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私の異世界での立ち位置  作者: 葉月
解決編
95/97

95.またね

お読み頂きありがとうございます。

本日の更新『95.またね』と明日更新の『96.透明世界』及び完結記念『登場人物紹介』で【私の異世界での立ち位置】は完結となります。


最初の最初から読んで下さっていた方。

(お名前は控えさせて頂きますが)途中、一年という長い年月を更新しなかったにも関わらず見捨てずにいて下さった方。

そして少しでも目を向けて下さった皆々様のお陰で完結まで行く事が出来ました。誠にありがとうございました。感謝の言葉は書ききれません。


それでは。

最後までお楽しみ頂ければ幸いです。


「また透明な世界で出逢える事を願って」


「アルファルド君、やっぱりさぁ」

「しつこい」


皆とのお別れもすませ、ここには私とアルファルド君の姿だけがある。創師が私達の記憶を世界の力へと還元するに辺り他の者には席を外して貰っているのだ。


「別に問題ないだろ」

「問題あるよぉ……」


私が忘れたとしてもアルファルド君が覚えていてくれる。だからこそ、私は私の記憶を消してしまうのを割とすんなり同意したというのに。ため息。


『考えが甘かったな。相手に覚えていて貰おう、などと楽な方へと考えを巡らせるからこういう事になるのだ』


頭の中の創師がそう毒づく。

確かにそれは楽で自分の事しか考えていなかった自己中心的な事だったのかもしれないけれど。


「だけど、私の記憶を使うのが一番良いって言ったの創師でしょ」


この世界の住人でない私の記憶を使うのが世界に取っては一番影響が無く、そして上手く行きさえすれば一番の力となる。そう言ったのは創師だ。


「ねぇ、アルファルド君の記憶を使うってホントに大丈夫なの?」


声には出さない声で私は創師に問う。創師は少しの間の後「上手くいけばな」と不安になるような言葉を吐いた。


『どちらにせよ『繋ぎ』は必要だった。それにお嬢さんとその男のこの数カ月間の記憶はほぼ対となっている。だからこそ、お嬢さん以外の記憶を使うとしたらその男が最も適任なんだ。記憶が引き合うからな』

「引き合う?」

『ああ。反発しないで混ざり合う。良い具合にな。ただ……、まぁここからはやってみないことには分からない』

「…………」


なんだろう。

やっぱり不安だ。


「レイト」


心の中で創師と会話していたのでだんまりだった私にアルファルド君は手にしていたものを差し出して来る。受け取るとそれは私の手の平の上でころりと転がる小さな小さな花の種だった。


「これって確か……レイトの花の種、だよね」


くれるのだろうか。

私はアルファルド君を仰ぎ見る。だがアルファルド君は私を見てはいなかった。そっぽを向いている。照れているのだろうか。


「アルファルド君、ありがとう」

「…………」


だけどさ、アルファルド君。

私は言う。


「これ、多分持って行けないよ?私、この世界では精神体でしかないからさ。多分、精神体で帰る事になるだろうと思うし」

「…………!!」


そこまで考えが行かなかったのか、恥ずかしさのためかぷるぷると小刻みに震え出すアルファルド君の姿に必死に笑いを堪えつつ、私はじゃあ、と前にアルファルド君に買って貰っていたポケットの中のとある物をアルファルド君へと渡す。


「私から餞別」

「……餞別って。俺が買ってやったやつだろ、それ」

「うん」


アルファルド君は私が差し出したソレ、黒いサングラスを受け取った後暫くそれを眺め、そして徐に自分の顔にかけた。サングラスをかけたアルファルド君が私を見る。私はそれを見て暫し固まった後、ぶっと吹き出してしまう。


「……あっははははははっ!!!あ、アルファルド君っ、恐ろしく似合わない!!恐ろしく似合ってないよっ、ソレ!!あはははははははは!!!」

「…………」

「あーははははっ!!あー、苦しい。そこまで似合わない人も私初めて……痛いっ!!」


殴られた。


「ピャー」

「ミズイロ」


殴られた頭を擦る私の肩にミズイロが降り立ちすりすりとすり寄って来る。私もそれに答えるようにミズイロの身体に頬を寄せた。


「ミズイロ、ありがとね」

「ピャッ」


ミズイロとも、もうこれでお別れなのだ。それがとっても寂しい。もう会えないのかと思うと寂しさが徐々に徐々に、そして急激に込み上げて来る。


「っ、ミズイロー!!」

「キュアー!!」


私達は抱きしめ合う。根性の別れだ。


「ミズイロ。アルファルド君の事よろしくね」


そういうとミズイロは任せろと言わんばかりの顔でばさりと飛び立ち、翼を広げて大きく旋回した後今度はアルファルド君の頭の上に着地した。そんなミズイロを見てそういえばと私は少し疑問だった事を思い出し心の中創師に問いかける。


「ミズイロの事をさ、国王様が『歪』って呼んでたんだけどそれってどういう事?」


創師に聞いて分かるものか疑問だったが今ここにはアルファルド君と私、そしてミズイロと創師しかいない。この中で答えをくれる可能性があるとすれば創師だけだ。


『その生き物がこの世界の歪だからだよ』

「ひずみ?」


どうやら創師は答えを知っているらしい。


『その生き物は誰が造り出したものでもない。その生き物はお嬢さんがこの世界に来た事により少なからずも出来た世界のゆがみによって産まれた命。未知なる生命なのだよ』

「へぇー……」


へぇ、とは言ってみたものの実はよく分かっていない。

ミズイロはなんだか凄いと、そういうことか。


『予定にないものだったからな。国王には邪魔で仕方が無かった存在だったと思うぞ。それよりも……まぁ、いいか』

「…………?」


最後は言葉を濁した創師に疑問を感じつつ私はミズイロを撫でるアルファルド君に視線を向ける。

本当にこれでお別れだ。記憶も無くなって、私はアルファルド君のこともミズイロの事もこの世界の事も全て忘れる。


そうしてアルファルド君もまた、私の事を忘れてしまうのだ。



「…………ねぇアルファルド君」


今一番に言いたい事が口から出そうになる。

今一番に彼に伝えたい言葉が口から零れそうになる。


「ピャ」と小さくミズイロが鳴いた。



「レイト」


私にくれた『レイト』という名で彼が私を呼ぶ。『レイト』はこの世界での私の名前であり、この世界での存在証明であり。そしてこの世界での不思議な花の名前でもあり。



私の大切なたからものでもある。



「レイト、ありがとう」


お別れは寂しい。

お別れは悲しい。


だけどアルファルド君は優しく微笑んでくれた。



「うん」



さよなら。

アルファルド君。



最後に言葉にしたかった心の中で渦巻くこの想いは結局声にはならずに、私の中で消化されないまま小さな蟠りとしてそこに残された。



そうして世界は少しの平和を取り戻す。


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