表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦争と兄妹  作者: KAIN
第三章:過去と兄妹
42/51

第四十二話

「ふん」

 真田が、鼻で笑って僕を見る。

「まだそういう目が出来るのかい? 余裕だなあ?」

 真田が言う。

「堂本君よお?」

 そして。

 ぼすんっ、と。

 今度は腹に、真田の靴の爪先がめり込んだ。

「ぐっ……」

 僕は呻く、身体が自分の意志とは無関係に『く』の字に曲がってしまったけれど、それでも僕は真田を睨めつけていた。これしきが何だ、この『戦争』が始まり、あの『蜘蛛』にワイヤーで首を絞められた時の苦しみに比べれば……

「ふん」

 真田も、さすがにもう幾ら殴っても、僕が堪えない、という事に気づいたのだろう、鼻を鳴らした。

「いつの間にか、随分と強くなったみたいだなあ? 堂本君よお?」

「……この『戦争』が、あったからね」

 僕は、顔を上げて真田に言う。さっき銃のグリップで頭を殴られた時に、額が切れて出血していたけれど、それでも僕は気にも止めなかった。

「だがよお、どうするんだい? この状況を」

 真田が言う。

「……」

 僕は何も言わず、真田を睨めつけていた。

「妹ちゃんは、俺に蹴り飛ばされて気絶してるしさあ、お前は武器も持って無いし、そもそもちょっとでも動いたら……」

「ああ」

 僕は頷いた。

 そうだ。

 今僕は、弥生に銃を突きつけられている。少しでもこいつらに反抗する行動を取れば、弥生は躊躇い無く引き金を引くだろう。

「確かに、どうする事も出来ない、けどな……」

 僕は、じっと。

 じっと、真田を見る。

「……それが、どうした?」

 そうだ。

 それがどうした?

 例え殺されたとしても……僕は……

 僕はもう、こいつらには……

 こいつらには、屈さない。

 そう、決めているんだ。

 僕は、真田を見据えた。

「……っ」

 真田が、不快そうに眉を寄せる。

「そうかい……」

 真田が言う。

「だったら……」

 真田は、僕の後ろにちらり、と視線を送る。

「……」

 背後にいる弥生が、ぴく、と肩を震わせる気配がした。

「望み通りにしてやるよ、おい、弥生」

「……」

 弥生は何も言わない。ただ黙って……

 黙って、僕の額により一層強く銃を押し当てただけだ。

「そいつを、殺せ」

「……っ」

 弥生は、呻く。

 真田は、僕をじっと見ていた。

「……」

 僕は、何も言わないで真田を見ていた。


「残念だったなあ、堂本君よお?」

 真田が言う。

「お前は、またそいつに裏切られるのさ、あの時みたいになあ」

 真田の口元に、下卑た笑みが浮かんだ。

 僕は、何も言わない。

「あの時も、そいつは俺らの言う通りに、お前との『デート』をすっぽかしてくれてよお、あの時のお前の顔ったら……」

 真田は、小さく笑った。

「なかなか傑作だったぜえ? そして今回も、っていう事さ」

 真田は言い、視線を僕の背後にまた向ける。

「さあ、弥生、そいつを殺せ!!」

「……」

 弥生は……

 何も言わない。

「さあ!!」

 真田が苛ついた口調で怒鳴りつける。

 弥生からは、まだ……

 まだ、何の言葉も無い。

「……弥生」

 真田が、じっと弥生を見て言う。

「てめえ、俺に逆らったらどうなるのか、解ってるんだろうな?」

 真田が言い、ポケットに手を突っ込んで何かを取り出す。

「……」

 僕はそれを、黙って見ていた。

 それは……

 それは……

 小さい、スイッチの様なもの。

「……っ」

 それには、見覚えがある、木村が飲み込んでいた爆弾を爆発させた、あのスイッチと同じ物だ、僕はそれを見て、弥生の方を見る。

「……」

 弥生の顔が、青ざめていた。

 それが、熱のせいだけでは無い、という事は僕にも解った、つまり……

 つまり、弥生は……

「……っ」

 僕は、真田を睨み付ける。

「真田、お前……」

 僕は、真田に向かって言い、そのまま……

 そのまま、ふらふらと立ち上がる。

「おっと」

 真田が言いながら、僕の方に例のスイッチを向ける。

「……っ」

 僕は、真田に向かって走り出しそうになっていた足を、ぴたり、と止めた。

 ぎりり、と歯ぎしりする、そういう事か……

 僕は、理解した。

 あのスイッチ、恐らくは弥生も、爆弾を体内に仕込まれているのだろう。

 それが爆発すれば、当然弥生も死んでしまう、そして……

 そして僕は……

 僕は、それを見たく無い。

 結局の所、弥生は真田にとっては仲間でも何でも無い、こうして……

 こうして、僕に対しての人質として利用する為だけに、利用されていたのだ。

 こいつは……

 こいつは……


「……貴様は……」


 声がする。

 甲高い少女の……

 玲奈の声だ。


「何処までも、卑劣な奴だな……」


 そして。

 その声が終わると同時に……

 ばっ、と。

 玲奈が身体を起こす。


「ああ!?」

 真田が、玲奈の方を振り返る。

「てめえ、まだ生きて……」

 真田が言うよりも早く……

 玲奈の右手が、ひゅっ、と動いていた。

 そして。


 がつっ!!


 鈍い音。

「うっ……」

 真田が呻く。

 そして……

 真田の手にあったスイッチが、ぽろり、とアスファルトの上に落ちる。

 そのまま立ち上がった妹が、だっ、と走り出していた。

「くっ……」

 真田が呻いて、手に持った銃を妹に向ける。

 その時、玲奈は真田のすぐ目の前にいた。

 がしゃ、と音がして、妹の持った銃が真田の額に押し当てられる。

「貴様も男なら……」

 玲奈が言う。

「腰巾着の二人や、あの女ばかりで無く、自分の力だけで兄様を殺してみたらどうだ? 無論……」

 妹が、にやり、と笑う。

「私を殺さなければそれは不可能だがな、それも、下らない策略で他人を利用してでは無く」

 妹が、真田に向かって言う。

「……自分の力だけで、なあ」

 そして。

 妹が、銃の引き金に指をかける。

 真田も、ぎりり、と歯ぎしりし、そして……

 二人は、同時に銃の引き金を引いた。


 乾いた銃声。

 そして……

 どさり、と。

 倒れ込んだのは……

 真田の方、だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] そうか……弥生ちゃんの体の中に……。 弥生ちゃんの中にもやっぱり真田の言いなりになって雅志くんを殺してしまうのは抵抗があるってこと、ですよね!?そう思いたい!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ