7.イベント終了
この体で出来る事と言えば、祈る事だけだった。
神様の存在なんて、私は正直信じていない。ただ、お正月には神社に行きお守りという不確定な物にすがり、皆の健康と無事を祈り心の平穏を保つ。
神様がいるのかいないのか。それは誰にも解らない。解らないものに、叶えてくれる保証もないものに、ただ願うだけの自分なんて嫌だ。
力が欲しい。
少しだけでいい。
ほんの少しで、かまわない。
見ているだけの、
祈るだけの、
自分から抜け出す力を。
一人対複数の戦いは圧倒的に一人の方が不利だ。アルファルド君は片膝をつき、斬られた左肩を押さえる。
息も絶え絶えに、それでも手に持った剣をアルファルド君は離さなかったが、それでももう限界だった。
「アルファルド君っ!!」
届かない叫びと、使えない体で走る。どうしようもないけれど。どうすることも出来ないけれど。
走り出さずにはいられなかった。
そしてソレは突然現れた。
「………!!」
私の目に突然映ったのは、突如現れた大きな炎。アルファルド君を守るかのように立ち上るその炎は、その姿を竜のように変えて男達に襲いかかる。
男達は悲鳴をあげながら炎の竜にその身を焼かれて転げ回る。そして男達の頭上に、またまた突如現れた豪雨によって消火沈静された。
ぐったりとする男達を、地面から出てきたシャボン玉のような球体が包みこむ。膨らんでいったそれが弾けると同時に、男達の姿はそこから跡形もなく消えていた。
「な、何が起こったの…?」
呆然とその場に立ち尽くしていた私は、アルファルド君の側に駆け寄った少女に気付く。それは、あの藍色の髪の少女だった。
そして、その少女の手には先程まで無かったものが握られていた。
魔法使いが使うような、先端が曲がっている杖。
あの少女は魔法使いだったらしい。
炎の竜も男達の頭上に現れた突然の豪雨も、あの虹色のシャボン玉も。
全てあの少女の魔法だったということか。
それならそうと何故最初から魔法を使わない……。
少女は傷だらけのアルファルド君の側に同じように膝まづき手を翳す。
少女の手から出た淡い光がアルファルド君の体を包み込みその体を癒す。
おぉー回復魔法かなー、と興味を引かれた私は二人の近くまで寄り、その不思議な光景を暫くの間眺める。
アルファルド君の左肩の傷は意外と深かったらしく、少女の魔法でも治せないようだった。それでも他の傷はほぼ完治したらしく、アルファルド君と少女は立ち上がり何処かへと向かう。
私がとりあえず2人についていくと、向かった先は先程まであの男達が通せんぼしていた道の先で、その先にあったのは小さな洞窟だった。他に道はなく、そこにあったのは小さな洞窟と、登るのには適していない大きな壁が広がっていた。
アルファルド君と少女がその洞窟に入っていってしまったので、私はとりあえず外で待機する事にした。
小さな洞窟なので、多分壁の向こう側に繋がっているという事はないだろう。
壁にもたれて一息つく。
照りつける太陽が自分の影をさらに濃くする。幽霊のような存在なのに影は存在するんだなー、とぼんやりと考える。
影すら見えてないんだよな、悲しい事に。
「……君がそれを望むなら、力をあげようか」
頭の中に響いた誰かの言葉を口にだしてみる。
力は確かに欲しかった。
あの声が言うがままに私が力を欲すれば、きっと漫画やアニメのようなチートな能力でも手に入れられたのだろう。
そうすれば何も出来ない今の状況から抜け出す事ができる。もしかしたら、この世界での自分の役割だって見出だすことが出来たのかもしれない。
だが。
何故だろう。
その声に含まれる歪な、禍々しい情念のような黒くて暗いきみの悪い波動に流されて、欲するままに力を手にしてしまっていいのかと、私の中の何かが騒いだのも確かだ。
私の中の、小さな何かが。
小さく騒いだ。
しばらくして、洞窟から出てきたアルファルド君と少女は、楽しそうに会話をした後で握手をし、そのまま別々の方向へと歩き去っていった。
イベント終了?
私はアルファルド君の後を追い、彼が腰に差している見覚えのない剣に首をかしげる。
後ろを振り替えれば、藍色の髪の毛を一つに纏めて背中に流した、あの少女の姿がはるか遠くに見えた。