表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
波紋  作者: 叶 こうえ
12/20

12

郵便局員の鎌田を、熊田と表記している箇所がありました。気づいた場所は訂正しました。

 その夜、布団に入ってからだいぶ時間が経っているのに、全然眠気が訪れなかった。当たり前だ、と思う。こんな気持ちのままで気持ちよく眠れるわけがない。

「耕太、寝た?」

 廊下の方から母の囁き声が聞こえた。耕太は答えずに目を閉じた。母の足音が遠ざかるのを耳にしながら、枕元に置いてあったphsを手に取り時間を確認する。深夜三時。いつもならとっくに眠っている時間だった。

 寝返りを繰り返していると、外から車のエンジンの音が聞こえてきた。急に騒がしくなる。車は一台だけではなさそうだ。

 ガタン、と重い戸を引きずる音がしたと思ったら、パチンと電気を点ける音がした。

 耕太は布団から体を起こした。部屋の障子はしっかり閉まっていたが、穴がいくつも開いているせいで廊下から光が漏れてくる。天井や壁に水玉模様が浮かぶ。隣の部屋から人の話し声が聞こえてきたので、壁に耳を当てた。

(じゃあ私の家だけじゃないのね、リフォームしたの……)

(そうなのよ。私も騙されて……)

(それも大事な話だけど……)

(とりあえず、年が明けたら弁護士を……)

 途切れ途切れだが、会話の内容は聞き取れた。

 男の声も女の声もある。どうも、リフォーム詐欺の話をしているようだ。両親が皆を集めて、話し合いの場を設けたのだろう。こんな夜中に。

(ところで村長は……)

(あの人はもう村長辞めるっていってる……面倒みたいよ、話し合いが……)

(まあ八十路だし……)

(チカの様子はどうだ?)

(ふさぎこんでて……練習にも身が入っていない……)

そこまで聞いて、耕太は首をかしげる。今たしかに、「練習」と聞こえた。

 ――ふさぎこんでいるのは分かるけど、練習って何だ?

(冬休み中にどうにかしないと……)

(そうだな。コウタも怪しんでる。ずっと会わせないわけには……)

(血を薄めてきたっていうのに、なんで……)

 ――え? 何だ? ちをうすめて?

 耕太の頭に疑問符が浮かんだ。

 今ここで、隣の部屋の襖を開け、「どういうことだ」と問いただしたとして、彼らは真実を教えてくれるのだろうか。

 耕太は首を振った。教えてくれないだろう。予感というより確信だ。

 耕太はそっと布団から転がり出た。鴨居に引っ掛けてあるコートを取り羽織る。

静かに畳の上を歩いて、細心の注意を払って障子を開ける。廊下の電気は点いていないが、隣の部屋の襖から細い光が漏れている。

 耕太は足音を消して玄関に向かい、ゆっくり引き戸を開けた。


だいぶ真相に近づいてきました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
web拍手 by FC2
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ