45.私を巡って争うのはやめて
ずっと見ていても飽きないが、さすがにそれは不味いだろう。だけど、何だか離れがたくて。そもそも、こんな真っ昼間からこんな所で寝てたら危ないし。魔物が襲ってきたらどうするんだ。私が守ってあげないと。でも、魔物達には人間を襲うな、と言ってあるから大丈夫かな。
でも、もうちょい見てたいな。
と、そんな感じでうだうだ考えながらその場を動かずにいたら、魔物が現れてエンカウントした。
「バカな」
何故だ。
そもそも、私は魔王であって君達の王なんですよ?攻撃してくるとか、ありえん。
魔物はブカの腕の一振りで消滅し、砂になった。その間わずか数秒。
「ブカ。あれ、魔物だよね?なんで攻撃してきたんだろ」
魔王なのに。
そもそも、私は戦闘禁止礼を出しているはずなのだが。
ブカは無表情な顔のまま私を見て説明する。
「ある程度意思ある魔物には魔王様の意向を伝えており、戦闘行為などはしていないかと思われますが、あの魔物のように倒されても倒されても甦ってくるような意思ない複数体いる魔物は、それが魔王様の意向であっても無駄なのです。あれらには『襲う』という概念しかありませんから。言葉も通じません」
だから、やたらめったら襲ってくる、というわけか。人間でも魔物でも魔王でも関係ない、ということだ。そこまで強くないのでその辺は安心らしいのだが。
あと、ちょっと気になったんだが。
「倒しても倒しても甦ってくるって?」
「この世界に『魔王様』がいる限り、何処からともなく生まれるのです。私達のような魔物だと、魔王様直々に生み出されるのですが」
そんなシステムなんだ、と私が言おうとしたらブカが徐に動いた。
ガキィィンッ、と頭の上で金属音。
「…………」
恐る恐る上に視線をやると、そこには剣と剣のぶつかり合いが為されていた。
一つはブカ。そしてもう一つは、
アルファルド君。
「…あ、アルファルド君」
おはよう。
なんて呑気に挨拶交わしている状況じゃないことは私にも分かった。アルファルド君はブカを睨み付けたままじりじりと剣に力を入れているようだ。剣と剣が擦れ合う音がする。
だけど、ブカは平然とした顔で、力で具現化した剣でアルファルド君の剣先を止めていた。余裕、だ。
私はとりあえずその場からゆっくりと移動する。何だ、この緊迫した空気みたいなものは。
二人から少し離れた場所まで来た時、ミズイロが私の肩に乗った。
いまだにらみ合いしたままの二人を見る。こ、怖い。
多分アルファルド君は私を攻撃しようとしたわけではないんだろう。剣先が私を向いてはいなかったから。多分、最初からブカを狙ってた。
まさか、寝たふりしてたわけじゃないよね?と頭を掠めたが、アルファルド君はそんな器用なこと出来る子ではない。
「あ、アルファルドくーん…」
名前を呼んでみるが無駄なのは分かってた。そしてやはり無駄だった。返事はない。
どうしたものか。このままバトルに突入してしまうのだろうか。
ブカを見る。
「………」
口許がにやりとつり上がっていた。あれはまずい。ブカはやる気だ。
「…わ、私を巡って争うのはやめてー、って言ったら治まるかな?」
肩の上にいるミズイロに聞いたら、ミズイロは「キュ」と鳴いた。それが合図かのように、二人が動いた。
アルファルド君はずっと膠着状態だった剣を滑らせ、そのままブカに斬りかかる。だけど、ブカはそれを綺麗にかわしてすぐにアルファルド君に突っ込んで行く。アルファルド君もそれをかわすが、やはりブカの方が一枚上手だった。ブカの蹴りがアルファルド君の腹にもろに入った。アルファルド君が吹っ飛ぶ。
「こ、こらぁーっ!!ブカッ!」
ぎょっ、としてそう叫んで見るがブカは止まらなかった。あの野郎。
ブカはアルファルド君に向かって走るが、ブカが何かする前にアルファルド君は立ち上がり剣を振りかぶる。剣が淡く輝く。
そのまま突っ込んできたブカに、アルファルド君は剣を振り下ろすが、ブカは素手でそれを受けとめ、そして力を入れたらしかった。
バキィッ!と剣がブカの手の力で破壊されたから。
ひぃっ、と私は一人で悲鳴をあげる。ブカがアルファルド君の剣を破壊した。それはダメだよ。それはいかんっ!
「ぶ、ブカっ!!手加減しなっ!」
何本気で戦ってんだあの馬鹿は。アルファルド君が死んじゃうだろっ、と思い言ったのだがブカはその顔に笑みを張り付け、アルファルド君は怒りを顕にした。こっちをギロッ、と今までにないぐらいに睨んできた。
こ、怖い。
アルファルド君のその反応に、まずった、と思った私は慌てて弁解しようとしたのだが、それよりも早くブカが何かに気付いた。表情が変わる。
「魔王様、移動します」
そう言って一足跳びでこっちに来たブカは、腕を横に振った。多分空間移動したかったのだろう。
だが、見える景色が変わらない。
「………」
「…ブカ?」
MPでも使い果たしてしまったのだろうか。私はブカを見る。ブカも驚いたような顔をしていた。
予測出来ない事態だったのだろう。こんな彼の表情は始めて見た。何が起こっている?
ブカはその後も何度か腕を振っていたが、一向に空間移動は出来ていない。
そして私は、私の肩に乗っかっているミズイロをちらりと見る。先程から、ブカが腕を振るたびに「ピャッ」と鳴いているのだが……、もしかしてお前の仕業か?
「…ミズイロ?」
「キュアッ!」
どや顔。
いや、そんな、どやさっ、みたいな顔されても。
いつの間にそんな力つけたのだろう。
そうこうしてるうちに、ブカが移動しようとした原因のものが到着してしまった。
ひゅっ、と突然に現れたそれは、多分空間移動してきたのだろう。
「見つけたっ!!こらぁーっ!あんたたちふざけんのも大概にしなさいよっ!!」
「おっ、アルファルドがいるじゃんっ。よぉー、アルファルド!」
勇者さんとネイル。
ブカはまだ、これでもかっ、てな具合に腕を振っていた。




