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私の異世界での立ち位置  作者: 葉月
魔王編
57/97

57.『Game Over』



残酷描写注意。






「う、ぐあぁぁぁぁぁぁぁっ…!!」

「っ、アルファルドくんっ!!」


アルファルド君が突然苦しみ出した。アルファルド君の体にある『呪い』が、徐々にそれを伸ばし彼の顔にまで伸びていく。

アルファルド君が胸を掴んで叫ぶ。苦しそうに叫ぶ。額に汗、なんてもんじゃない。

悶え苦しむアルファルド君は、見ていられない。見られない。見たくない。



「アルファルド君!アルファルド君!!アルファルドくんっ!!」


嫌だ。

嫌だ。

嫌だ。

嫌だ。

嫌だ。


こんなのは嫌だ。

こんなのは嫌だよ。

ねぇ。


「アルファルド君!っ、アルファルドくんってばぁっ!!!」


私は悶え苦しむ彼の体に触れる。

返事をしてよ。私の声にこたえてよ。

ずっとずっと、彼は悶え苦しむばかり。


嫌だ。


「っ、うあ、アルファルドくんってばっ!」


嫌だ

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだいやだいやだ。


「嫌だっ!!ねぇ、アルファルド君っ!!!」


私は叫ぶ。

叫ぶしか出来ない。

苦しむ彼を見ながら、

ただこうやって叫ぶだけ。


「アルファルドくんっ!あ、アルファルドくんってばっ!ね、ねぇ、ねぇ、ってばぁっ!!」


こうやって名前を呼ぶばかり。


「い、嫌だ、いやだぁっ、っ、いやだよっ!ねぇっ!!」


嫌だいやだと、子供のように泣き叫ぶばかり。


「あ、ある、アルファルドくんっ!!ねぇ、やだってばあっ!!!!」


苦しむ彼を見る。

呪いに犯されていく彼を見る。





死んでしまうかもしれない彼を、見る。





「…っ、や、っいや、ぃ嫌だぁぁ!!!」


死なないで

死なないで

死なないでっ



嫌だ。

こんなのは嫌。

アルファルド君

お願いだから



死なないで。





「っ、死んじゃやだっ!!!ねぇ、アルファルド君っ!!!!」


死ぬなんて言わないで。


こんなところで

こんな呪いで

こんな苦しそうに

こんな痛そうに




死ぬなんて言わないでよっ!!




「レイト!!!」


ネイルの声。

直後、アルファルド君の体が光輝く。


「ね、ネイル…」

「レイト!諦めるな!!まだ方法はあるっ!!」


多分、ネイルがアルファルド君に何かしたのだろう。ずっと悶え苦しんでいたアルファルド君は、今は落ち着いている。だけど、意識はないようだ。


「だっ、っだって、な、なに」


どうしたらいいのか分からない。

方法って何?


「レイトっ、アルファルドに呪いをかけた本人だ!張本人なら、もしかしたら呪いを解けるかもしれない!」


張本人。


「こっちはこっちでやるだけやる!だから、」


だから、に続くネイルの言葉は聞けずじまい。私は空間移動していた。移動した先はアルファルド君の街。その協会の中。

そしてあの女の所。始めて上手く移動した。


アルファルド君に聞いたわけじゃない。

だけど、そいつだと思った。


そいつしかいない。



「…あ、なたは」


その声に振り返る。

そこにいたのはあの女。


協会の、あの女だ。





私は腕を振る。黒い陰のようなものが、大きな手の形となって現れ、女を掴み壁にガンっ!と押し付けた。

始めて使った。

こんなもの。


女が背中を打った衝撃で少し呻いた。

そんな女に私は叫ぶ。


「アルファルド君の呪いを解け!!」


私の顔は今までに流した涙で汚れていただろう。


「…っ、あ、ルファルド?」


しらばっくれる気か。


「…っ、お前が、お前らがずっと、ずっと苦しめ続けてる彼のことだっ!!!」


ずっと。

ずっとずっと最初から。

こいつらがアルファルド君を生け贄にしようとした。こいつらがアルファルド君を生きたまま火にかけようとした。こいつらがアルファルド君に呪いをかけた。こいつらがアルファルド君を



殺そうとしてる。




「…っ、呪いを、解けっ…!」

「…ユ、ユノ様、のことですか?」


ああ、そうだよ。

そのユノ様のことだ。

手に力を込める。


「さっさとっ、呪いを解け…っ」


呪いを解いて彼を解放しろ。

このくだらない世界の

くだらないしきたりの

くだらない人間達の

くだらない事柄から。


彼を解放しろ。



女は呻く。


「…っ、あ、れは呪いではありません…っ。祈り、です」


女はそう言った。


「……は…」


今この女はなんて言った?

祈り。

祈り、とそう言ったのか。


あれが。

アルファルド君を苦しめているあれが


『祈り』だと。


そう言ったのか。



「…は、ははは」


あれが祈りだと。

私は笑えた。あれのどこが祈りだ。

アルファルド君の体に寄生して、アルファルド君を苦しめ、アルファルド君に痛みを与え、アルファルド君に諦めさせた。



あれのどこが祈りだというのか。


この世界は狂ってる。

この世界の人間は、狂ってる。


この女は、狂ってる。



「あんなもの、祈りでも何でもない…」


祈りでも、

ましてや呪いでもない。



あれは傲りだ。

狂った人間達の傲り。


この世界の狂いきった人間達の、


汚い傲りの心なんだ。




「…、ねえ、さっさとアルファルド君を解放してよ」


彼はあんた達のおもちゃじゃない。


「…っ、無理、です」

「無理じゃないっ!!」


力を入れる。

女はそれでも無理だと言った。


「…い、のりは無くなりません」

「無くならなくなんてない」

「無理、なので、す」

「無理じゃないっ!!」


無理じゃないっ!

私はキッ、と女を睨みつける。女は怯まない。怯えない。恐怖しない。


「…無理じゃないっ…!」


無理じゃない。

絶対に。

無理なんかじゃない。


「…あ、なたは、知っているのではないですか」


女が言う。


「…なにが」


何が。

何を。


「祈りが無くなる、方法を」

「………」


アルファルド君があの呪いから解放される方法を。貴女は知っているのではないですか?


私は女を睨み付ける。

女はやはり怯まない。怯えない。恐怖しない。表情なんて変わらない。



気持ちが悪い。



「あ、なたは知っていますね。祈りが、叶う方法、を」


祈りなんて知らない。


「だったら、それを、叶えればいい」


これは呪いで傲りだ。


「あな、たは知っています。祈りが、叶う方法を。祈りが消え、る方法を」


知っている。

私は知っている。


知ってる。



知ってる。そんなこと。







『誰かが笑ってる。その一方で


誰かが確実に泣いている。


そんなことも、分からないの?』











女が、口を、開く。








「貴方が死ねばいい」




バァンっ!!

と、女が私の陰の手によって押さえつけられていた壁と逆の壁にぶち当たる。死んだかもしれない。それぐらいの音。



「…………っ…!!」


そうだ。

私は知っている。

それが一番確実で。

一番明確で。


確固確然たるやり方。




「…っう…」


言われなくても分かってる。


「…うぁ…」


示されなくても分かってた。


「…うぅ…」






知ってる。

知ってた。




知ってたよ。

お前らに言われるまでもなく。


理解してた。







「…ぃ…たいのは…やだよっ…」


痛いのは嫌だ。



「…怖…ぃのも…やだ…っ」


怖いのも嫌だ。



私の顔には涙しかない。


「……ぅう…っぁ…」



痛いのは嫌。

怖いのだって嫌。




私は手に力を込める。

力が固まって具現化し、一振りの剣を作る。


ブカのを見ていて、私にも出来るだろうかと考えていたもの。今日は始めてのことがよく出来る。



痛いのは嫌。

怖いのも嫌。




私は剣の刀身を自身の胸に向ける。



だけどね、アルファルド君。



剣を持つ手に力を入れる。

涙がずっと流れてた。




だけどね、アルファルド君。





「………っ…!!」






痛いのは嫌。

怖いのも嫌。






だけど私は、










君が死ぬのを見るのは

もっと嫌なんだ。









ぐっ、と私は力を入れて。

ぎゅ、と目を固く瞑り。


剣の切っ先が私の心臓を











貫いた。







ずぐり、という鈍い音が、


体の内側で


聞こえた。













赤い、

赤い赤い血が、


突き刺さった心臓から流れ出る。




赤い、

赤い赤い血が、


流れ出して小さく広がる。


私の体を赤くそめて、

真っ赤な血が溜まって広がる。


心臓は既に動きを止め、

剣はすでに形を無くし、


赤い赤い紅い血が、

赤く広がるその池が、


ぴちゃり、と小さな音だけたてた。










『Game Over』



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