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『名前 鳥海拓朗』『A県薄幸町出身』『東京に出てきて印刷工の仕事に就いたが、山に行ってくると言って出ていったきり、行方不明になる』『心あたりのある方はご連絡ください』
テキストの横には白黒写真が載せてあるが、写りが悪くて特徴が分からない。日野の爺さんに似ているか否かの判断もできない。
画面下にある連絡先には、電話番号のみ記されている。ネットで電話番号を晒すなんて、ずいぶん大胆だ。市外局番は03。東京。
耕太は暫し逡巡したあと、その番号にphsで電話をかけた。三コール目でつながる。
「はぁい、鳥海です」
声は掠れていて淀んでいた。辛うじて女性の声だとわかる。
「あの、すみません。ホームページを見て電話したんですが」
耕太は噛みそうになりながら、自分が薄幸町の隣、木在町の住民であることを説明した。
「鳥海拓朗さんについて教えてもらいたくて電話しました」
電話から息を吸う音が聞こえてくる。驚いているのだろう。
相手は鳥海栄子と名乗った。
「ホームページを知り合いに作ってもらったんだけど、ぜんぜん反応がなくてね。もう諦めていたところだったんだよ」
情報提供を求めるホームページは、十年近く前に公開したもので、拓朗が失踪したあと、栄子はずっと同じ場所に住んでいるとのことだった。
まず、顔の詳細がわかる息子の写真がないか聞いたが、赤ん坊のときの写真しかないという。顔の特徴も話してくれたが要領を得ない。年寄り特有の、糊がべったり鼓膜につきそうな話し方に、耕太は疲労を覚えた。
鳥海母子が杉崎村から出てすぐに上京したこと、そのとき拓朗は十五歳で印刷工の職を得て四年働いていたが、ある日突然、「山に行ってくる」と言って姿を消したことを、三十分かけて聞き出した。
phsが熱くなっている。電池も切れそうだ。一度切って充電しなくては。
耕太は最後に質問した。
「山に行くとき、だれか友達と行くとは言っていませんでしたか」
「ああ――そうだねえ。一人で山に登るなんて寂しいもねえ。もしかしたら友達と登ったのかもしれないね。――そういえば、仲良くなった人がいるって言っていたよ。同じ出身地の人だって聞いた覚えが――」
耕太の心臓がドクンと跳ねた。これだ、と思った。
鳥海栄子との電話を切ったあと、台所に直行した。両親はいない。畑にでも行っているのだろう。
耕太は家の電話で、街の郵便局に電話をかけた。鎌田につないでもらう。
「何の用だよ。おりゃあ忙しいんだよ。年賀状の組み込みやってんだから」
嫌そうな声が耳に流れてくる。だが、そんな批難を気にする余裕はなかった。
「鎌田さん、一生のお願いですから教えてください。日野の爺さんって、日野商事と関係ありますか」
「ああ、あるに決まってる。爺さんの息子が経営してるよ」
「じゃあ……日野商事って昔からあった? 日野さんの家って金持ち?」
耕太の頭は半ばパニックに陥っていた。日野の爺さんのとんでもない秘密に触れそうな予感で、胸がバクバクしている。
「金持ちだよ。昔からの大地主だ。――なんだ? 日野の家の歴史でも調べてんのか?」
「そうです。日野の爺さんの先代くらいのときから知りたいんです」
「いきなり聞かれてもわかんないよ。記録調べてみないと」
そこで電話が切られた。耕太は鎌田を信じて電話の前で待った。
信じる者は救われる。一時間後に鎌田から電話がかかってきた。
「調べたぞ。わざわざ薄幸町の局に調べてもらったんだからな。定年間近の先輩にも話聞いて――」
「ありがとうございます。鎌田さんの情報網はすごいです」
「どうってことねえよ。あーそれじゃ本題入るぞ。日野商事は、爺さんが起こした会社だな。その前は日野商店って社名になってる」
「先代がやってた店?」
「そうだ。長く続いてたみたいだが、交通事故を起こして夫婦とも亡くなったんだ。で、その二年後に、爺さんが日野商事を作ったんだ」
――交通事故を起こして夫婦とも亡くなった。
鎌田の言葉が、耳の中で再生される。
――これって、大変なことじゃないのか。
耕太の推理が正しければ、日野の爺さんはとんでもない犯罪者だということになる。
耕太の興奮は急速に収まっていった。変わりに生まれたのは、恐怖だった。




