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第1話 すこしまってくださいな!

 私の名前は、セレスティン・アーデルハイド、アルカザン王国の第一王女ですわ。


 メッシガルド大陸有数の大国の王女として、王族として社交界に出ても恥ずかしくないよう、幼い頃より徹底的に礼儀作法や教養を磨いてまいりましたの。

 もちろん、「大陸一の美姫」と呼ばれた母上譲りの美しい外見や殿方の方のあしらい方、立て方等も、きちんと磨いて参りました。

 まつりごと荒事あらごとには一切興味を持たず、己の分もわきまえてきたつもりですわ。

 一部の隙もない麗しき姫、それこそが私の誇りだったのですが・・・。


「どこですの・・・、ここ?」


 窓から差し込む光に、・・・薄ぼんやりと目が覚めます。

 頭が・・・、痛い。 まるで風邪を引いた後のよう。

 揺らぐ視界に映るのは、・・・白い壁で囲まれた四角く狭い一室。


「使用人の・・・、部屋・・・?」


 いえ、違います、わね。


 飾り立てがないという点では似ていますが、内装、雰囲気が大きく異なります。


 狭いとっても清潔感があり、

 壁紙もカーテンも、窓も、扉も貴族以上が用いるようなレベルの高い一品であるとひと目でわかります。

 そして、低い天井には、丸い物体。 もしかして、照明の類でしょうか?

 今眠っているベッドも、狭くて多少固めですが、程よい弾力性があり心地よく感じられます。


 部屋の各所に置いてある調度品もです。


 見かけたことがない文字の綴られた本が並ぶ小さな本棚。

 見覚えのない机のその上に乗る四角い黒い箱や平たい板、ヒモがいくつか。

 他にも、妙に硬質な色合いをした船の模型がタンスの上に置かれています。


 こんな部屋、・・・王宮でも離宮でも、ましてや、他のお屋敷でも一度も観たことがありません。


 まるで、・・・全く違う文化の国に紛れ込んだかのよう・・・。


 昨日までのことを思い出します。


 父上や弟達とともに、大臣、騎士団を伴い、セーシェル湖近くの離宮で余暇を過ごしていた・・・はず。


 ふらっと上半身を起こし、いつものクセで胸に手を当て・・・、え・・・?

 いつも感じる重たくて、柔らかい感触がありませんでした。

 そもそも、頭の上が妙に軽い・・・、肩に、背に、栗色の髪が当たる感触もありません。

 頭を触ると髪の毛がごっそりと刈り取られて、恐ろしく短く狩り揃えられています。


 何より、視界が高いです。


 いえ、それに・・・、股間に、何でしょう? 腫れ物? 何か固くて大きなものが生えて・・・。


「隊長、寝坊とか、珍しい・・・、わね」


 いつのまにか、・・・目の前に小柄な人狼ウェスキア族の少女が立っていました。

 肩までで切り揃えられた艶を帯びた黒髪、

 官憲と思しき、しかし、観たことのない制服をまとっています。スタイルもなかなか。

 整ったとても可愛らしい顔立ちをしていますが、同時に鍛えられた精悍さも感じます。


 それが、半眼で、こちらを見下ろしていました。


「あの・・・、あな・・・」


 貴女は誰なの? そう訊こうとして、声がやたら低く、思わず口を抑えます。

 手に当たる・・・、固い、ヒゲの感触。


 う・・・、あ・・・?


 もしかして、だけど・・・、


 まさか、だけど・・・、


 今、私、・・・男になってるっ?!


 心のなかで絶叫した時、それが脳内に響きました。


『おい、そちらの"俺"、聴こえるか?』


 低く落ち着いた大変渋い・・・、しかし、若々しさも感じる声。

 今しがた、自分の口から出かかった声にたいへん似ています。


「・・・隊長?」


 人狼族の女性が不思議そうにこちらを見ていますので、とりあえず待てと掌でジェスチャー。

 ・・・伝わったようです。


 室内を・・・、何か興味深そうにチラチラ見ています。 ・・・可愛い。

 何でしょう、股間が凄くムズムズします。

 いえ、そうではなくて・・・。


 目をつぶり、会話に集中します。


『・・・ええ、聴こえていますわ。 貴方は・・・、誰なんですの?』


『・・・そうか。 最悪、言葉が通じない可能性も考えたが、いけるのか。 ふん、ツメが甘い・・・。


 俺は、日本国 公安委員会所属部隊"醍醐"第一課 第一部隊隊長 寛木くつろぎアキラという。


 貴様は、王侯貴族の出・・・と見るが、貴様や国のこと、分かる範囲で今すぐ教えてもらいたい』


『わ、私は・・・』


 とっさに、名前と王女であること、王国のことを、知っている範囲で答えていきます。


 次いで現状を確認されたので、見たままをやはり答えていきます。


『そうか、助かった。 さて、心して訊いて欲しいのだが、


 今、私は、貴様の肉体の中にいて、貴様は、今、私の肉体の中にいるようだ。


 どうやら我らは、それぞれ異なる世界の住人で、・・・魂を交換されたらしい。』


『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?』


 ぽかんとする私に何かが乗ってきます。


 思わず、眼を開くと、


「たーーーーーーーいちょ?」


 人狼ウェスキア族の少女が、四つん這いで、私の上に乗って覗きこんでいました。


『・・・どうした? 応答せよ! どうした?』


 あの、ふたりとも、・・・少し、考える時間をくださいなっ。

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