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戦争と兄妹  作者: KAIN
第三章:過去と兄妹
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第三十六話

「なあ、良いだろう?」

 真田がにやついて言う。

「俺らに殺されろよ、堂本くーん」

 真田が、さらに言う。僕は黙ったままで、真田の言葉を聞いていた。

「殺されてくれたらさあ、とりあえず……」

 真田は、そこでははは、と声をあげて笑った。

「とりあえず、あんまし痛くしないでやるからさあ」

 ひひひ、と。

 真田が笑う。

 釣られた様に、後ろに立ったままの木村も小さい声で笑う。

「そうそう」

 木村が言う。

「俺らに殺されてくれよお、堂本ぉ」

 僕は何も言わない。

「ああ、ついでに……」

 小さく笑いながら、木村が思い出したように言う。

「そこの可愛い妹ちゃんも、なあ?」

 木村がそう言って、妹に顔を向ける。

「っ」

 僕は一瞬、木村と妹との間に立ちはだかろうとした、こんな奴らが……

 こんな奴らが、僕の妹に目を向けるなんて、僕にはそれだけで我慢がならない。

 だけど。

 僕が歩き出すよりも速く。


 ぱあんっ!!


 再び……

 銃声が、轟いた。

 その次の瞬間。

 木村の頭から、ばあっ、と血が噴き出す。

 そして。

 そのままどう、と、木村の身体が倒れる。

「ごちゃごちゃと五月蠅い奴らだ」

 銃を撃った本人。

 つまりは妹が……憎々しげに吐き捨てる。

「私がいる限り、貴様ら風情に兄様を傷つけさせたりはしない」

 くるり、と。

 妹が、銃を真田に向ける。

「さあ」

 妹が、真田に言う。

「殺してやるからさっさと来い」

 妹が、告げる。


「……やれやれ」

 真田が肩を竦める。

「怖い妹ちゃんだなあ、兄貴として、もっとちゃんと教育するべきじゃ無いのか?」

 真田が、僕を見る。

「堂本君よお?」

 僕は何も言わず、黙って真田の方を見ていた。

「……生憎と」

 妹が言う。

「兄様の教育は素晴らしいさ、私は常に兄様を愛し、兄様を想い、兄様の事だけを考えろ、と教育されている、他の人間には関心を示すな、ともな」

「……」

 勿論僕は、妹の事をそんな風に教育してはいない。

 そして。

「……解ったのならば、さっさと殺されろ、私と兄様の愛のドライブデートを、これ以上邪魔するな」

 そして妹は、銃の引き金に指をかけた。

 だけど……


「……そういうわけには行かないな」

 真田が言い、がしゃり、と。

 銃を構える。妹が持つ銃とは違い、かなり大きくて強力そうな銃。

 僕は思わず身構えていた。

 そして。

 真田が、銃の引き金に指をかける。

「兄様っ!!」

 妹が叫び、僕に飛びかかって来る、ちょうどあの駅前広場と全く同じだ。

 そのまま僕は、妹に飛びつかれ、どさり、とその場に倒れた。銃声が轟き、熱い塊が頭の上を飛んで行くのが解った。

 そして。

 顔を上げた妹が、銃を撃つ。

 だけど……

 真田は倒れる様子も無い。僕を倒した不安定な姿勢から放った銃弾は、どうやら真田には命中しなかった様だ。

 妹が立ち上がる。

「兄様っ!!」

 妹が言う。

「離れるぞ!!」

 叫びと共に、僕は走り出す。妹も真田に油断無く銃を向けながら、バックステップで距離を取る。

 真田はニヤニヤしながら銃を撃つ。

 僕達の足下で銃弾が弾ける。

 僕は、さらに後ずさった。

 妹も、僕にぴったりとくっつこうとして。

 だけど……

 その瞬間。


 があんっ!!


 再び銃声が轟く。

 僕と寄り添っていた妹が、ばっ、と背後に飛び退く。僕と妹の間を、銃弾が通り抜ける。

 そして……

 妹が着地したのは……

 今し方殺害した……

 木村の遺体のすぐ側。

「……」

 僕は、真田の方を見る。

 その口元に……

 微かに、笑みが浮かんでいた。

「……」

 僕には……その笑顔は見覚えがあった。

 そうだ。

 僕を……

 僕を、虐める時に……

 よく、見せていた笑顔。

 そうだ。

 どうすれば……

 どうすれば、僕を追い詰められるか。

 どうすれば、僕を傷つけられるか。

 そういう事を、考えている時の……

 そんな笑顔。

 そして。

 その笑みを浮かべる真田の手に……

 何か、小さい黒い物が握られていた。

 銃、とは違う。何か……

 何か、丸い……

 丸い、ボタンの付いたスイッチの様な。

 スイッチ……

 スイッチ。

 スイッチ……?


「っ!?」


 僕は微かに息を呑む。

 そうだ。

 そのスイッチには見覚えがある。

 そう。

 あの『蜘蛛』が、あの工場を吹き飛ばした、あの爆弾のスイッチ。

 あれと……全く同じ形状のスイッチ。

 だけど……

 だけど……

 爆弾なんか、一体……

 一体、何処に?

 それを考えていた時だった。


 かち……


 微かな音。

 真田が、スイッチを押したのだ。

 そして……

 次の瞬間。

 僕は、見た。

 妹の方を見た。

 否。

 正確に言えば。

 その妹の後ろに倒れている……

 木村の、遺体を、だ。

 ぼこっ、と。

 木村の腹が一瞬。異様に膨れ上がり。

 そして。


 ぼおんっ!!


 木村の身体が、大きな爆発音と共に吹き飛び……

 そして……

 周囲に、炎と煙がまき散らされ……

 妹の身体が……

 一瞬煙に覆われる。

 だけど……

 僕の目には……

 はっきりと……

 はっきりと、見えていた。

 妹の身体が……

 まるで……

 まるで、玩具の様に……

 吹き飛ぶ……

 その姿が……

 はっきりと、見えていた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 真田は、浅川や木村のことは仲間とか友達とも思ってなくて、ただの手下として使い捨てできるような感覚なんですね……ホント、ヤな奴!!!! 玲奈ちゃん、無事でいてーーーーっ(; ゜Д゜)
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