63.解決編、なのだから
「…ひっく、…っう」
『なかないで』
ミズイロが私の頬を舐める。アルファルド君が、私の前に立っている。
それが数分ぐらいそのままの状態で続き、そしてアルファルド君が口を開いた。何やら長々と喋っているのだが、残念ながら私は解読不能だ。
「…ミ、ミズイロっ…、アルファルド君、何て言ってる、の?」
『むずかしくてわかんない』
「………」
ああ、アルファルド君。
お願いだからミズイロにも分かるように、簡単な言葉で話してよ。
その後も、何やら話したり止まったり、話したり黙ったりをしていたアルファルド君。
徐に歩き出し、私に背を向け丘を降りて行こうとした。
「…あ、アルファルド君っ、何処に行くのっ?」
行かないで、と思った。
行っちゃ嫌だ、と思った。
『あるふぁど、いくって』
ミズイロが言う。
「何処に…?」
帰っちゃうのだろうか。
『わかんない。でもわかる』
どっちなの。
あとミズイロ、アルファルド君の名前、物凄く惜しい間違いを。アルファド、じゃなくてアルファルド、だよ。一個文字が足りない。
『れいと、まってて』
そう言ってミズイロは、すりすりと私の顔に擦り寄ってから私の所から飛び立っていく。そして、私達に背を向け歩いていたアルファルド君の後頭部。
そんな無防備なアルファルド君の後頭部にミズイロは、どかーんっ、と体全体でぶつかった。
「…………」
アルファルド君がミズイロの不意打ちの後ろからの攻撃に足を滑らせ、顔からべしゃんっ、と倒れる。
ミズイロの攻撃はアルファルド君にクリティカルヒットした。
哀れ、アルファルド君。
いや、あれは痛い。痛いぞ。
「……ミズイロ」
私はミズイロを見る。パタパタ飛んでいる。
もしやミズイロは私のために、アルファルド君を立ち止まらせようとしてあんなことをやってくれたのではないだろうか、と思ってしまった。
もしそうなら、アルファルド君に大変大いに申し訳ないんだけど。
そんな思いで見ていると、アルファルド君が立ち上がりミズイロを見る。眉間に皺。ここからでも分かるぐらいに眉間に皺。
そんなアルファルド君を異に返さず、ミズイロはパタパタと飛んで、地面に降り立った。
「………?」
ミズイロ?
私はミズイロをじっと見る。何か様子がおかしい。
ミズイロは地面に降り立ち、翼を広げた。その水色の両翼を大きく広げている。
限界ぐらいまで広げているのだろうか。ミズイロが広げた両翼は今までで一番大きく、そして力強く見えた気がした。
そして、バサッ!、という音がしたかと思うと、ミズイロの背中に今までの両翼とは別の翼が二翼唐突に生える。
「………!」
いっ?!
と思っていると、ミズイロが何やら徐々に大きくなっていき、さっきまでの小さな可愛い小動物から、大人一人分ぐらいの大きさまで大きくなった。
その姿は、本当に一匹の竜のようだった。
ミ、ミズイロ、何者。
アルファルド君も驚いたようにミズイロを見ていた。そして、ミズイロがアルファルド君に向かって鳴く。アルファルド君はミズイロの背に乗った。
そして、とことことミズイロがアルファルド君を乗せてこっちに近付いて来て、その大きくなった顔で私の顔に擦り寄ってきた。
角まで生えてしまったミズイロのそれに、私はちょっとだけ危ないな、と思ってしまう。
あ、でもさわり心地は小さな頃と変わらない。ふさふさだ。
『まってて』
それだけミズイロは言って、アルファルド君を背に乗せたまま飛び立って行ってしまった。
二人が何処に行ったのか。
私には分からなかった。
それから暫くして、ミズイロとアルファルド君が戻って来るのを私は上空に発見した。
ミズイロはその背にアルファルド君、そして何故かもう一人人物を乗せて、危なっかしくふらふらと飛んでいる。
あっちーにふらふら。
こっちーにふらふら。
あまりにも右に左に上に下にとふらふらとしているので、墜落しないか心配だった。ミズイロは察するに一人乗りが限界らしい。
「………」
それにしても。
私はアルファルド君と一緒にミズイロの背に乗っている人物を見る。遠目にでも分かった。それは私も知っている人物。
あの、カグヤだった。
盲目の男は相変わらず盲目らしい。
でも、何故カグヤが?
まぁ、カグヤなら私の声が聞こえずとも私の位置が分かるのだろうが、言葉が分からない、声が届かないのでは意味がない気がするのだが。
そして、ミズイロが地面まであと少しで降り立つ、という所でミズイロは何故か背中に乗っていた二人を振り落とした。
「…………」
ズシャァーーッ、と振り落とされたアルファルド君とカグヤが地面を滑る。ああ、酷い。
ミズイロはぶるぶると体を揺らした後、元の小さなミズイロに戻った。翼も両方に一翼ずつ。
『がんばったっ』
そう言って、ミズイロが私に飛び込んで来た。嬉しそうに笑うミズイロを、私は撫でてやる。
うん。偉い。偉いよ。頑張ったね。
だけど、最後のはちょっとあれだったね。
まぁ、限界だったんだよね。
振り落とされたアルファルド君とカグヤさんが、あ痛たたたた、な感じでこっちに歩いてきた。大きな怪我はないようだが、大丈夫だろうか。
「―――――――」
私の目の前に来たカグヤさんが何か言う。
だけど、やっぱり私には分からなかった。
カグヤは何も言わない私に…、まぁ言っても届かないのだが。そんな私に、おもむろにカグヤが取り出したのが緑色のキューブだった。確かあれは、記憶術、とかって言ってたものだ。
ワープ出来る便利魔法アイテム。
それをどうするのだろうか。
わたしが、じっと見ているとアルファルド君が何か言った。多分私に向けて、何だろうか。よく分からない。言葉が分からないのは本当に歯がゆい。
『いこうっ、て』
ミズイロが私に言う。
「…行くって、何処に?」
ミズイロに聞く。今度は私も一緒なのだろうか?
良くは分からなかった。だけど、いこういこうと言うミズイロに連れられ、私はアルファルド君とカグヤの側に立つ。そして、前の時と同じで緑色の光が光輝いて私達を包み込み、私達は空間を移動した。
私は進まなくてはいけない。
何も分からなくても時間を止めて考えたりすることは出来ない。
だってほら。
今ここはもう『解決編』
なのだから。
前に進むしかないのだ。




