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アバンドーネ

 ステージに立ち、二人に目配せする。俺の指はCの音から始まるセブンスコードを押さえていた。緊張と興奮のせいで指先が震える。


「変に気負うな」


 蘭が客に聞こえないよう囁く。私に任せろと言わんばかりの笑みを見ると、震えがピタリと治まった。俺ってかなり単純なのかもしれない。思わず苦笑いした。

 

 俺と蘭が頷くと、うさ男がスティックを構えた。スティックでバツを作るように交差させ、4回叩く。それを合図に演奏が始まった。


 結論から言おう。初めての演奏にも関わらず、俺たちの演奏は上手くいった。きっと二人の腕前がアマチュア以上のものだったからだと思う。

 絶対にリズムを崩さないドラムとベースが、俺の拙いギターと歌声を支えてくれる。


 間奏のベースソロは想像以上に盛り上がった。予想を上回るハイレベルな蘭のベースに、思わず手が止まりそうになったくらいだ。会場が盛大に沸き上がり、絶叫のような声が体育館中に響きわたる。

 それに対抗するかのように、うさ男がクラッシュシンバルを盛大に叩いた。突然のことに蘭が驚きながらも、嬉しそうにフィニッシュを決めうさ男に向かって指をさす。


 やはりこのうさぎ、只者ではなかった。楽譜上にないドラムソロを始めたのだ。

 シンバルを絡めた高速タム回しに、低音のバスドラムを叩き続ける。超絶技巧と呼ぶにふさわしいスピードと正確さだ。観客全員が楽器になったかのように歓声を上げ続ける。


 って確かにかっこいいけど、この勢いでどうやって曲に戻るつもりなんだよ!?

 ドラムソロ中はドラム以外演奏をしなくてもいいらしいので蘭にアイコンタクトを送る。


「3!」


 すると、蘭がありったっけの声で叫ぶ。


「2!」


 どうやらカウントダウンのようだ。ドラムがだんだんと減速し、元の曲のテンポに戻ってきた。


「1!」


 本当に楽しい。今日、ここに来てよかった。

 どれほどの人に感謝をすればいいのだろうか。


「GO!!」


 大歓声のど真ん中に俺はいた。

 予想よりもはるかに多い客の中に、風雅の姿を見つける。忙しくても絶対に来るって約束してくれた。その約束は今、俺がここにいることで果たせるんだ。

 俺は叫ぶように歌う。


 歌いながらベースの方を見る。顔を真っ赤にしてベースを弾く蘭は、別人かと思うくらいに笑顔だった。それと対照的に振り向いたところでうさ男の表情はわからない。それでも滝のような汗が、隠しきれていない首から滴っているに違いないだろう。

 俺はギターをかき鳴らす。


 ステージ脇では灯歌と円歌が俺たちの名前を叫んでいる。うさ男のことを、俺と同じくうさ男と叫んでいたのが、たまらなくおかしかった。

 灯歌と円歌はこのバンドの司会と運営を務めている。妬み、苦悩した原因はお前らのせいだと、黒い俺は言っていたかもしれない。けれど、こうやって歌えるのはあの二人のおかげでもあるのだ。そのことを忘れるつもりはない。

 俺はハウリング覚悟で声を響かせる。


 そして俺は琴音を見つめた。一番感謝しなければならない相手だ。

 全力で歌った。響け、轟け、俺の思い全て、伝われ!


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