中
映像には僕の姿が映っていた。
なあ、この映像ってまさかだよね。
『そのまさかさ、これは君が今の状態になるまでの映像さ』
そうか、やっぱりね。
『どうしてわかったんだい?』
いや、この日の天気だけは覚えてたんだよ、それはもう嫌味なほどの晴れだったからね。
『そうだったのか、ほら君が出てきたよ』
映像に映る僕は何か一点を見つめて歩いていた。何かを追いかけるようにも、何かを求めるようにも見えた。
そんな問題もすぐさま解決した。
『どうやら彼女の元へ走っていくようだね』
本当だ、って言っても彼女の顔すら思い出せないんだけどね。
『大丈夫だよ、この映像を見ておもい出してくれれば』
僕が走った先にいた少女は可憐で清楚な美しい少女だった。
僕は今までにないほどこの断片的に失われた記憶にイラついた時はないだろう。
『何か話しているね』
何を話しているのか聞くことはできないの?
『残念ながら』
そうか。
『君の方は残念そうじゃないね』
僕のことだから緊張して大した話はしてないだろうから問題はないよ。
『ふふ、そうかそうか』
ふはは何笑ってんだよ、失礼だとか考えないの?
『君だって笑ってるじゃないか、それにね僕は失礼だとか考えない主義なんだよ』
君は面白いね。
『君こそ』
天使は再び映像を再生した。
僕はその少女と笑いながら話した後、少女が横断歩道を渡るところを見送っていた。
真実ってまだ何も起きてないじゃないか。
『まあまあ焦っても何にもならないさ』
それも一理あるね。
天使が再生ボタンを押すと映像の中の僕は走り出していた。
少女が渡る横断歩道の端には不自然にふらつく2トントラックが迫ってきていた。
映像の中の僕は少女を突き飛ばし自ら2トントラックに跳ね飛ばされていた。喉元からは多くの血が流れ、足は不自然な方向へ向いていた。
少女は僕の体を抱きしめ泣いていた。
周りには顔見知りの近所の人々や警察が集まっていた。僕は僕自身のその姿をただ見ているしかなかった。
『これがことの結末だよ』
なるほど、これで僕は喋れないわけだ。
『そういう事』
死ぬ前の僕なかなかやるじゃん。
『そうだね、女の子を守るなんて褒められても褒められきれない事だよ』
褒めたって何も出ないよ。
『おや、それは残念』
突如として天使のポケットから軽快な音楽がなる。
『おや、電話が来たみたいだ』
誰からだい?
『僕の上司からだよ』
電話を取ると天使は丁寧な言葉で上司と話をしていた。
話をしているたびに天使の顔色は明るくなっていった。
『なあ、優くん』
どうしたんだよ改まって。
『状況が変わったんだ。選択肢が増えたよ』
それって?
『簡潔にいうと、一度だけではなく常に元の体へ戻れることになりそうなんだ』
僕は喜ぶこともできたが、それは不安によって打ち消されてしまった。
『どうだい?後者を選んで見ないかい?』
戻りたい気も山々だけど、僕の体はまた彼女に触れることはできるかい?
『できるさ』
僕は彼女と喋ってまた一緒に歩くことは?
『それは厳しいかもね』
というと?
『君の体は見てもらった通り無残な姿だ。喉もかき切れているわけだから、喋ることも困難になるだろうね』
そうか…
『もうそろそろ時間も迫ってる。残りの時間有意義に考えてくれ』
そんなこと言わなくても大丈夫だよ。
『決まっていたのか』
まあね、あの映像を見終わった時から考えていたのは一つだけさ。僕の考えは…