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 いきなり殴り倒された僕は、床に這いつくばったまま顔だけを上に向けて背後から殴りかかって来た人影を見上げた。


「さっきからギャアギャアうるせぇんだよ!」


 そいつはダミ声で怒鳴りながら僕の腹を蹴り上げた。思わず胃液を吐きながらそれでもそいつらの姿を見る。


 そいつ……いや、そいつらは三人いた。


 年は僕と同じくらいだろうか? 髪を金や赤や茶色に染め、耳や鼻にはピアスだらけ。ニットのシャツの胸元や袖からはご丁寧にタトゥーが覗いている。絵に描いたような不良だったが、それが何故ここに居るのかさっぱり解らない。困惑する僕に、鏡の男はこれも丁寧に種明かしをしてくれた。


「言ったろ、このミラーハウスに肝試しに来るアホ共を餌食にしてるって。でもな、こう言う殺してもつまらなさそうで、更に別に利用価値がある野郎共は下僕にして操ってるんだ」


「下僕……?」


「そうさ。遊園地(ここ)のルールにゃ反するが、あまりに餌食が少ない時にゃ町からテキトーに女の子を攫って来させたりな。そんなワケで今日も配達に来てもらったワケだが、別のお楽しみが出来たしな……今日はちょっと違った使い方をしてみようか。おい下僕共、そのバカを立たせるんだ」


 そいつの一人が、倒れたままの僕の髪をつかんで強引に立ちあがらせた。そしてもう一人が後ろから羽合い締めにした。そいつらからは、酒臭い口臭と微かに有機溶剤の臭いが漂ってくる。鏡の男に操られているせいか、酒や溶剤で酩酊してるせいか、そいつらの眼はトロンと濁っていて理性がまるで感じられなかった。


「さぁまだ宵の口だ、たっぷり楽しもうぜオニイチャン。ドリームキャッスルの奴のお株を奪う遊びになるけど、まぁ良いやな……よし、始めようか」


 鏡の男の宣言を合図に、羽合い締めをしていない残りの二人が手に鏡の破片を持って僕に近づいてくる。なんとか逃れようと必死で足掻くがまだ蹴りのダメージが残っている上に、さっき切られた足首のせいでロクに動けない。


 金髪が僕の目の前に鏡の破片を突きつけた。そこには怯えきった僕の眼が映っている。成す術もなく震える僕の耳に鏡の男の楽しげな声が響く。


「おいおい、いきなり眼は可哀そうだろ……そうだな、まずは耳いってみようか」


「や、やめ……」


 もちろん金髪は止める筈も無く、僕の右耳を乱暴につかむと無造作に耳の付け根に鏡の破片を走らせた。血が飛び散り、金髪の手に僕の右耳が残る。


「ぎゃあああああああああああ!!」


「きゃあああああああああああ!!」


 僕と希美の悲鳴を皮切りに地獄が幕を開けた。


 ………………


 ……どのくらい経っただろう、地獄は終わること無く未だに続いていた。


 僕はその間、袋叩きにされ切り刻まれ残りの耳と鼻と舌を切り取られ歯を全て折られ爪を全部剥がされた上で全部の指を折られて落とされ頭の皮を髪の毛ごと全部剥がされて残った額の皮に“負け犬”と刻まれた。

 何度も気絶したけど、その度に折れた歯の傷口から直に神経をつっつかれて激痛で強制的に目覚めさせられた。

 命乞いも悲鳴もロクに上げられない。歯も舌も無くなった上に切り取られた性器を口内に押し込まれては、もう無様な呻き声や啜り泣きしか出せなかった。


 それでも両目だけは残された。何故なら何も抵抗出来ない僕に、鏡の男が希美を嬲り者にする様を見せつけるためだった。


 希美は必死に抵抗して悲鳴を上げ、ずっと僕の名を呼んでいたが、執拗な男の責めに屈したのか今はただ虚ろな目で僕を見つめながら男のされるがままになっていた。


 殺してやる!


 殺してやる!


 殺してやる!


 殺してやる!


 殺してやる! 鏡の男も! コイツらも! 僕ら兄妹を苦しめるお前ら全員! 絶対に苦しめてから殺してやる!!


 僕は文字通り血の涙を流しながら鏡の男を睨みつけたが、男は逆に面白がって希美を責める手をますます早めるだけだった。


「カーッ、いいねぇ! ギャラリーが居るとこんなに興奮するとは思わなかったわ! もうずっとビンビンで収まんないわ。こんなに楽しいなら、次からはカップルとか夫婦とか親子とかセットで攫って遊んでみるか。なぁキミちゃん」


 しかし、もはや何の反応も示さない希美を見て舌打ちした鏡の男は、膝の上から希美を投げだすと面倒臭そうに立ち上がって下僕達に告げた。


「ちっ、もっと泣きわめけよつまんねぇ……あ~、何か萎えたわ。そろそろオニイチャンも死にかけてるし、一旦お開きにするか。お前らのお持ち帰り便もあるし、一休みしてから深夜の部と行こうや」


 鏡の男はそう言って茶髪に喉を掻き切る仕草をした。茶髪は虚ろな目でニヤニヤ笑いながら頷くと、真っ赤に染まった鏡の破片を持ち直して僕に向き直った。

 赤髪は相変わらず僕を締め付けて離さない。金髪は僕の頭を掴んで後ろに引っ張って喉を露出させた。僕は必死で希美の名を呼ぼうとしたが、衰弱しきった体は咳一つ出せなかった。


 そして僕の喉に鏡の破片が触れたと思うと……何の躊躇いもなく一気に横に引かれた。


「いやあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!? お兄ちゃん! お兄ちゃん! おにいちゃあああぁぁぁぁん!!」


 一瞬正気を取り戻した希美が泣きじゃくりながら絶叫するのが見えたが、すぐに視界が暗くなっていった。苦痛も何も感じなくなり、眠気に似た感触が脳内を支配して行き意識が揮発するみたいに薄れて行くのを自覚した。


 真っ暗な視界の中、最後に聞こえたのは希美の鳴き声と鏡の男の嘲笑、最後に抱いた感情は……


 ……希美を救えなかった後悔と、アイツらへの憎悪……だが、それもすぐに死の闇に呑まれて呆気なく消えてしまい、僕は何も考える事も出来なくなってそのまま死んでしまった。

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