第二十三話
僕は……
堂本雅志は、『虐め』を受けていた。
理由なんか解らない。
とにかく、昔から僕はそうだったのだ、小学校の頃、あるいは保育園の頃から、ずっと……
ずっと、みんなに虐められ、友達と呼べる存在は、一人も出来なかった。
中学生となった現在も、それは変わらない、むしろ今までは、悪口を言われたり、物を隠されたりするだけだった『虐め』に、『暴力』というものが加わったという感じだ。
今の様に、机や椅子の上に刃物を置かれたり、それを取り除けば、今度はさっきのような暴力だ。
いくら訴えても無駄だ、どういうわけか周りの大人達はみんな、僕が虐められている瞬間の風景が、全く目に見えていないらしい。
そして結局、同じ事が繰り返されるだけ……
クラスの奴らも、助けてはくれない。
そうして僕は……
いつもいつも……
クラスメイト達に殴られ、暴力を振るわれ、こうして床に這いつくばるだけだ。
「……っ」
ぎゅっ、と拳を握りしめる。
いつまで……
こんな事が続くのだろう?
ずっと、続くのだろうな、高校に行っても、大学へ行っても……
もちろんこんな事は、家族にも相談していない。
両親も、妹も、絶対に心配するだろう。
自分一人で、解決するしか無いんだ。
もっとも、どうすれば良いのかは解らないけど……
とにかく、今は……
今は、耐えるしか無いんだ。
僕は、息を吐いて、ゆらゆらと立ち上がった。
さっきの女子の声を思い出す、もうすぐ……担任が来る。
どうせ倒れている僕を見ても、何もしやしないで、『授業が始まるぞ』とかなんとか説教をしてくるのだ。
「……」
僕は、内心で鼻を鳴らした。
とにかく、いつまでもここに倒れてはいられない。
僕は、椅子の背もたれに捕まってふらふらと立ち上がり、椅子に腰を下ろした。
机に突っ伏して、ゆっくりと息を吐く。
目立たないようにしながら……毎日に耐える。
今の僕に出来る事は……
それしか無い……
無いんだ。
「……」
目を閉じる。
情けない。
自分でもそう思う。
だけど……どうする事も……出来ないんだ。
出来ない……
「……」
目頭が熱くなる。
泣いても意味が無いのに……涙が出そうになった。
そうして、少しの間俯いていた……
「……?」
だけど……
おかしい。
さっきの女子の言葉……
『そろそろ先生来るよ!!』
あの声は、確かにそう言っていた。
だけど……
「……」
教師が来る気配が無い。
僕が起き上がって椅子に座って、しばらく時間が経過しているのに……
担任が、来ない。
つまり……
あの女子は……?
だけど……
ややあって……
がらり、と。
引き戸が開いて、担任教師が入って来た。
「起立!!」
日直の生徒が号令する。
全員がガタガタと音をさせながら立ち上がる。
「礼!!」
全員が頭を下げる。
そうして授業が始まる。
だけど……
だけど、僕の頭から……
さっきの彼女が言った言葉が、離れる事が無かった。
一体……
一体、あれは誰だったんだ?
そして……
何故、あんな事をした?
僕は……
僕は、教室の中を無意識に見回していた。
そして……
一人の女子が、こちらを見ていた。
「……っ」
僕は、息を呑む。
彼女だ。
それが……
それが僕と、彼女……
高里弥生との、出会いだった。