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私の異世界での立ち位置  作者: 葉月
勇者編
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6.少女と力と勇者様


街に入ってすぐ右手にある、お食事処と思われる看板が立つお店。昼前だと思われる時刻にしてはお客さんの入りが多いそのお店の奥の席に座ったアルファルド君。

そのアルファルド君の目の前に座っているのは先程出会った少女。アルファルド君は口を閉じることなくわーわーと喋り続けている少女の話を、困惑した表情で聞き続けていた。





よく喋る子だなぁ。



そう思うのも無理はない。出会った当初からこの少女はこのテンションで喋り続けているのだから。とてもアルファルド君と初対面とは思えないほどの弾丸トーク。

まるで懐かしの旧友にでも出会いタガが外れたかのような、そんな雰囲気だった。


私は、椅子に座るアルファルド君の後ろ側に立ち、そんな少女をじっと観察する。

藍色の、少しクセっ毛のある長い髪を背中に流し、髪の色と同じ色の切れ長の瞳と桜色のくちびるを持つ推定16歳ぐらいのその少女は、時おりその瞳に涙を溜めたり、かと思えばその顔を歪め怒りをあらわにしたり、動物のような愛らしい表情で笑ってみせたり。


くるくると変わる素晴らしい顔芸…もとい、表情に、私は一人感嘆の拍手を贈った。










事の起こりは今朝の事。





寝て起きたら現実の世界でしたやっふい。という事もなかった私は、今だ異世界にいた。

昨日の夜、眠気は確かに無かった。だが、目を瞑れば深い眠りの闇に堕ちていたらしい私は、今朝アルファルド君が起きる数分前に目覚める事ができた。



もし、アルファルド君より起きるのが遅かったらと考えると……。



あ、危なかった…。

こんな異世界で一人ぼっちになんて、絶対になりたくないものだ。

見えなくても、声が聞こえなくても、知り合いが側にいるというのはそれだけで安心できる。



まぁ、一方通行の知り合いですけどね。



「今日こそは街にたどり着けるといいね、アルファルド君」


ファイト!とエールを贈り、私はアルファルド君の少し後方を歩く。アルファルド君は相変わらず地図を見つつ歩いていくのだが、


その道が本当に合っているのかどうかは微妙な所だった。



アルファルド君の方向音痴は壊滅的だな、こりゃ。



今日中に街に着く事をあんまり期待しないで、のんびり後ろを歩いていた私は、後方から物凄い勢いで走ってくる人物に気がつかなかった。



「――――!!」


ひゅんっという音とともに、私の横を風の如く通り過ぎて行き、前にいたアルファルド君にドカーンッ、とぶつかったその人物は、アルファルド君の胸ぐらを掴み叫ぶ。


アルファルド君はその突然な出来事に即座に対応することが出来ないのか、その人物のされるがままに馬乗りされガクガクと揺さぶられていた。




ふむ。

何かのイベント発生フラグか?



私はされるがままになっているアルファルド君を見つめながら、その人物が落ち着くorアルファルド君が頑張って動きだすのをひたすらに待っていた。






そうして今、アルファルド君と私は目の前に座る少女に連れられて新しい街に来ているのだった。

奇しくも、新しい街まで迷うことなくたどり着く事が出来た事は、この少女に感謝しよう。




だが。



いったい何の目的でアルファルド君に体当たりをかまし、その後アルファルド君が口を挟む余裕もないぐらいに喋り続けているのか。



私は終わる様子のない少女の話にため息をつく。



「言葉が解らないって本当に不便すぎー。誰か教えてくださーい。何のイベントですかー、これはぁー」



解らない話を聞き続けるのも、そろそろ飽きてきた。私の声も聞こえないし…。歌でも歌うか。


そんな事を考えながら一人、お店の中を物や人にぶつからない様に気を付けながら暇潰しに歩き回る。

木造2階建てのこのお店は、1階にはカウンターと数卓のテーブル。中央にある小さな螺旋階段を上ると、2階にも1階と同じようなテーブルが何卓か並んでいるという、何かの漫画で見たような造りになっていた。


お店に入った当初、他のお客さんで賑わっていたお店の中も、今では私達の他には数人の客がいるぐらいになっていた。

あの少女が騒いだせいなのだろう。こちらをチラチラ見ながら、迷惑そうな顔をして帰っていったお客さん達がちらほら。

営業妨害もいいところだ。


その営業妨害に耐えて、今だお店に残ったお客さん。

中年の男性と、その男性の子供であろう、椅子に座り足をブラブラさせながら美味しそうにご飯を食べている小さな男の子が二人。


その男の子達は二人ともが灰色の長いローブのフードを目深に被っていた。よく見えないので年の頃は解らないが、まだ小学校低学年かそれぐらいの年齢だろう。

見た目チャーハンっぽいものをぽろぽろと溢しながら食べるその姿は、物凄く愛らしかった。



「んー、溢してる溢してる。溢してるよー」


そんな小さな少年達を見て癒されながら、ご飯を見ても感じることのない空腹感と、ちょっと食べてみたいという好奇心と眠くもないのに何故か出てくる欠伸をしながら、いつまでも終わりそうにないあちら側のアルファルド君と少女を見る。





話長すぎ。


私は新たなる暇潰しを求めてお店の中をさ迷った。










そんなこんなで話の終わったらしいアルファルド君は、少女と連れ立ってお店を出る。すでにお店を出ていた癒しーズと涙と感動の別れをしていた私は、誰も使っていない椅子に座っていた。腰をあげて、二人を追いかける。



何処にいくんだろ?



考えた所で解らない疑問の答え。

その答えは街を出て歩くこと30分ぐらいで判明した。



目の前には数人の男達。

手には剣や槍、でっかい斧のような武器を持ち、まるでこの先へは通さないぞと言った雰囲気で下卑た笑いを浮かべて立ち塞がっている。


アルファルド君がその男達に何か言い、男達も言葉を返す。







静寂が場を包む。






「―――――!!!!」


少女が何かを叫びながら男達に突っ込んで行くのを合図に、そのまま戦闘が始まった。





突っ込んでくる少女を止めようと男達は武器を振るう。が、少女に当たる前に少女の後ろから走って来ていたアルファルド君の木の棒ならぬ木の剣によって遮られる。その隙をつき、少女は走り抜けようとするが、多勢に無勢。

止めきれなかった相手の剣の切っ先が少女を捕らえ、少女はそれをすんでの所で避け、後ろに飛ぶ。


その間にもアルファルド君は、数人の男達に向けて棒(もう棒でいいよね)を振るう。




いまいち状況が掴めていない私は、それに巻き込まれないように遠くに避難して見守る。


「えーと、何だろ。あの男達が道を占拠してて、あの子は道を通りたくってアルファルド君はそれの手伝いをしてるってところ……かな」


今の状況を自分なりに想像してみる。


うん。

当たってるっぽい。



うんうんと頷きながら、男達に立ち向かうアルファルド君と少女を見る。男達の武器に対して、こちらはいつ壊れるかもしれない棒を使う青年が一人と無武器で戦う少女が一人。






『勝てるのか?』




そんな不安が頭をよぎる。




見てる事しか出来ない自分。何も出来ない自分。そんな自分に初めて苛立ちを覚えて、こんな体の自分に疑問が膨らんでいく。


どうして私はここにいるのだろうか。

どうして私はここに来たのだろうか。

どうして私は





動かないのか。










足元に落ちていた石を見る。手を伸ばし、掴もうとする。






バシッ!




「…………っ!!」


弾かれた手が痺れる。

触れなかった。






私には、手助けする事も許されていないの?










『……ソレ……ムナラ、《…》ヲアゲ……カ?』







誰かの声が聞こえた気がした。





その声をかき消すように、ひときわ大きな声が聞こえてきて、私が慌ててそちらを見ると、あの少女が男達の間を掻い潜って走り抜けた所だった。

少女はそのまま走り続け、それを追おうとする男達を何とかアルファルド君が止めている。

アルファルド君の体や顔には、刃物で切りつけられた痕がそこかしこにあり、そこからは赤い血が滲んでいる。

木の棒などとうに破壊されていて、男達から奪ったと思われる剣を持ったアルファルド君は、少女の後は追わせまいと男達に斬りかかる。

その蒼い瞳は確かに強い意思を持ち、男達を見据えていた。



金色に輝く髪と

深く吸い込まれそうな蒼い瞳。

少女のために男達に立ち向かうその姿は、

確かに彼が『勇者』なのだと示しているかのようだった。








『君ガソレヲ望ムナラ、《力》ヲアゲヨウカ?』




声が聞こえた。



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