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私の異世界での立ち位置  作者: 葉月
解決編
58/97

58.『continue』


解決編。

Game Overの文字が見えた気がした。

ああ、これはゲームだったのか。


そう思った。



「げーむ、の方が良かったか?」


女の子の声。

少女の、楽しそうな声。


「げーむの方が、良かったか」


イントネーションを変えただけの同じ言葉。

それはやはり楽しそうな少女の声。


何だ。あの少女か。

最初に変な質問をした。そして多分私を異世界トリップさせた。


きっと。多分。


前魔王様。




「こんにちは、結乃」

「…こんにちは、前魔王様」


凄いな。

私は今、普通に挨拶を返してしまった。何か突っ込むべきところがあるだろ他に、と思う。


「気分はどうだ?」

「……別に」


普通、だ。


前魔王様はその私の答えにつまらなさそうに口を尖らせた。


「死んだんだぞ?もちょっと、ないのか?こう、なんかぐぁー、みたいな」

「死んだのですか?」


死ねたのか。

私は死ねたのか。


「死んだな」


前魔王様は頷きながらはっきり「死んだ」と言った。


凄いな私。

自分で自分に剣を突き刺すとか、絶対出来ないって思ってたのに。

人間、死ぬ気になれば何でも出来るって本当なんだな。


「切腹よりはやりやすかったかな」


ぽつり、と呟いた。


「結乃、お前は死んだ」


さっきも聞いた。顔を前魔王様に向ける。


「前魔王様、あの世界で死んだら元の世界に帰れる、みたいなことでは」

「ないに決まっているだろう」


やっぱりないのか。

ちょっとだけ期待したんだけどな。

Game Overの文字を見た瞬間から。

あれは私の願望だったらしい。





これはゲームだったんじゃないかな、っていう。

最後の、私の、願い。





「残念だなぁ、結乃」

「……残念ですね」


まだ若いのに。

三十路にもなってないのに。四十路にもなってみたかったのに。

家族に、兄弟に、友達に



会いたかったのに。



異世界で死んだら元の世界では行方不明、になるのだろうか。

当たり前か。体はこっちにあるんだし。


「体だけ元の世界に戻る、なんてことないですよね」

「ない。死んだと言っただろ?」


ないらしい。

嬉しいんだが悲しいんだか。

まぁ、あんな剣突き刺さったスプラッタな体が家族の前に現れたら大変なことになるだろうけど。

中二病、とか思われるかもしれない。中二病ではないけれど、私、ゲームはわりと好きだったからなぁ。


「………」


元の世界に帰れたら、皆に話したかったんだ。この世界で起きた色々を。勇者じゃない勇者みたいな男の子の話とか、小さな水色した可愛い獣の話とか、ちょっと天然入ってるかもと感じてた目の見えない男の人の話とか、口の悪い魔法少女の話とか、最強無敵な格好いい勇者の話とか、私の言うこと聞いてくれた執事な魔物の話とか。名前からして終わってた、もう一人の魔王の話とか。


「…………」


色々あった色々を、割愛しないで全部話したかった。頭おかしくなった、とか、夢を見た、とか言われるんだろうけど、話したかった。

こんなに素敵なことがあったんだよって。

こんなに楽しいことがあったんだよって。

悲しいし淋しいし痛かったこともあったけど、私は異世界トリップして体験という体験をこれでもかってぐらいしてきたんだ、って。


元の世界に帰ったら、

そう言うはずだったんだけどな。



だけどこれはゲームじゃない。現実で現在で現状で現象で現行だ。

幻想じゃない。

妄想じゃない。

空想じゃない。

創造じゃない。



私は死んだ。



「…一応聞きますけど、夢落ちってことは」

「ない。お前は死んだ」


びしり、と指差しそう言われた。

しつこいだろうか。諦めが悪いだろうか。


ゲームなら、コンティニューがあるんだけどな。



「こんてぃにゅー、したいか?」


口には出していないはずなのに、前魔王様はそう聞いてきた。


「コンティニューなんてあるんですか?」


やはりゲームなのだろうか、ここは。


「やろうと思えばな。私なら出来る。こんてぃにゅー、とはあれだろう?生き返る、という意味でいいのだろう?」

「……生き返るって」


そんなバカな。

ゲームじゃないけど異世界だからありなのだろうか。それ。


「魔王が死んだ」


前魔王様が言う。


「魔王が死んだ、ということなら出来る」

「…魔王は私ですが」


よもや別人で生き返らせる気ではあるまいな。


「だから、魔王が死んで、結乃は生きる」

「…………?」


いまいち分からないのだが。


「結乃は頭が悪いのか?」


いや、あんたの言葉足らずな発言が悪いのですよ。前魔王様。


「でも、前魔王様。私、セーブとかはしてませんけど」


一度もそれらしきことはやってない。

ボス戦で死んだ、とかだったらそこに戻る可能性があったのだろうが。


「せいぶ?」


あ、分かってない。

やっぱり分かってない。


「で、どうするんだ?こんてぃにゅー、するか?」

「…………」


コンティニュー。

生き返る。


そういえば、アルファルド君は大丈夫だったのだろうかと思う。

私が死んだのだから、彼は助かっているはずなのだが。


彼は生きているだろうか。

彼は無事だろうか。



彼は死んで、いないよね。


「見てくればいい」


私は口には出していないのに、やはり前魔王様は、そう言葉を発した。


「こんてぃにゅー、して見てくればいい」

「……………」


コンティニュー。

生き返る。


「………」

「決まりだな」


前魔王様な少女は笑った。






『continue』




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