上
目が覚めるとそこにはただただ白い空間だった。
『やあ、ようこそ』
この少年は誰だ?
それよりも声が出ない。出そうとしても喉から空気が抜けていく。
『無理に喋らない方が良いよ。僕は君の思う事が読めるからね心の中で思ってくれれば君の質問にも返答できるよ』
何なんだこの少年、図々しいな。
『図々しいとは失敬な。こう見ても君より年上だからね、図々しくて正解なんだよ』
そんなもんなのか。
『そんなものさ』
そもそもここは一体何処で。君は一体誰なんだ?
『そんな事はまだどうだっていいさ。君ばかり質問してフェアじゃない。僕からも少しだけ質問させてもらうよ』
良いよ、質問って何?
『君は何をしてる人なんだい?』
そうだな。僕は世間で言う所の引きこもりだ。
『そのようだね』
なんで知ってるんだ?
『このファイルに基本情報だけは載ってるからね』
そうなのか。
『次の質問だよ、どうして君は引きこもりになったの?』
もちろん元々引きこもりだった訳ではない。僕が今の僕になったのもそれなりの理由がある。
『ほうそれは興味深いね是非とも聞かせてほしいもんだ』
「好きです!付き合ってください!」
「ごめんなさい、私あなたの事そう言う目で見る事が出来ないの」
そう。始まりはここだった。
中学校に入り僕は一人の女の子にあった。一目惚れだった。
僕はなけなしの勇気を振り絞って、その子に告白した。結果は見て分かる通りの玉砕。全く笑える話だよ。
それからしばらくは学校にも行ってたんだけど、だんだん自分の居場所と言うか、存在が薄れていって自分が無くなってしまいそうな恐怖に駆られたんだ。
そんなある日僕は学校をズル休みした。
それからしばらく僕はズル休みをした。
昼に起きて、ゲームをして、ネットをして、また寝る。これが僕の引きこもっていた頃の一日だよ。
『随分と自堕落だね』
ふふっ。そうだね。
『はじめて君の笑った顔が見れた』
そうだったか?
『そうだとも』
話を続けるよ?
『どうぞ』
それからしばらくそんな生活を送っていた。
何てったってズル休みだからね。
でもさ。こんなズル休みすぐに終わると思ってたよ、まだその時はね。
『どういう事だい?』
君は知らないだろうけど、引きこもりってさ、呪いみたいな物なんだよ。
『呪い?』
そう。呪い。
最初はどうと言う事もなく外に出られるものだと思ってたんだ。でもさ、一度そこに入ると抜け出せないんだ。自分の部屋の扉がさ、重くなって、辛くなって、開ける事が出来なくなるんだよ。
それはまさに自分に降り掛かる呪いかの様だったんだ。
『どうしてもダメだったのかい?』
ダメだったねこれが。
でもなぜか一日だけ外に出ようと思ったんだ。
『なんで?』
分からない。思い出そうとしても頭が痛んで思い出せないんだ。
『そうなんだ、それなら無理に思い出す事はないよ』
この話はこれで最後かな。
『ありがとう。じゃあ次の質問だよ』
意外とあっさりしてんのね。
『そうだね、時間もそうないからね』
時間?
『そう時間。まあ、質問の返事は十分にできるように時間の調節は出来るから、まあ落ち着いて』
さいですか。
『じゃあ、質問だよ。そんな君に親友と呼べる存在は居たかい?』
親友か、親友ってほどの物じゃないけど、幼馴染の女の子は居たね。
『その子の事詳しく聞かせて』
出会ったのは幼稚園の頃だったな。僕はじめてあった時男の子だと思っちゃうくらいに活発な子だった。
彼女だけは最後まで僕の見方だったよ、引きこもりになってもね。
『そうだったんだ、その子の事は好きじゃなかったの?』
好きだったよ。
『じゃあなんで?』
彼女には付き合ってる男の人が居るって聞いたんだ。
『それで潔く自ら引いたんだ』
そう。
『本当はどうしたかったんだい?』
中学の時告白した女の子よりもそのこの方が好きだった。
でもさ、かなわない恋だったんだ。多分その恋を忘れるように、あのとき告白したんだろうな。
『そういうものなんだね』
『さあ、次で最後の質問だよ』
そんな事よりさ、もうそろそろここが何処なのか教えてくれないかな。
『良いよ。教えてあげる。小野優さん、あなたは今生死を彷徨ってる状態です。そしてここはあなたの精神の中。私はあなたを審判する天使のような者です』
まあ、だいたい予想はついてたから驚く事もないかな。
『気づかれていましたか。実はですね、神はあなたにチャンスを与える事にしました。それはあなたがやり残した事を一度だけやり直せるという物です』
人生をやり直すってこと?
『正確には違いますがだいたいそんな所です。ここで改めてあなたに最後の質問をします。あなたは何をやり直したいですか?』
やり直したい事か。
いろいろとありすぎて困るな。
『何でも良いんですよ。親のもう一度会いたいなどなど』
そんな願いもあるのか。
ますます困ってしまうな。
『決められませんか?』
すまんね。
まだまだ決められそうにないや。
『いいんですよ、決められない事の方が多いですから。どうです自分が今どういう状態なのか、どうしてこうなったのか見てみたくはありませんか?』
そんな事できるのか。
『出来ますとも。死因なんかもわかります。で、どうしますか?』
考えがまとまるまで見させてもらうよ。
『分かりました。では準備するので少々お持ちください』
分かりました。
そう言うと天使は僕に一つの映像を見せてくれた。