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私の異世界での立ち位置  作者: 葉月
魔王編
47/97

47.ブカ


ブカたんが話ます。

皆さん、心してお聞きください。

目覚めるとそこにいたのは『誰か』だった。

生まれたばかりの俺は、その『誰か』が誰かも分からず、そして性別も年齢も何もかも分からなかった。

その『誰か』が口を開くまでは。


「やぁ、おはよう」


邪悪な笑顔そのままで笑うのは少女だった。その少女は俺に話しかけ、そして少女が何であるか知った。『魔王様』だ。

俺は魔王様に造られた魔物、だ。


魔王様は俺に話をした。これから俺がやるべきこと、そして俺が次代魔王の片腕として働く事。魔王は二人候補がいてその一人が俺が付くべき魔王であること。

そんな話をつらつらと語り、そして魔王様は「じゃあねー」と言って俺の前から姿を消した。









それから数年。


俺は自分の姿が他の魔物達と違う事に既に気付いてはいた。だが、俺の持っている力も他の魔物達とは違う事にも気付いていた。それは俺が魔王の片腕として造られたから。俺にはそのための力も与えられている。俺の姿が『人間』とほぼ同じだという事を面白がる魔物達も、この力には一目置いていた。それだけで、俺は自分のこの姿に誇りすら持っていた時期すらあった。



そして魔王が誕生した。



その魔王は前魔王様から聞いていた通り、異世界から来た『人間』だった。見た目は俺と同じぐらいだろうか。女だったのは聞いていなかったので少しだけ意外だった。

魔王である所の結乃様は『魔王様』になる気はないのか、ことごとく『人間』のような事を言ってきた。俺は片腕だからこの魔王の言う事を聞かなければならない。不服だし不本意だが俺は片腕なのだ。片腕は魔王の力となり手となり足とならなければならない。

そう、前魔王様に言われていたから。



魔王様になる気は無い。

その言葉にも、俺は文句も言えずに従った。







そして、そんな俺にも幸運が舞い降りた。文句も言わず我慢してこの人間である魔王に付き従ってきたから神様が俺にもご褒美をくれたのかもしれない。

魔王様になる気は無かったこの人間、いや『魔王』は『魔王様』になったのだ。


俺は魔王様の片腕になった。

嬉しいことこの上ない。俺は上機嫌だった。今となったら人間の魔王も捨てたもんじゃないかもしれない、とまで思っていた。だが、やはり人間の魔王は人間の魔王だった。

さらに、この人間の魔王は最低な神経の持ち主だった。





『だけど、私の条件。聞いてくれたらその話、乗ってもいいわよ?』


魔王様を退治しに来た勇者の女がそう言った。

条件。

そして勇者の女は俺を指さしこう言った。



『彼が欲しい』



俺は絶句した。何を言ってるんだこの女は、と。

だけど勇者も勇者なら魔王も魔王だった。



『ブカ、魔王様の言う事は絶対、だから』



魔王様は俺を売る気まんまんだった。

その悪気なんて全くなさそうな顔で平然とそんなことを口にした魔王様に、俺はさすがにぶち切れた。


最後まで俺を勇者に付きだそうとする魔王様を連れて俺は逃げだした。一時撤退。ここにいたら本気で勇者に俺の身柄は渡されてしまう。そんな恐怖に俺は逃げだした。

逃げてしまえばこっちのもんだ。魔王様の思惑通りにはいかない。魔王様も観念したのか俺を勇者に売り渡す事は断念したようだった。


そして人間の男に会い、そして勇者が追って来た。逃げるが勝ち、の如く逃げようとしたのだが逃げられなかった。何故か空間移動が出来ない。何故だ。

そして気付いた。魔王様の肩の上に乗っている獣。この獣はあの時の獣だ。そして、多分この獣が俺の邪魔をしている。俺はじっと獣を観察していた。俄かには信じがたいがさっきからこの獣から異様な気配を感じて仕方がなかった。

じっと獣を見ながら空間移動を試みた。獣が鳴く。やはり出来ない。それを何度も繰り返し、やはりこの獣が邪魔をしているんだと確信した。この獣を殺してやりたい。

だが、以前に魔王様に「大事だから手を出すな」と言われてしまっているので、それは無理な話だった。見てなかったら殺ってたと思う。


そうこうしているうちに、魔王様が大量の水を上空から降らせた。一帯が湖に変わる。

何だか苦しそうにもがいていた魔王様を救出し、ここぞとばかりに空間移動をしようとしたのだが、やはり獣に邪魔された。この獣が魔王様の大事、じゃなければ瞬殺している所だ。本当に。


人間の男がうつ伏せで倒れていた。あれしきのことで情けない。この人間は弱いなと感じた。普通に戦っている時にも感じたが、その辺にいる奴らよりは強いのだろうが弱い。あの女勇者よりも弱い。あの女勇者は、多分俺より強い。



女勇者がナイフを投的した。魔王様は気付かないので俺が防御シールドを張った。この魔王様には危機感すらもない。


『…ブカっ』


魔王様が何かを決心したかのように俺を呼んだ。多分、勇者と戦う決心でもしたのだろう。俺は嬉しくなった。そして魔王様の前に立つ。そして、






蹴られた。





それからは地獄だった。


俺を蹴った魔王様は俺を置いて一人、いや、あの人間の男を連れて逃げやがったし。

俺の腕には勇者が付けた『制御装置』なるものが付けられてしまったため、力が使えなくなり逃げられなくなった。



俺は魔王様に裏切られ売られた。

勇者の犬になり下がってしまった。




「さぁ、ブカ!私と一緒に愛を育みましょうっ!!」

「………」




次にあの魔王に会った時、俺は本気であの人間崩れの魔王を殺すことを決めた。






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