53.再会
ぶちギレた子は結構すぐに沈静化する。
逆鱗に触れた時の静かな怒りよりも長引きはしなかったが、アルファルド君にあるお腹周辺の『何か』は一切聞くことが出来なくなってしまった。
ぶちギレたアルファルド君が怖かったので。
そんな私達は予想もしていなかったのだが、あの、宿屋の客達が話していたとある村というやつに、信じられないが、なんと辿り着くことが出来た。
アルファルド君は何だか、たまに奇跡を起こす。
「本当にこの村かな?」
「多分そうだろ」
地図にない名前の村。
多分間違いない。
「で、何だったっけ?地下に続く階段、だっけ?」
「地下に続く通路、じゃなかったか?」
ここに来るまでが二、三日所じゃなかったのでうろ覚えすぎた。
そんな私達は、ここであのパーティーと偶然にも再会した。これは喜ぶべきところだろうか。
「ネイルっ!」
私はそのうちの一人の名前を叫んだ。その人物が振り向き、その顔に笑みを浮かべる。
「おぉーっ!レイトにアルファルドじゃねーか!久しぶりだなぁっ」
ネイルが駆け寄る。ネイルの手にはいつものように、あの盗ん…、手に入れた魔法の杖を持っていた。
だけど、ネイルがいるということは。
私はきょろきょろ挙動不審げに辺りを見る。が、愛すべき我が片腕の姿はない。勇者さんの姿も。
「ブカと勇者さんは?」
ネイルに聞く。ネイルは、何で髪の毛茶色何だよ、と煩かった。
「あいつらは二人で村の中調査中。な、もしかしてお前らも信者狙いか?」
ということは、ネイル達も信者狙い。ここにきて話の信憑性がぐんっ、と上がった。本当の話だったのか、と思ったぐらいだ。
「お前らは、何叶えてもらうんだ?私達はな、…これ内緒なんだけどな。実は…あのブカを魔物から人間にして貰おうって企んでてなっ!」
笑顔全開。
うきうきと楽しげに話すネイル。ブカには内緒だぞっ!と言うネイル。
「………」
ぶ、ブカ。
ブカに対して勇者さんはそんなところまで話進んでいるのか。そして、やはり捕まったままなのか。
と、愛すべき我が片腕のあまりに理不尽すぎる待遇に私は涙を流した。流そうとした。顔が引きつっただけだった。
「ネイルっ!」
そうこうしてると、勇者さんとブカが連れ立って現れた。こっちに気付く。
「…魔王?」
勇者さんが怪訝。
ブカは。
だっ、とこっちに走ってきて私の胸ぐらを掴んだ。く、苦しいっす。
「ぶ、ブカ…っ、ちょ、苦しい」
「お前、よくその面俺の前に出せたな」
めっちゃ怒ってる。
なんか、最近怒られてばかり。
「ぎ、ギブ、ぎぶ…っ」
「お前のせいで俺がどんな思いしてきたかわかってんのか、あぁん?」
手に力が込もる。
や、ヤクザだ。絶対。チンピラだ。
そして誰も助けてくれない。アルファルド君までも。酷すぎる。自業自得だけど。
「ぶ、ブカなら上手いこと逃げられるかなって」
「逃げられなかったよ、逃げられなかったんだよ。すみませんね、魔王様。使えない片腕でっ!!」
「お、怒ってる?」
「いえいえ怒ってませんよ。怒ってません。ただ、ちょっとばかり魔王様には魔王様の片腕である俺の忠誠を受け取って貰えればと思いましてね」
ちゅ、忠誠って何だ。とブカを見てると、ブカの手には刀身が細い剣。ブカが具現化した剣。
「…げっ」
「死ねっ!!」
ブカはその剣を物凄い早さで私に向けた。だが、私はかわす。胸ぐら掴まれたままだったが、私は寸ででかわした。私の反射神経嘗めるな。
だが、そこはそこ。ブカはブカ、だ。
すぐにまた私に剣先を向け、あわやすっぱり切られて死ぬ所だった私は勇者さんによって助けられた。
ブカの具現化した剣が消えたのだ。
「何すんだっ!!」
ブカが勇者さんを睨む。親の敵、ってなぐらいに睨む。何が何やら分からないが、勇者さんがブカの力をそぎおとしたらしい。
ミズイロの邪魔、みたいなものだろうか。
「魔王は使えるわ。殺さないでよ、ブカ」
「てめぇにそこまで指図される覚えはねぇっ!!」
「酷いわね。私と契りを交わしたでしょう?」
「契ってねぇっ!!!」
そんな二人を見てた私が、「仲良しで良かったね、ブカ」と言ったら、ブカに危うく蹴られそうになった。危うく回避。
いや、ほんと。仲良しじゃないか。
そう思いたい、これは私の幻視だろうか。
「…………」
いや、でも、うん。
仲良さそうで良かったよ。ホントに。
ところでお二人さん。
契りって何かな?
聞いていい範囲の契りですよね?
私は何だか普通に怖くなった。




