34.黒、水色、魔物
魔王編
黒い玉。
『魔王の力』は
その形を無くした。
「……っ…!!」
黒い玉を割った直後、そこからは黒い風の塊みたいな物が吹き荒れ私を包んだ。ごうごうと暴れるソレは、いわば竜巻。
私の周りを取り囲む、
小さな黒い竜巻。
竜巻の中心は穏やかだ、なんて言うけどあれは嘘だな、と私は思っていた。だって、今現在私はその竜巻の中心にいるけれど、全く穏やかさの欠片もないんだから。
「…っうぅ…!」
飛ばされないのが不思議でしょうがない。バタバタ暴れる服、そして髪の毛が大変なことになっている。
誰か助けて。
その間にも、黒い竜巻からは何かしらの『力』が私に流れ込んできている気がするのだから、もうホントどうしようもない。
多分、黒い玉を割ったことにより魔王の力が行き場をなくし、私に流れてきている、とそういうことだろう。
完全に魔王ではないか。
「……く…っそ」
どうでもいいけど、早く終われ。と思う。魔王の力はあとどれぐらいで全て私の中に入るのか。
目を細めて黒い竜巻の向こう側を見る。街の人間達が、避難している者、遠くから窺っている者、ある程度近くで止めようとでもしているのか、こちらを睨んでいる者と様々に分散していた。
その中にはアルファルド君の姿もあった。いつから居たのか。
そんなアルファルド君が、果敢にもこっちに突っ込んできた。竜巻に突っ込んでくるのは無謀すぎる。しかも、これはただの竜巻じゃない。『魔王の力』そのものだ。
危険だ。
「……っ…!」
そう思って突っ込んで来るアルファルド君を見ていたら、黒い竜巻の一部が動いた。
ざわっ、と周りの人間が騒いだのが聞こえずとも分かった。
黒い竜巻の一部は突っ込んで来たアルファルド君の体を吹っ飛ばした。吹っ飛ばされたアルファルド君は、屈強そうな街の人間達によって危うくキャッチされた。
今の、もしかして私がやった…?
危ない、来るな。と、そう思ってたから、多分黒い竜巻が反応したのかもしれない。アルファルド君ごめん、と謝りたかったが今現在そんな状況にいない。
とりあえず、心の中だけで謝る。
ごめん。
でも危ないから近付かないでね。
アルファルド君が吹っ飛ばされたのを見たからか、もう誰も近付いて来ようとはしなかった。安心する。ホント危ないから。終わるまで待ってて下さい。
いつ終わるか分からないけど。
あと、私竜巻の中心は穏やかだって言ったけど、それって台風の話だったっけ?
そんなことを考え、どうしようもなく竜巻に耐えていた私に、突然間近で聞こえた声。
「お迎えに上がりました。結乃様」
「…!?」
いつの間にいたのか。
背後には魔物がいた。
多分魔物。おそらく。見た目が魔物じゃなく人間っぽいから一瞬人間かと思ったが、多分違うだろう。そういえば、人型の魔物なんて、この世界に来て初めて見た気がする。
その魔物が腕を軽く横に振り払う。黒い竜巻が収まる。まぁ、私とその魔物の周りだけなんだけど。黒い竜巻はまだ回り続ける。私と魔物を取り囲んでいる。
「…え、と」
お迎えですか。
私はその魔物をじっと見る。
「出発してもよろしいですか?」
「…ちなみに何処に」
「私達の住処、ですよ」
「……魔王城?」
魔物は頷いた。そして、「よろしいですか?」ともう一度聞いてきたので、私は少し迷った後頷いた。だけど、黒い竜巻が全く消える様子ないので、その魔物に一応聞いてみる。
「この黒い竜巻、街とか破壊しないよね?」
消える様子ない黒い竜巻。私がいなくなった後、街に残って破壊して回らないか少し不安だった。
「大丈夫ですよ。結乃様がここからいなくなれば消えてなくなりますから」
それは、私がここにずっといたらずっと消えない、ってのと同意か?と思いつつ、「そう。良かった」と言って行こうと促した。魔物が、す、っとまた腕を横に振るう。
腕を振り切る、直前。
水色のものが黒い竜巻の外側、すぐ近くをちらりと私の視界を掠めた。
私はその水色のものが黒い竜巻にぶつかるのを止めようと意識した。そして、それは叶った。黒い竜巻は水色のものを避けるために、その部分だけ消えたから。飛び込んできたそれを、私はキャッチした。
そして私はその場から消えた。




