第三十七話
どう……
と。
妹の身体が、鈍い音と共にアスファルトの上に倒れる。
「……」
僕は、何も言わない。
ただ……
ただ、黙って……
妹を、見ていた。
「……」
倒れた妹を、見る。
じっと、見る。
妹は、動かない。
「……」
僕は、何も言わない。
まさか。
そんな事は無い。
そんな事は、あり得ない。
今まで、妹は同じ様な目に何度も遭ってきた。
あの廃工場で、沢山の人と戦っていた時。
あの廃工場が、『蜘蛛』の爆弾で爆破された時。
ここに来るまでに乗っていた、あの車に沢山の手榴弾が投げられた時。
そう。
妹は、そのたびに……
そのたびに、生き残って。
何事も無かった様に、けろりと僕の前に現れて……
そして、僕を守ってくれた。
僕を殺そうとする者達を……
殺してくれていた。
『兄様』、と。
いつもと何も変わらない口調で呼びかけてくれていた。
「……」
今回も……
今回も、それと同じだ。妹は……
妹は、すぐに立ち上がる。そして……
そして、いつもみたいに……
いつもみたいに……
『兄様』、と。
僕に呼びかけて。
あの……
あの、いつもと何も変わらない笑顔を……
僕に……
僕に、向けてくれる。
そのはずだ。
そのはずなんだ。
その……はずだろう?
「……玲奈」
僕は、妹に呼びかける。
だけど……
仰向けに倒れた妹。
手にしっかりと、銃だけは握ったままだけれど……
その銃を、何度も何度も撃って来た妹の両腕は……
アスファルトの上に、力無く投げ出され……
そして……
「……」
いつも……
いつも僕に笑いかけていてくれた妹の顔は……
今……
今、紙のように真っ白で……
そして……
そして……
そして……
妹の……右の脇腹。
白いセーラー服。
その脇腹部分に……
真っ赤なシミが、出来ていた。
それは……
それは間違い無く……
「……血」
僕は呟く。
そして。
妹の……身体の下に……
赤黒い円が、じんわりと……
じんわりと……広がって行く。まるで……
まるで妹の命が……
そこから……流れ出て、広がっているみたいに。
「……玲奈」
僕は、もう一度呼びかける。
だけど……
妹は、動かない。
「玲奈……」
僕は、さらにもう一度呼びかける。
「玲奈」
今度は、少し大きい声で。
だけど……
やはり妹は、ぴくりとも動かない。
「玲奈、おい、玲奈……」
さらに、もう一度。
だけどやはり返事は無い。
身体が震える。
足が、ガクガクと震えて、立っていられない。
「玲奈っ!! おい!! 玲奈っ!!」
大きい声で、怒鳴る様に呼ぶ。
それでも妹は動かない。
「っ!!」
僕は、弾かれた様にその場から走り出した。