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耕太はその後、熱を出してダウンした。翌日は何も食べずに一日中寝ていた。翌々日は、食事はできたがそれ以外の時間を寝て過ごした。そして三日目の十二月二十八日。
耕太は八時に起きて、万年床だった布団を外に干した。
――やべえ。三日間何もできなかった。
台所に行くと、父と母が朝飯を食べている。
「ああ耕太、体調はどう?」
「もう大丈夫」
食卓に着き、耕太は茶碗大盛のごはんをかきこむようにして食べた。腹が減りまくっていた。
父からも「大丈夫か」と訊かれ、耕太は頷いた。
発熱の原因は分からない。風邪ということで落ち着いたが、他の風邪症状はないのだった。
朝食をすべて平らげ、耕太が食器を下げようとすると、父が真面目な顔になって耕太を見る。
「三日前、街の工務店の前で事故があったんだ。バキュームカーと工務店の社長が接触した」
「そう。社長、死んだの?」
「死んではいない。怪我はしたが、命に別状はないみたいだ。車の作業員も軽症だった」
「ふーん」
死ねば良かったのに。そう思ってしまうのは仕方がないことだと思う。
「お前、社長がインタビューされてる番組、見てたのか」
「は? 見てないよ」
咄嗟に嘘を吐いた。
「本当に?」
探るような目で問われ、耕太は天井を仰いだ。
「父さん、俺、覚醒してないよ。多分」
そうだと思いたい。自分が怒った瞬間に、たまたまバキュームカーがスリップしただけだ。熱が出たのもたまたまだ。疲れとストレスが溜まっていたところで千夏に会えて(キスもしたし)緊張が抜けて発熱したのだろう。
「お前――知ってるのか」
父が目を大きく見開いた。母も耕太を見上げたまま固まっている。ふたりはまだ、耕太が村長と千夏から話を聞いたことを知らなかったのだ。
「話はもう聞いてるよ。村長と千夏から。覚醒しないように気を付ける」
耕太は話を切った。今は能力についてああだこうだ話をしたくなかった。それよりも調べたいことがある。
耕太は自分の畳部屋に戻り、ノートパソコンを開いた。高校入学祝に両親が買ってくれた、一万円もしない中古品だ。
ネットにつなげる。ピーヒョロロと、電子音が部屋に鳴り響く。
ダイアルアップ接続だ。いまどきあり得ないと思うが、これでしかネットにつなげない。杉崎村は辺境地だ。ADSLもケーブルテレビも使えない。
ネットブラウザで『薄幸町 日野』と検索をかける。
すぐに出てきたのが『日野商事』という会社のサイトだった。日野の爺さんの会社かもしれない。経営者の名前を探すと、『日野正太郎』とある。
――ていうか、日野の爺さんの名前知らないし。
耕太は台所に向かって、「日野さんの下の名前知ってる?」と大声を出した。
「泰造さんよ!」
母の声が返ってくる。
「ありがとう!」
礼を言ったところで、耕太は違和感を覚えた。
――泰造? マジか?
耕太は自分のPhsを探した。コンセントにささった充電器につながれていた。むしり取って、メモを開く。
『一九六四年鳥海栄子拓朗三か月で退村』
――名前が違う。
耕太の予想は間違っていたということだ。鳥海栄子が母親、鳥海拓朗が息子で、母子家庭だったのだろうと踏んでいた。そして、この母親が再婚でもして、日野姓に変わったのだと。
――同一人物じゃないのか。
名前が合致しないのだから、違うのだろう。
今度はダメ元で『薄幸町 鳥海拓朗』と検索をしてみる。
十秒以上経ってから、検索結果が出た。トップに表示されているサイトを開く。
『息子を探しています』
そのタイトルを見て、耕太のマウスを握る手が震えた。




