67.口論
アルファルド君に殺されかけた。
窒息死。
酷すぎる。
あんまりだ。
ていうか、泣き止ませ方が雑。
アルファルド君は絶対に童貞だ。
私はそう思う。
「ミズイロぉー」
私達は今、何処かへと一人飛んでいってしまったミズイロを探している。
「アルファルド君がミズイロに酷いことするからっ」
「お前もだろ」
うっ、と私はアルファルド君のその返し言葉に詰まってしまう。
そうなのだ。私もミズイロをぶん投げてアルファルド君にぶち当ててしまった。手頃なものが無かったのでそうしてしまったが、ミズイロに対してあまりにもな対応だ。
ミズイロ、ごめん。
「ミズイロぉーっ」
謝るから出てきてよ。
ミズイロの好きなものいっぱい食べさせてあげるから。いっぱい遊んでもいいし、いっぱい遊ぶから。今なら私、君のために尽力を尽くそうぞ。全力でミズイロに奉仕しようぞ。
「ちょっとアルファルド君っ!アルファルド君もちゃんと探してよ!!」
「探してるだろーが」
探してるわりには、さっきから全然ミズイロを呼ぶアルファルド君の声は聞こえないけどっ!?
私はアルファルド君を見てそう思いぶちぶちと歩く。全く、誰のせいでこうなってると思っているんだか。
「そもそもアルファルド君がいらんことするから」
呟いたその私の言葉はアルファルド君にばっちり届いていたようだった。アルファルド君がぴくりと眉を上げる。
「ちょっと待てよ。俺が全部悪いのか」
「そーだよっ、アルファルド君があんなやり方で私を助けようとした事がそもそもの問題なんじゃないかっ」
「はぁっ?お前助けてもらっといて何だよその態度はっ!」
「だからやり方が問題だって言ってんじゃん!」
命を投げ出すとか。
アルファルド君はそもそも自分を軽んじる所がある。自分を大事にしない奴は嫌われるんだからな。
「死んでもいい、とか。ばっかじゃないのっ」
その言葉にアルファルド君がキレた。
「お前を助けるためにやったことだろうがっ!!!それをさっきからぐっちぐっちぐっちぐっちと!助けなきゃ良かったってことかよっ!!」
「そんなこと言ってないでしょっ!!やり方が問題なんだってさっきから何回も言ってるじゃんっ!アルファルド君、自分の状況気付いてないのっ?片腕無くしてるんだからね?!」
片腕を無くす事がこれからの人生でどれだけ大変な事なのか。
アルファルド君は分かっていない。
「命があるだけマシだろっ!!」
「全然マシじゃないしっ!!!!」
「じゃあ死ねば良かったって言いたいのかよっ!!!!」
「言ってないでしょっ!!!!そんなこと!!!!!」
「言ってるようなもんじゃねぇーかっ!!!」
「…っ、アルファルド君は全然全くこれっぽっちもそれっぽっちも…、全部、全部全部全部ぜんぶ分かってないっ!!!」
どうして分からないのか。
君がそうやっていとも簡単に自分のことを粗野にする度に、私は苛々してムカついて腹が立ってむしゃくしゃしてどうしようもなくて、
どうしようもなく、
どうしようもない気持ちになるんだよ。
「アルファルド君は分かってないんだよっ!!」
何も理解していない。
私は叫んだ。
だが。
「じゃあお前はどうなんだよっ!!!!」
アルファルド君はそう言って私を睨む。
その睨みと言葉に私はちょっと怯む。そして次のアルファルド君の台詞に、私はついに窮地に追い込まれてしまうのだ。
「お前はどうやってあの呪いから俺を助けたって、言うんだよっ!!」
アルファルド君がギッと私を睨みつける。
「…そ、それは」
ま、マズイ。
これは非常にマズイ。
アルファルド君はもしや知っているのだろうか。私があの時アルファルド君を助けるためにどう行動したのかを。
「い、今それ問題じゃないしっ」
「問題だろーが!…そういえばその辺り俺は何にも聞いてないんだ。あの呪いは魔王であるお前が死なない限り解けないはずだったんだ。それがどうして呪いは解けたって言うんだよ。それに、アイツらお前が元の世界に帰ったとも言ってたぞ。それがどうしてまだここにいるんだよ。アケルの様子がおかしかったから気付けたようなものの、アケルがいなかったら俺はずっとお前は元の世界に無事に帰れたんだって思ってく所だったんだぞ。何か妙だなって感じながら、ずっともやもやしながら生きてかなきゃならない所だったんだぞ。それでもまだ問題じゃないって言うのかよ」
「……う…」
「…で、お前はあの時何をした」
い、言えない。絶対に。
よもや一度死にました、なんてこと言ったら…。
私はアルファルド君から目を逸らし、どうにか打開策を考えるが思いつかない。全然浮かばない。駄目だ。無理だ。どうする。
「…い、い、いい今それ問題じゃないしっ!!」
だから同じ事をアルファルド君にぶつけた。
「じゃあ、何であんなことになってたんだよ」
アルファルド君言う『あんなこと』とは。
見えない聞こえない触れない届かない。
何もない。
私のそんな状態のこと。
「…ぅあ、アルファルド君は問題をすり替えようとしているっ!」
破れかぶれにビシッ、と私はアルファルド君を指さし言う。
「はぁ?」
「今、問題になっているのはアルファルド君が自分を顧みず他人のために何もかも投げ出そうとしている所が問題なのであって、私のことは何も関係ないでしょっ!」
「何だよそれ。じゃあ聞くけどお前は他人である俺のために何も投げ出して無いって言うのかよ。お前が魔王になったのもそもそもは俺のせいじゃねぇーかっ」
「私はいいけどアルファルド君は駄目なんだよっ!!」
「何でだよっ!?」
「駄目なもんは駄目っ!!絶対だめっ!!!!!」
「だから何でだよっ!!!」
「何ででもだよっ!!何でもなにもないよっ!!駄目なもんはだめっ!!!!絶対だめっ!!禁止っ!禁止事項!!!ストップ、ザ、身投げっ!!!!!ストップ、ザ、デンジャーッ!!!!!ストップ、オブ、ザ、ワールドッ!!!!!!」
「わけの分からん異世界語を使うなっ!!!」
終わらない口論。
止まらない言い合い。
どっちも引かない。
引く気なし。
そんな二人を止められるのは第三者しかいなかった。
「…何やってるのよ、あんた達は」
そんな呆れた声でそう言ったのはいつからいたのか。
勇者さん、だった。




