73.お任せ下さい、お嬢様
アルファルド君達のいる神秘の森へと戻った私達。
そこには何故かご機嫌さんなミズイロと、こっちを見て何故か不機嫌そうな顔になったアルファルド君と、そして私に抱きついてきた魔女っ子ネイルの三人がいた。
「レイトっ!」
「わぷっ」
ネイルに抱きつかれ私はよろめく。
「大丈夫だったか?」
「うん。ネイルこそ」
相も変わらずお元気そうで。
私は抱きつくネイルを抱き締め返す。もしかしたらネイルには抱きつき癖とかあるのかもしれないな、とそんな事を考えつつ。だけどまぁ、別に抱きつかれるのは嫌ではないし、普通に嬉しかったりする。
「ネイル、ありがとね。アルファルド君のこと。それにミズイロも」
ミズイロが「キュアー」と鳴く。怒って何処かへと飛び去ってしまっていたミズイロ。そんなミズイロをアルファルド君とネイルは見つけ出してくれていたらしい。今はアルファルド君の頭の上にいるミズイロだが、怪我も無さそうで元気である。
だけどさっきから何故だか物凄くご機嫌で、かなりテンション高いように見えるのだが何かあったのだろうか。ミズイロは怒って飛び去っていたはずなのに。
そう疑問に思っていたら、ミズイロが私の頭の上に飛んできて着地する。
「キュア!」
やっぱり機嫌が良い。
ネコのようにごろごろと喉を鳴らしそうなほどご機嫌なミズイロをひょいっ、と抱き上げ私はミズイロに聞く。
「ミズイロ、どうしたの?何か凄くご機嫌だね」
「キュアーッ」
アルファルド君やネイルがご機嫌とりに何かしたのだろうか。
私がミズイロの頭を撫でながらその辺りの事をネイルに尋ねると、ネイルは「見れば分かるぞっ!」と、何故かこちらもテンション高めにそう言った。まぁ、ネイルは常時こんな感じな気はするが。
「見ればって、何を」
「行くぞっ、ちっこいの!」
ネイルがそう言うと、私の腕の中にいたミズイロが「キュア!」と鳴いて私の腕の中から飛び立ち一直線に上空へと飛んでいく。
「あ、みず」
「レイトも行くぞっ!」
そう言ってネイルが私の手を取り、呪文を唱えた。すると、ネイルと私の体が突然ふわりと宙に浮く。
「わぁっ、とっ!?」
「しっかり掴まってろよっ、レイト」
そう言うやいなや、ネイルと私の体が上に上にと浮き上がって行くのに私は慌てた。多分ミズイロを追いかけるのだろうが一体何処へ行くのか。
「速度あげるぞーっ!」
ネイルが私の手を掴む手に力を入れた。だけど私は気付いた。下に残されている人物達に。
「ま、待ったまったネイル!アルファルド君とブカが置き去りにっ」
アルファルド君とブカは地面に置き去りになってこちらを見上げている。まさか二人はここに残して行くのか。
「アルファルドはさっき見たから大丈夫だ。ブカは…、また後ででいいだろ」
「いや、違、そうじゃなくてっ」
とりあえず一旦下ろして、と私が頼むとネイルは不服そうだったがゆっくりと地面に下ろしてくれた。
「ネイル、アルファルド君やブカだけをここに置いて行くのは危ないって」
私はネイルに言う。
アルファルド君は当たり前だが、ブカもまだ幼い姿のままなのだ。何かあってもこの二人じゃ対処しきれない。
「…それもそうか。だけどレイト、私、一人連れて行くのが精一杯なんだが」
ネイルの飛空魔法。
自分自身と、あと一人浮かせるのが限界らしい。ブカは言わずもがな、まだ魔法など使えないだろう。
「レイト、確か飛空は出来ないんだよな?」
「う…」
ネイルの言葉にぐさりと来てしまった。
すみません。出来なくて。
私はため息を吐く。
何だか私は出来ないことが多い気がする。役立たずだなぁと思う。
こんなんだから勇者さんには嫌われるしブカには色々諦められるしアルファルド君には。
「…………」
私はため息を吐いた。
不甲斐ない。あまりにも不甲斐ない。
こんな自責の念も何度となくしている気がする。
それでもまぁ、一応試してみたけれど。
「飛べっ!」
ぷいん。
「…………」
「………」
「……うぅ」
やはり無理だった。
泣きたい。
この虐めに私はもう耐えられそうにない。
「結乃様」
そんな私に小さなブカがいつもの『無』な表情で声をかけてくる。
「どうしたの?ブカ」
「私達なら大丈夫です。置いて行って下さい」
そんなことを真顔で言うブカ。
何が大丈夫なものか。
「駄目だよ、ブカ」
私は小さな子に言い聞かせるようにしゃがみこんでブカの頭を撫でながらそう言う。けっして「大丈夫」と言ったブカの見栄っぷりが可愛くってちょっと和んだからとかそんな邪な理由などではない。
「ブカはまだ小さいんだからさっ」
「………」
私がなでなでと小さなブカを撫でながら和んでいたら、ブカが目を閉じた。
そんなブカの体は徐々に大きくなっていく。
「ブカ……」
私は目を丸くする。
ブカが小さな幼い姿から前の、元の大人の姿へと戻ったからだ。いつも私を助けてくれていた私の片腕。ブカ紳士。ブカ執事。オンリーワンのナンバーワン。
服、どうなってんの?とか突っ込んでみたかったがとりあえず止めておく。
私は立ち上がりブカに聞く。
「ブカ、力戻ったの?」
まさかこんなに早いとは思っていなかった。もう少し時間がかかるかと思っていたのだけれど。
だけどブカは「いえ」と首を横に振る。
「姿は元に戻せますが」
ブカが手に力を込める。多分、剣を具現化したかったのだろうが、途中で霧散しそれは叶わなかった。
「姿を戻すので精一杯のようです」
ですが体が大きければ何かあったとしても対処出来ますので、とブカは言う。
「だけど…」
「大丈夫です。心配なさらずともこの人間のことも私にお任せ下さい」
ブカはそう言ってちらりとアルファルド君を見た。確かにアルファルド君のことも勿論私は心配なんだけど、今私が言おうとしたのはブカのことなんだけどな、と思いつつ私はブカをじっと見る。
「お任せ下さい」
ブカも私をじっと見る。そんなブカを見ていたら、私がここで任せないわけにもいかなかった。
だけど心配だ。
ブカの事は信頼してるし信じてもいる。だけど力がまだ完全に戻っていない以上、ブカに戦う術はない。魔法も使えなければ剣すら造り出せないのだから。
ブカは体術、出来ただろうか。多分優秀なブカのことだからできるのだろうけれど、見たことはない気がした。
「お任せ下さい」
ブカがもう一度そう言った。




