表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虚空の惑星<ANOTHER STORY>  作者: 天崎 剣


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/13

13・『虚空の惑星』(後編)

 エスター・エマードは朝の眩しい光で日を覚ました。どれだけ眠っていたのだろう……、ここは何処なのだろう。

 ふかふかしたベッド、窓辺でほんのり暖かい。随分長い夢を見ていた、私がパパやジュンヤを殺そうとするなんて。

 ベッドから起き上がり、姿見で自分を見た。すっかり変わってしまった自分の姿に落胆する。やっぱり、夢じゃないよね、どうしよう、私はとんでもないことをしてしまった。

 部屋にメイシィが食事を持って入ってきた。

「あら、エスター、起きたのね」

 ──あれ? 何だか違うわ。いつもと同じ。私はジュンヤを殺そうとしたのよ? メイシィ。言おうとしたが、エスターは黙って朝食を頬張った。

 彼女は朝食後、外に出掛けることにした。何だか青臭い匂いがする、私の鼻がおかしいのかしら。空気もすごくおいしい。エスターはゆっくりと、玄関の戸を開けた。ぱあっと光が充満して、彼女は思わず目を閉じた。目を凝らして景色を見る。

「うわあ、綺麗!!」

 彼女は草原の中にいた。見渡す限りの草原、花が咲き、蝶が飛び交う、立ち並ぶ雪を抱いた峰々。これは夢だろうか。私がいる今が夢で、二人を苦しめたあの日は現実? それとも逆? 

 自分が寝ていた家は立派な一軒家だ。彼女は自分の知らない世界に酔い痴れていた。

「これはきっと夢ね……」

「夢なんかじゃないさ」

 後から話し掛けたのは、一段と(たくま)しくなったジュンヤだった。気のせいか、年をとったように見える。心なしか、背も高くなった。

「あれからもう、五年だ。君は五年間、ずっと眠ったままだったんだよ、エスター」

 草原に一陣の風が吹いた。


 エスターとジュンヤは、小高い丘の上を遊歩していた。

 春の涼しい凪が頼を掠めた。緑色が少女の心を癒した。空は快晴で、日はもうすぐ真上につこうとしている。

「もう二度と目覚めないんじやないかと思っていたんだ。──良かった。本当に良かった」

 ジュンヤはそう言って空を仰いだ。

「恥ずかしい話、エスターと初めてあった時、俺はお前のことを眠れる森の美女だと思ってしまったんだ。可愛いだろ。ついさっきまでも、やっぱりそう思ってた。今だから言うよ、俺はお前が好きだ、エスター」

 青い空の下、二人を穏やかに包む草原は、太陽の光をいっぱいに浴びてきらきら輝いている。

「ありがとう……、でも……」

「いいんだ、姿形とか、そんなのどうでもいい。過去のことなんか振り返らなくていい。俺はエスターが好きなんだ。お前がどんな奴だろうと、俺は構わない」

 立ち止まって、エスターの両手を握り締めた。金属に成り果てた手に彼の温もりが伝わってくる。真剣な眼差し。

「結婚しよう」

 少女は青年の胸に飛び込んだ。青年はしっかりと少女を抱き寄せた。もう、悲しい思いはさせない。お互いきっと、うまくやっていけるさ。


 丘の向こうに掘っ立て小屋を建てて、ディック・エマードが研究室にしていると聞いて、そこに向かうことにした。ディックはまだ、エスターの目覚めを知らない。二人、手を繋いで歩いた。彼はどんな顔をするだろう。

 途中、ジュンヤにいろんな話を聞いた。ここに移住してきた経緯やその後ESのこと、EPTのことを。アンリとマリアはめでたく結婚したそうだ、もう三才になる子供がいる。ESの皆は故郷に帰ってそれぞれ楽しくやってるようだ。今はESもEPTもない、平穏が続いている。幸せの色と同じように、緑も以前より多くなった。

「お前の寿命が縮まるのを知ってても、ディックがお前を改造できずにいたのは、どうしてだと思う?」

「?」

「エレノアの面影がお前から消えるのを恐れてたんだよ。ああ見えても、結構ロマンチストだよなぁ」

 あの日、ES要塞に帰った後、ディックは壊れかかったエスターを必死に直していたらしい。娘の名を何度も呼んで、彼は懸命に頑乗っていた。五日しかなかつた寿命をめいいっぱい延ばすために、何日も寝ないで作業してた。そして、エスターは生き延びることができたのだ。エスターは父に感謝した。ありがとう、パパ。やっぱり私、パパが好きだわ──。




 丘を越えると、小さな小屋が見えた。二人の姿を見付けたからなのか、ディックは慌てて小屋を飛び出し、両手をいっぱいに振っている。いつもの、少し汚れた白衣を着た父親は、ずり落ちた眼鏡を直すことも忘れて、似合わぬ涙と精一杯の笑顔で娘を出迎えた。



「お帰り、エスター」


 やっと終わりました……。編集。

 とってもじゃないけど、今はこのような展開には出来ませんw


 久しぶりに読み返してみて、恐ろしく前向きな小説に仕上がっていたので、びっくりしました。

 実はこの小説は、10年ほど前、高校3年生のときに執筆したもので、今回は漢字変換、言い回しのミスの手直しのみで、殆ど原文のままのものを掲載しました。……ので、展開が変でも見逃してやってくださいw 突込みどころが万歳過ぎて、どうしたらいいかわからないのは私も一緒です(泣

 3人称なんだか1人称なんだかわからないし。語彙が少なすぎ(汗

 10年も経てば作者も大人になるんですよ……(遠い目)。


 ところで、初期設定資料というのが出てきました。

 どうやら最初はエスターは当初、ディックと血が繋がっていない設定だったようです。そんでもって、リーは『正体不明の科学者に身体を改造され、絶対的な若さと権力を手に入れた』と書いてありました。……なんてこった。

 私、そんなこと考えてたんだ……。

 ショックで立ち直れないよ……。


 読み返して、納得できなかったのは、ストーリーや設定だけではなくて、キャラもだったりするのです。

 ディックがいい人過ぎる。どうしたんだ。

 エスターが気丈過ぎる。守れない。

 ジュンヤがカッコ良過ぎる。お前は悩んでればいいんだ。

 リーがカッコ良くない。そんなんじゃ惚れないよ。

 何がどうしてそういうふうになったのかは忘れましたが、なんだか、薄っぺらい。もっと、肉厚で、濃くて、人間味のあるキャラが欲しい。……と、言うのを踏まえて、本編では全てのキャラが<ANOTHER STORY>と違う性格になりました。

 おかげさまで恐ろしいくらい怖い展開に。

 ダークでシリアス。無駄に武器とか、兵器とか持ち出す人たち。歪んだ感情、非日常な世界、何処までも続く闇。これらを使って、現代における様々な問題を遠まわしに批判していたりする……んですよ。実は。


 最終的に、ハッピーエンドで終わった<ANOTHER STORY>ですが、本編はどうなるのかわかりません。

 エスターがどうなるのか、ディックの過去にはどれくらいのものが詰まっているのか、リーは何処まで策略を巡らせているのか、それはまだ秘密です。

 これは一つの、完結した「もう一つの『虚空の惑星』」というものであって、たくさんの分岐点のうちのほんの一例に過ぎません。こういう結末もあるんだ、位の気持ちで読み終えてくださると嬉しいです。

 あとは、「もとの話がこうなのに、どうして本編はこんなに膨らんでんだ」と思っていただければそれで(言い訳)。


 <ANOTHER〜>ご覧いただいた方にはおわかりの通り、まだまだ本編は序盤なのです。(今中盤への差し掛かり位かな)

 執筆速度はカタツムリのように遅いですが、<ANOTHER〜>同様、いつか完結すると思いますし、リーも倒せると思いますので(汗)、今後とも虚空の惑星をよろしくお願いいたします。

(2007年7月)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ