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戦争と兄妹  作者: KAIN
第三章:過去と兄妹

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第四十一話

 気配が、した。

 人の気配。

 誰かが、いる。

 僕の背後に……

 誰かが。

 それが誰なのか、確かめる暇も無く。


 がしゃ。



 聞こえたのは、微かな金属音。

 次いで、ごり、と。

 後頭部に、何かが押し当てられる。

「動かないで」

 聞こえたのは、静かな声。

「……っ」

 その声に、僕は……

 僕は、覚えがある。

 その声は。

 その、声は……

「……っ」

 僕は、ゆっくりと……

 ゆっくりと、背後を振り返る。

 そこに立っていたのは。

「……弥生」

 僕は、その名前をぽつり、と呟く。

「……」

 弥生は、何も告げる事無く。

 僕を、睨む様な目で見ていた。その目は……

 その目は、いつもいつも……

 真田を始め、当時のクラスメイト達が、僕に向けていたものと、全く同じ。

 冷たく、侮蔑を含んだ眼差しだった。


「兄様っ!?」

 妹の声がする。

「おいおい」

 声がする。真田の声だ。

 僕は、慌てて顔を正面に戻す。

 いつの間にか妹のすぐ眼前に立っていた真田が、妹に侮蔑の笑みを向けていた。

「戦いの最中に余所見をするものじゃないぜ? お嬢ちゃん、よおっ!!」

 ぶんっ、と音がして、真田の右足が動き、妹の脇腹を……

 僕のハンカチが巻き付いたままの、妹の右の脇腹に、爪先をめり込ませた。

「ぐっ……」

 妹が微かに呻く。そのまま真田の放った回し蹴りに、妹の身体が横に蹴り飛ばされる。

「玲奈っ!!」

 僕は叫ぶ。が、妹からは何の言葉も無い。蹴り飛ばされた妹の右の脇腹から、赤い血がぶしゅうっ、と噴き出すのが見える。

 そのまま玲奈の身体が、どさり、と倒れる。

「玲奈!!」

 僕は大声で呼びかける。だけど……妹からは言葉が無い、そのまま蹴り飛ばされた玲奈は、再びアスファルトの上に倒れたまま動かなくなる。

 どろり、とした赤黒い血が、アスファルトの上に流れる。

「真田……!!」

 僕は立ち上がろうとした。

 だけど……

「動かないで」

 声が、背後からかかる。弥生だ。そのまま再び強く銃口を押し当てられる。

「……っ」

 僕は歯ぎしりする。

 彼女に……

 この女に、銃を押し当てられていては、妹を助けには……

「おいおい」

 声がする。

 真田の声だ。

 僕は顔を上げ、真田の声がする方を睨み付ける。

「今は、妹ちゃんよりも、自分の心配をした方が良いんじゃないか?」

 僕は何も言わない。黙って真田の顔を睨み付ける。

「おいおい」

 真田の口元が、微かに歪んだ。

「俺に対して、そういう怖い顔をしたら、どうなるんだっけかな? 堂本君よお?」

「……」

 その言葉にも、僕はもう何も言わない。

 ただ、黙って。

 黙って、真田を睨み付けていた。

「……ふーん……」

 真田がそれを見て、またしてもにやり、と笑う。

「どうやら忘れちまってるみたいだから、思い出させてやるよ」

 微かに笑って、真田が言う。

 そして。

 真田が、手に持っていた銃をぶんっ、と振り上げる。

 そのままグリップ部分を、僕の額に叩きつける。

「っ!!」

 声にもならない声が口から漏れ、ばっ、と赤黒い血が、額からしぶくのが解った。

 意識が一瞬、朦朧としかける。

 それでも……

 それでも、僕は……

 真田を、しっかりと……

 しっかりと、睨み据えていた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 弥生ちゃん……なんで真田なんか(; ゜Д゜) 私はまだどこかで弥生ちゃんは本当は優しい子で、真田に弱みを握られて利用されているのでは?とか考えていました……だから、よけいに!悔しい!!!!…
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