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戦争と兄妹  作者: KAIN
第三章:過去と兄妹
35/51

第三十五話

「おいおい」

 声がする。

「……」

 僕は、顔を上げた。

「この俺が、すぐ目の前にいるってのに、一体なあに、二人きりの世界創っちゃってるんだい? なあ?」

 そいつが言う。

「堂本君よお?」

「君の存在なんか、眼中に無いからだよ」

 僕は、はっきりとした口調で言う。

「僕は今、この妹と……それから……」

 ちらりと車の中に一瞬目を向ける。弥生の事を口にしそうになる。

 だけど……

 だけど、こいつらには言わない方が良いだろう。

「とにかく今、僕はこの『戦争』を生き残る為に必死でね、お前の相手なんかしている暇は無いのさ、解ったらとっととどっか行ってくれないか?」

 僕はそいつの顔を見る。

 中学にいた頃にさえ、こいつの顔を、こんな風にしっかりと見た事は無い。

 だけど今……

 僕はしっかりと、目の前にいる『そいつ』の顔。

 中学生の頃、僕を毎日毎日虐めていた『奴』の顔を見る。

(さな)()

 僕は、はっきりと。

 はっきりと、そいつの名前を言う。

 そいつ。

 真田と出会うのは、中学を卒業してからは初めてだけれど……

 相変わらず……

 中学生の時と、何も変わっていない下卑た笑顔。

 僕を見下した表情。

 そして……

 侮蔑を含んだ、酷く不愉快な口調。

 何も……

 何も、変わっていない。

 そして……

「……君達も、相変わらずこいつの腰巾着なのかい?」

 僕は、後ろを振り返る。

 そこに、二人の少年が立っていた。

 どちらも高校生くらいの年齢、中学の頃からがっちりとした体型だったけれど、今ではさらにがっちりとしている。

「……やあ、浅川君、木村君」

 僕は、いっそ後ろにいる二人に笑いかけてやった。

「……」

「……」

 二人は何も言わない。

 ただ黙って……

 黙って、僕と妹を見ていた。


 (さな)()(ひろ)()

 (あさ)(かわ)(ゆう)()

 ()(むら)(こう)(へい)

 中学時代、僕を虐めていた男子三人組。

 真田がボス兼ブレーンとして色々と考え、それを浅川と木村が実行、まあ、結局最後には暴力という形に落ち着くけれど……

 そんな風にして、中学の三年間ずっと……

 ずっと、僕を虐めてきた。

 そして……

「……」

 僕は車の中にまた目を向けそうになって、それをどうにか堪えた。弥生がいる事を、こんな奴らに気づかれる訳にはいかない。

 そう。

 弥生……

 僕は胸の中に、ずん、と重い物が落ちる様な感覚にとらわれる。

 弥生と約束をした時、彼女は来ず、代わりに待ち合わせ場所に来たのがこいつらだった、そしてその時に、僕を暴行したのもこいつらだ。

 そんな奴らが……

 中学の頃よりは、大分大人びてはいたけれど、中学時代と何も変わらない様子で僕の目の前にいる。


「それで?」

 僕は問いかける。

「一体何の用なんだ? さっきも行ったが僕達は今、少し急いでいるんだ」

 その言葉に……

 真田が僕の顔を見る。

 そして。

「おいおい……」

 真田が口を開く。

「おいおい、おいおい、おいおいおいおいー」

 ふざけた口調で、真田は肩を竦めて言い、そして。

「浅川」

 背後に立つ二人組の一人、浅川勇斗に命じる。

 その言葉が終わると同時に……

 たたっ、と。

 アスファルトを蹴って走り出す音。そして誰かがこちらに近づく気配。

「っ」

 僕は、ばっ、と振り向いた。

 浅川勇斗が、こちらに向かって走って来ていた。その手には……

 その手には、大ぶりなナイフが握られている。そして……

 それは真っ直ぐに、僕に向けられていた。

「っ!!」

 僕は思わず身構えていた。だけど……

 すっ、と。

 僕の目の前に、白い影が。

 セーラー服姿の少女が立ちはだかる。

 そして。


 ぱあんっ!!


 乾いた銃声が、轟いた。

 次の瞬間……

 浅川勇斗の額から、ばあっ、と赤黒い血が噴き出す。

 そのまま浅川の身体は、どう、とその場に俯せに倒れ、そして……

 そして、動かなくなった。


 僕は、真田の方を振り返る。

 真田は相変わらずの、下卑た笑みを浮かべている。

 そして。

「俺らもさあ、高校生になって、色々と物入りなんだわ」

 たった今、浅川が死んだというのに、それを全く意に介した様子も無く。

 平然と、真田が告げる。

「そんな時に、『殺人法』で殺して良い奴のリスト見ていたらさあ、とーっても懐かしい名前を……」

 そこで真田はズボンのポケットから携帯電話を取りだし、画面に例のサイトを映しながらひらひらと揺らして見せた。

「見つけちゃったって訳さ」

 真田がにやついて言う。

「……」

 僕は黙って、真田を見ていた。

「そういうわけだから」

 真田がにやついて言う。

「ちょっと、俺らに殺されてくれよ」

 僕は何も言わない。

 真田が、楽しそうに笑いながら僕の顔を見る。

「堂本君さあ」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 殺人法のサイトで雅志くんの名前を見て、こいつならいじめてたし、簡単に殺せると思ってきたんでしょうね(;´・ω・)ヤな奴!!
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