44.ぱんつ一丁なわけじゃない
「ぶ、ブカっ、ブカっ!!見てよほら、アルファルド君だよっ。アルファルド君が彼処にいるんだよっ!!」
私はブカの両腕を掴み揺さぶりながら言う。がくがくと揺れながら、ブカは「そうですか」と言っていた。
アルファルド君だ。
アルファルド君だ。
アルファルド君だっ!
「超懐かしい…っ。ど、どうしようブカっ。なんか泣けてきた」
「…そうですか」
ブカが少し顔を呆れ気味にやはりそう言う。
アルファルド君は寝ているようだった。木の下、いつものように荷物を枕にして横になっている姿は前と変わらない。全く変わらない。
「ぶ、ブカぁっ…」
「………」
やばい。超懐かしすぎる。
そんなに長い時間が経っているわけでもないのに、この感動はなんだ。ネイルと会ったときも懐かしさに感動したが、そんなの非じゃないぐらいに私は感動している。
なんか、ホント死に別れた兄弟と絶対にありえないのに現で出会えたような。そんな奇跡的な。
「ぶ、ブカっ。どうしよう、…声かけた方がいいかなっ?声かけてもいいかな?でも、怒ってないかな?あれから一度も会ってなかったし、アルファルド君怒ってるかもだしっ。それにアルファルド君寝てるみたいだしっ。ここはやっぱり見て見ぬふりするべき?するべきかなっ?でも寝顔ぐらい見てきてもいいかなっ?あのね、一緒に旅してた時は」
「魔王様」
ブカが私の言葉を遮る。
「あ、ごめん。嬉しくて、つい」
熱くなってしまった。
「魔王様、会いたいなら会われれば宜しいかと」
「…っな!」
会いたいとか。
会いたいとかっ!
私は顔を赤くする。
ブカのそのロマンス始まっちゃうよ的な言葉が気恥ずかしかった。
「会いたいって!いや、会いたいんだけど、…会いたいんだけどもっ!!でも別にそれは愛的で恋的な何かじゃなくて、好き的でそれ的な何かでもなくてっ。だから、私が何を言いたいのかと言うとね」
私が言い終わる前にブカが無言で腕を横に振った。景色が変わる。そこまでの距離はなかったのだが、私達はアルファルド君のすぐ側まで来ていた。
アルファルド君がすぐそこにいる。
「……っ」
か、感動…!
私は声が出そうになる口を手で抑える。
触れるぐらいすぐ側にアルファルド君。すやすやと穏やかな寝息をたてている。寝ている。寝顔。懐かしい顔。懐かしい姿。
超感動っ!
バンバンッ、と私はブカの腕を叩く。ブカはその私の行動に顔をしかめた。だが、私はそれに気付かない。私はアルファルド君ばかり見ていたから。
アルファルド君のお腹辺りで寝ていたミズイロが気配に気付いて目を覚ます。起こしてしまったようだ。
私はミズイロに、アルファルド君を起こさないようにと思い人差し指を口に当て「しぃー」と言ったのだが無駄だった。
「キュアアアアアァァァァッ!!」
ものっすご鳴いた。
「…………」
ミズイロ…。
ミズイロは私に突撃してきた。どかんっ、と飛びついて来たミズイロはすりすりと嬉しそうに顔を寄せてくる。私もそんなミズイロを撫でてやる。ちょっと噎せながら。
ミズイロも久し振り。元気してた?元気だよね。さっきのも凄い声だったし。
「ミズイロ、元気だった?」
「キュアッ」
くりくりな目。その目が私を見て小さな牙の生えた口が可愛い声を出す。
ミズイロは相変わらず可愛い。
ぐりぐりと撫でてやる。気持ち良さそうな顔でミズイロがぐるぐる鳴いた。
そんな騒ぎの中でもアルファルド君は起きなかった。そういえば、アルファルド君は一度寝たらそう簡単には起きない子だった。
じっと横になり眠っているアルファルド君を見下ろす。しゃがみこみ、さらに近くに寄って顔を覗く。
全く起きない。
「………」
何日ぶりだろう。こうやって彼を見るのは。穏やかな顔で眠るアルファルド君。さらさらな金色の髪。じっと見ていたら触りたくなって、ブカに「触ってもいいかな?」と聞いたら、「知りません」と言われてしまった。
「元気そうでよかった」
私は微笑し手を伸ばす。最初の頃は姿も見えない声も届かなかったのに、触れるようになってからは嬉しくて、私はアルファルド君を意味もなくペタペタ触っていたっけ。
怒られたけど。
アルファルド君の髪の毛をつんつんと触る。
さらさらだ。金色がキラキラと照り帰って少し眩しい。触り心地は抜群です。
「…へへっ」
へらっ、と笑う私は端から見たら不気味以外の何者でもないだろう。でも嬉しんだから仕方がない。
「ね、ブカ。マッキー持ってない?」
「持ってません」
マッキーが何か分かってないだろうブカが、はっきり「無い」と言った。残念だ。アルファルド君の額に『肉』って書きたかったのに。
実はずっと思っていたことだった。
頭の上に乗っかって、ミズイロが「ピャア」と楽しそうに鳴いた。




