕は女から視線を逸らして正面を見る、この位置ならば、ちょうど僕が引きずり下ろされた場所とは逆側、つまりは運転席の横が見える、僕はそこにいるであろう妹の方を見る。

 だけど……

 そこには、数人の大男達が、妹を囲む大きな柱の様に佇んでいる、いずれもがこちらに背を向けているせいで、顔は見えないが、きっと妹を見下ろしているのに違い無い、妹がどうなっているのかは解らないが、男達の立っている足の隙間から覗いている妹の脚だけが、そこに妹がいる、という事を物語っていた。

 僕は、女を振り返る。

「妹は……」

 僕は言う。

 そうだ。

 妹は、もう……

「妹は、もう関係無い、離してやってくれ」

 僕が言うと、女は黙って、こちらにマスクに覆われた顔を向けた。

「それは」

 女が言う。

 マスク越しでも解る、甲高いけれど綺麗な声だった。それでも僕は、妹の声の方が好きだったけれど。

 女はそんな僕の考えなどは気にした様子も無く続ける。

「貴方次第ね」

 女の言葉に、僕は何も言わない。ただ黙って……

 黙って、女の顔を見ていた。

「私と一緒に来て貰うわ、それがあの子を解放する条件」

 女が言う。

 僕は……解った、と言いかけて口を開いた。

 だけど。


「ダメ、だ」


 声がする。

 妹だ。女が立っている男達に、軽く右手を振って見せる。

 立ち並んでいた男達が、すっ、と左右に別れ、妹の姿がはっきりと見えるようになる。

 妹は起き上がり、銃を構えていた。

「……兄様に、手出しはさせない、お前は……」

 妹が言う、引きずり出された拍子に、多分抵抗して殴られるか何かしたのだろう、妹の右の頬は、少し赤くなっていた、見えないけれど、身体も殴られたのかも知れない、制服が微かに乱れている、よほど辛い思い、そして……

 そして、怖い思いをしたのだろう、銃を構える妹の手は……

 微かに……

 微かに、震えていた。

 それでも妹は、マスク姿の女を睨み付けて銃を構える。

 だけど……

 銃持っていない方の手は、腹の辺りをしっかりと抑えていた、きっとそこを……

 そこを、殴られたのに違い無い。

「……っ」

 その妹の姿を見て……

 僕は……

 僕は……

「お前は……」

 妹が言う。

「私が……」

 妹が、銃をマスクの女に向ける。

「殺してやる」


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