第十七話
半開きになった扉の隙間からでも、もの凄い閃光が差し込み、真っ暗だった工場全体が眩い輝きに一瞬照らし出される。
地震の様な振動で、工場全体が激しく揺れ、天井からパラパラと埃のような物が落ちてくる。
そして……
もの凄い轟音が、耳をつんざいた。
耳を塞ぎたかったけれど、手に力が入らず、耳元に手が持っていけない。
ややあって……
それらの轟音や、振動、閃光が収まり……
辺りには、再び暗黒と静寂が訪れていた。
「さて」
男の声が、その静寂の中に響く。
「それじゃあ、今度は君の番だ」
「……っ」
僕はぎりり、と歯ぎしりする。
玲奈……
妹の名前を、小さく心の中で呟く。あの爆発では……さすがに……
さすがに、あいつも……
そして……
きり、と、首を絞める紐の感触が強くなる。
「……」
首の皮膚が少し裂け、血が滴るのが解る。
畜生……
僕は、悔しさに顔を歪めていた。
妹も……
僕も……
こんな……
こんな、『犯罪者』に……
「……」
せめてもの抵抗をしてやろうと、どうにか手を動かす、ブルブルと震え、ろくに動かせなかったけれど、とにかく、こいつにただ殺されるのはごめんだった、僅かにでも……何か……
何か抵抗をした、という証を示したかった。
意識が、どんどん遠のいて行く……
かろうじて、前へ突き出す様な動きをした手も、すぐに力を無くして垂れ下がる。
視界が……
黒く……塗りつぶされていく。
ダメだ……
このまま……
このまま、意識を……失うわけには……
このまま……
死んで……
たまるか……
妹の……仇を……
「……」
歯ぎしりする力も入らない……
だけど……
それでも僕は……
そいつを……
目の前の男を……
最後まで……
睨みつけ……
そして……
視界が、完全に……
完全に、黒く染まった……
「うむ」
「……っ」
声が、響いた。
もう……
もう、永遠に……
聞く事は無い。
そう、思っていた声。
「苦しみに歪んだ兄様の表情、というのも、これはなかなか……『来る』ものがあるな、何やらおかしな性癖に目覚めてしまいそうだ」
ごくり、と。
唾を飲み込みながら、巫山戯た、変態的な事を言う声。
もう十数年もの間、うんざりするくらい毎日聞いている声。
「だが……」
ソイツが……
その声の主が、言う。
「兄様に『そういう』表情をさせて良いのは、世界で私一人だけ、と決まっているのだ、悪いが……」
そんなの決まっててたまるか!!
そう怒鳴りつけそうになる。
だが今の僕には……そう怒鳴るだけの力も無い。
「貴様は、退場して貰おうか」
少しだけ、怒った様な声がする。
次いで……
ばっ、と。
周囲の暗闇よりも更に黒い影が……
男に向けて、飛びかかる。