第三十一話
「……」
僕は、シートに身体を横たえて目を閉じていた。
エンジン音だけが、耳に届く。
これから、街に戻る。弥生を病院に置く為に。もちろん、それはありがたい。
だけど……
その後、僕達はどうするのだろう?
また何処かへ逃げるのか、それとも街に留まるのか。
いずれにしても、街にはきっと大勢の人がいる、あの工場の爆発を見て、こちらに向かっている人々もいるだろうけれど、その人達だってきっと、あの工場に僕達の遺体が無いと解れば、きっと街へ戻ってくるだろう、そうなったら再び、大人数との戦いが待っている。
そうだ。
結局、何も変わらない。あの『蜘蛛』を倒しても、弥生を救っても、この『戦争』は終わらないのだ、僕が……
僕が、生きている限り。
「……」
僕は、息を吐きながら目を開ける。
そう。
何も……終わらない。
結局またしても、人が死ぬ事になるのだ、僕か、妹か、あるいは僕を殺そうとする人達か、それはまだ解らないけれど……
どうすれば、この『戦争』は終わるのだろう?
どうすれば……これ以上人が死なずに済むのだろう?
解らない。
僕には……何も……
何も、解らない。
「……」
頭の上には、窓が見える。
その窓の向こうには、雲一つ無い青い空が広がっている、ぽつん、と見える黒い小さい点は鳥でも飛んでいるのだろうか?
僕も……
僕も、鳥のように空を飛ぶ事が出来れば……
これ以上、犠牲者を出す前に、空高く飛んで、何処までも何処までも逃げていけるのに……
そんな事を考えて、僕は深くため息をついた。
ふと、腕時計を見る。
時刻は、昼の十二時を少し回ったところだ、あの駅前での惨劇から、まだ二時間程度しか経過していない、という事実に、ただただ僕は驚くばかりだった。
本来ならば今頃は、僕は……妹の友達という女子中学生と、一緒に学校に見学に行って、そろそろオープンキャンパスを見終わって、今頃は昼食、というところだったのだろうか?
だけど……
『妹の友達の中学生の女子』なんていうものは、存在すらしていなくて。
僕の学校は、オープンキャンパスなんかやってもいなくて。
そして……
僕は……
僕は今……
『戦争』に巻き込まれて、命を狙われていて……
一体、いつ終わるのかも……解らなくて……
涙が出そうになって、僕はもう一度目を閉じようとした。
だけど……
「……?」
そこでふと、僕は違和感を覚えた。
空に浮かんでいる黒い点。さっき見た時は鳥だろうと思ったが……
それにしては、動きが明らかにおかしい。
鳥にしては……羽ばたいている様子も無い。
それに……
真っ直ぐに、こちらに飛んで来ている様な動きは……
「……」
僕は目を凝らし、もう一度、その黒い点をよく見る。
それは……
それは……
「……あれは……鳥じゃ無い」
僕は、思わず呟いていた。
まるでアボカドの様な形をしている『それ』は……
「っ」
僕は息を呑んだ。
あれは……
手榴弾。
その事を認識した瞬間に、僕はがばっと跳ね起きていた。
「玲奈っ!!」
慌てて運転席に呼びかける。
「解ってるさ、兄様!!」
妹が言いながら、運転席横の窓を開ける。
そのまま妹が、窓からばっ、と何かを投げつける。
僕は息を呑んで、そちらに目をやる。
妹が投げつけたのは、ナイフだった、多分この車に乗って来た、あの男性が持っていたナイフだろう。
妹が投げつけたナイフは、そのまま真っ直ぐに飛んで行き、こちらに向かって来ていた手榴弾と、空中でコツン、とぶつかり、そのままぼと、ぼと、とアスファルトの上に落ちる。
「兄様っ!!」
妹の声。
「何かに掴まれ!!」
そのまま僕の返事も待たず、妹はぐんっ、とアクセルを踏み込む。僕は咄嗟に、運転席の背もたれにしがみついた。
次の瞬間――
轟音が、すぐ背後で轟き……
車の周囲が、白い光に包まれた。




