83.私の立ち位置
私達を発見するやいなや、ブカが目にも止まらぬ速さで突っ込んできた。
ガキィンッ!と物凄い音を立てて、ブカが持つ剣とサナが持つ剣とがぶつかり合う。
「…………」
突っ込んで来たブカが手にしているのはアルファルド君の剣だった。見るに、まだ自分の力で剣を具現化出来ないのだろう。というか、サナは一体いつの間に剣を抜いたのか。
驚くべき素早さである。
そして私が何か言う暇もなく、二人はそのまま戦闘開始してしまう。ガキィンッ、ガキィンッと激しくぶつかり合う金属音。その音だけが朝の静かな街に響き渡る。
戦闘大好き魔物なブカは、戦っている時はいつも楽しそうな表情をするのだが、今回に限っては無表情なままだった。逆に怖い。それが逆に怖かった。
止めないと、と思うのだが私が間に割って入るとか、そんな事が出来るような状況ではなかった。あまりにも激しい二人の剣と剣とのぶつかり合い。
何これ、怖い。怖すぎる。
目にも止まらぬ速さでやり合う二人の剣のぶつかり合いは、一歩間違えば確実にどちらかを真っ二つにしてしまうだろう。
剣って刃物なんだよな、
と改めて感じた瞬間だった。
「レイトっ」
そうこうしているうちに、そう言ってネイルとアルファルド君も足早にこちらに近付いてきた。一緒にいたミズイロが私の頭の上に着地する。
「ピャ」
「ミズイロ」
私はミズイロを撫でてやりながら二人を見やる。ネイルが抱きつく。
「良かった、無事だったみたいだな!まぁ、サナに限ってレイトに何かするとは思ってなかったけどさ」
「うん。まぁ…、ちょっと話があっただけみたいだったよ」
私に抱きつくネイルに、私は詳しくは語らなかった。話すなら、多分サナがいた方がいいだろう。
私はネイルに抱きつかれながら、ちらりとアルファルド君を見る。私を見ていたアルファルド君はそんな私から、ふい、と視線を反らした。
「…それよりあの二人。ブカ、もしかしてなんか怒ってる?」
ネイルが私を腕から開放し、口を開く。
「怒ってるぞー。ブカが一番レイトのこと心配してたからなっ。サナとレイト、二人がいなくなった後、実はけっこう大変だったんだぞ?」
ネイルが言うに、どうやらあの後、残された三人には一悶着あったらしい。まぁ、ブカとアルファルド君はあんまり仲良くないし、ネイルもこんな性格だから。ネイルがからからと笑う。
「ブカがなー、サナは何処に行ったんだ!ってしつこくてさー。私だって知らないのに問い詰められて。で、頭冷やしてやるために魔法で攻撃したらブカも反撃してきやがるし。アルファルドはブカに剣取られてたから何にもしないで突っ立ったままだし」
「は、ははは…」
よく三人で無事に一緒にここまで来れたな、とそのネイルの発言に私は乾いた笑いを口にする。そうしてから私はネイルに疑問をぶつけた。
「だけど……、どうやってココが分かったの?」
首を傾げてネイルを見る。
ココに私達がいることを、どうやってアルファルド君達三人は知ったのだろうか。手掛かりなんてものは無かっただろうし、それにこの街には私もサナも来たのは初めてだ。私達がいることなど、分かりようがないような気がするのだが。
にんまり、とネイルが笑う。
「それはな、コレだ!」
そして得意気に手のひらの上に小さな三角形のピラミッドのような物を乗せた。そのピラミッドの中は透けて見えていて、中には矢印のような物がふよふよ浮いてこちらを指していた。
可愛い。何かの魔法道具だろうか。
「何、これ?」
「これはなぁ、発見機だ!」
「発見機?」
どうやらネイルの持つこのピラミッドは、私達の居場所が分かるという便利な魔法道具らしい。そんな物もあるのか、と感心しながらも私はそういえば、と思っていた。
サナはどうしてあの時私達が神秘の森に居る事が分かったのだろうか、と。
一応、六十七話参照。
これがあればそれは説明出来る。だって今回もこれで居場所が割れたのだから。それに、サナは「時間が無い」だの「そろそろ来そうだし」だの言っていた。多分それはこの事なのだろう。色々忙しなく動いていたのはコレ対策なのだろうか。
「でも、その割には遅かったよね。来るの」
これがあれば一発なのに。そう言うとネイルは「これの存在忘れててさっ!」と、あははははと笑った。
「…………」
何故だろう。ブカの怒り狂う様が私にも見えてくるようだ。きっと私とサナのいない所で一悶着も二悶着も、いや、三人には三悶着ぐらいあったのかもしれない。
私は未だにサナとやり合っているブカを見る。剣だけでやり合うブカは、きっとまだ魔法を使えない。そんなブカが、サナを押しているのか、それとも押されているのか。その判別は私には難しくて出来なかったがこれだけは分かる。
多分、ブカのストレスレベルは今や最高潮。
「…………」
無理させてるからなぁ。
我慢させてしまっているからなぁ。
魔王だった頃も。そして今も。
なら、ストレス解消にブカの好きな事をやらせてやるのが私の役目か。
「……ネイル、あの二人は少し放っておこうか」
「ん? 別に私はいいぞっ。サナも喜ぶだろうし」
サナは喜ぶのだろうか。疑問だったが、サナにはブカのストレス解消に付き合って貰っとこうと思う。何せブカと対等かそれ以上にやり合えるのなんてサナ以外にはいないだろうから。
「アルファルド君」
私はアルファルド君を呼びネイルから離れる。ネイルは楽しそうにサナとブカの二人を見ていたのでこちらには来ないだろう。そして私は彼に聞きたい事を聞く。
「あのね、アルファルド君。一つだけ確認したい事があるんだけど」
そう私が言うと、アルファルド君はじ、と私を見た後「俺も確認したいんだけど」と口にした。
「何?」
「レイト、お前帰る方法アイツに聞いたんだろ?」
ブカが喋ったのだろう。私は頷く。
「うん。聞いた」
「どんな方法だったんだ?」
どうやらアルファルド君はブカから詳しくは聞いていないらしい。ブカも中途半端な事をする。
「簡単だよ。とてもとても……、ね。だけどアルファルド君。私、まだ帰る気ないから」
「…………」
私はアルファルド君を見て微笑む。アルファルド君は私のその言葉に特に表情変える事無く私を見続けていた。「帰る気ない」と言った私に、アルファルド君は何も言わない。
「サナから聞いたんだ。アルファルド君はね、魔王復活阻止の生け贄として選ばれたんじゃなく、もしかしたら別の意味があって選ばれたんじゃないか、って」
「別の、意味?」
「うん。だけどね、やろうとしている事は一緒なんだよ」
この世界が、アルファルド君を『どうしたいのか』は一緒なのだ。
「ねぇ、アルファルド君。私さ……、私はね、アルファルド君の運命を変えるためにここに来たんだよ」
私がこの世界に来た理由。
私がこの世界にいる理由。
それはきっと最初から最後まで私の中ではこれ一つだけ。この世界が私をどうしたかったのかなんて知らないけれど、私の中ではこの世界でやるべき事はいつだってたった一つだけだった。
『これが俺の運命だったんだよ』
『彼は死ぬ』
アルファルド君にまだ、そんなくだらない運命が縛りついているのなら。運命が君をそこへと導くというのなら。君がまだ、運命という言葉を使うなら。
いつか私は元の世界へと帰るけれど。
「ね、アルファルド君。アルファルド君はさ、生きたい? それとも死にたい?」
アルファルド君は一度死を受け入れてしまっている。だから恐れない。怖がらない。いつだって前を向いて、いつだって前に進んで。
立ち止まる事はあっても後ろに戻るだなんて事は決してなかった。
だってアルファルド君にとってそれはいつだって側を漂っていたから。アルファルド君はそれを受け入れてしまっていたから。それが当然の『運命』なのだと受け入れた。あの時からずっと。ずっと。
だからそれ以上に怖い事など、アルファルド君にはなかったのだろう。
「ねぇ、アルファルド君。願ってよ」
あの時無かった君のお願い。星へと願えなかった君の願い。君の望み。君の希望。
怖がったっていい。
恐れたっていい。
逃げたっていい。
諦めなくていい。
望んだっていい。
今度は一緒に願おうよ。
私が一緒に願ってあげる。
「私ね、お願いをさ、やっぱり変える事にするよ」
流れ星へと願った願い。元の世界へと願った願い。そんな願いより、私は叶えたい願いがある。
「ねぇ、アルファルド君。願ってよ」
君が願ってくれる事を願う。
君が望んでくれる事を願う。
君が私に、言葉にして祈ってくれる事を願う。
「君のために、私がすべきことを。君のために、私がやるべき事を」
運命なんてものを変える事を。
「……おれは」
私の頭の上にいたミズイロが「キュア」と鳴いて翼を動かし、アルファルド君の頭の上に着地する。そしてもう一度「キュア!」と鳴いた。
私はそれが嬉しくて。ミズイロの気持ちが分かったから、だから私は嬉しくて自然と口許が緩んでしまう。
「ね、アルファルド君。私達三人、最強だと思わない?」
私とアルファルド君とミズイロと。三人でいれば、きっと運命なんてコテンパンにのしてやれるよね。
「だからお願い。アルファルド君」
「……おれの、願いは……」
今度はさ三人で。
三人で一緒に運命をぶち壊してやろうよ。
「生きたいって、願って?」
泣きながら『生きたい』って言わなくてもいい。
死にたいと言っていたあの有名な漫画の彼女のように、泣き叫ぶようにそんな言葉を口にしなくてもいい。精一杯に生にしがみ付いてくれなくてもいい。
ただ願ってくれればそれでいいの。
心の中で。
アルファルド君の中で。
願いなど無いと言った君のその意識の中に。
願う事を忘れないで。
光が君を照らすから。
私が光をあげるから。
「君の願いは必ず叶うよ」
私が必ず叶えてあげる。
君の運命を変えるのが私のこの世界での役目。
私の中のたった一つの大事な『立ち位置』。




