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自由と喪失

作者: 九曜

 二千四十五年、我々人類は自由を手に入れた。地球の物理法則や肉体的労働・・・法律や社会のルールなどは全てが無意味となった。


わたしは思う。これは我々人類が求めた究極の進化の成れの果ての姿である・・・しかし、我々人類はその代償として何かを失った。何を失ったのかは分からない。


いつの日か、失ったことさえも忘れてしまうのだろう。全人類がデータ化され、電脳の世界で行き続ける毎日・・・地球に迫り来る隕石等の脅威は全て人工知能によって排除される。


シャットアウトし、元の体へ戻った時にはさらに新しい技術が幾千も生み出されている。永遠の若さと命を手にした肉体で適当に街をふらつき、飽きたら再び電脳世界へとログインする。


芸術的な創造物は誰でも瞬時に作り出せる為価値を持たなくなった。誰もがオペラ歌手のような透き通った声で、アクートとビブラートを上手に聞かせ歌唱できる。


誰もが天才的漫画家のような綺麗な絵を自由自在に形成することが出来る。


誰もが、そう、誰もが・・・スポーツ選手のような運動神経を手に入れることが出来る。


天才たちの夢見た世界は、現実のものとなったのだ。しかし、私には何かを失った様な、異様な喪失感があった。家族とは仲良くしているし、色々な出会いもある。


死の恐怖は完全に忘れ去られ、誰もが自由の名のもとに生き続ける。


 「これが・・・人間?」


 我々が失ったもの、それは人間らしさ。私は常日頃から思う。今の我々は人間ではない。こんなものは本来あるべき姿ではないと。


だが、現実の世界で、殆どの人間は眠りふけ、電脳世界を堪能している。


それでも、やはり人間の本来の姿はこうあるべきではない。人間は、死ぬからこそ美しく生きられる。


死ぬからこそ、必死に努力できる。


死ぬからこそ、夢を持ち、希望を持つ。


死という概念が消えうせた今、我々は・・・もはや人ではない。


そして、もうあの頃には、二度と戻れないのであろう。




 外を歩けば人工知能がどんどん地球を作り変えていく様がうかがえる。オゾン層は完全に修正されており、衛星はもはや存在しない。そんなものが無くても地球の状況は理解できるのだろう。


誰も歩くことの無い世界で、ただ一人無意味に歩き続けている。


辺りには、機械特有のかすかな起動音のみが「シュ~」と音を立てていた。

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