26.微妙すぎる謎
激突女子。
魔法使いの女の子。
名前をネイルと言うらしい。
ネイル、と言えば爪のアレだ。だから、どんなに口が悪かろうとも女の子。あの子は女の子、のはずなのだ。
「すっげぇな!いつ引っかけたんだ?女なんて」
ネイルが言う。アルファルド君は「引っかけてない」と答える。私は引っ掛かってない、と心の声を出す。
空腹、疲労感で崩れてしまったあの時の私は、ネイルによって一命を取り止めた。
つまり、ネイルが持っていた食べ物を貰ったのだ。アルファルド君経由だが。
離れた場所でそれをモグモグお腹に優しく食べる私とミズイロ。それにネイルが近付いて来る。私は後ろを向いていたので気付かなかったが、アルファルド君の「アケル!」の叫び声でミズイロがキュ、と鳴き。
そして私の顔にビタンッ、と張り付いた。
「ぶっ」
「おいおい、んなトコにいたら女の顔見れねぇじゃねぇか」
声しか分からないが、ネイルは不服そうだ。ミズイロが私の顔にへばりつき、私が着ていたローブのフードもしっかりと手元に引き寄せているみたいで、私の髪の毛と目が黒いのはネイルからは見えない。
というか、顔自体見えない。
私からも同様だ。ネイルに、くぐもった声でお礼だけは述べておく。ありがとう。
「何だよ、顔も他人には見せたくねぇってか」
楽しそうにそう言いながら、ネイルはアルファルド君の所へ戻って行く。他人に見せると殺されてしまうんですよ。だから見せられないんです。
ミズイロがようやっと顔から離れてくれたので、私はミズイロに尋ねた。
「こんな技、いつの間にアルファルド君と打ち合わせしてたの」
ミズイロは得意そうにピャアー、と鳴いた。凄かろう、と自慢気だ。
そんな私の耳に、ネイルとアルファルド君の会話が小さい声ながらも入ってくる。
「アレ、お前のコレか?」
「違う」
「前会った時は連れてなかったよなぁ。やっぱコレだろ」
「違う」
「んじゃコレか?」
「違う」
………。
コレって、どれっ?
私は振り返りたい衝動を必死に押さえていた。
そんなこんなで、私達はネイルの先導で新しい街に辿り着けた。魔物と何回か戦闘したが、ネイルの魔法で一発KO勝ち。凄い強い。
そして私は、始終アルファルド君達と距離を取り、ネイルにバレないようにしないといけなかったので地味に大変だった。
さらに言えば、道中、仲良さ気なアルファルド君とネイルの後ろ姿を遠くから見るだけだった私。私も喋りたい。女の子と喋りたい。そう思うのも無理は無かった。
街に着くと、アルファルド君は私とミズイロに外で待ってるようにと言ってきた。不服そうな顔でアルファルド君を見る。
「仕方ないだろ」
「…秘儀、ミズイロ顔でも駄目なの?」
ミズイロが私の顔にへばりつく。
「本気で言ってんのか」
「冗談です」
すいません。
大人しく待ってます。
私はため息を吐き街へと入って行くアルファルド君とネイルを見送った。見える事がこんなにも私の異世界人生においての足かせになろうとは。これじゃ、見えないままの方が良かったよ。楽しかったよ。
「ね、ミズイロ?」
「キュアァァァー」
頭の上に乗っかっているミズイロに声をかけたら、ミズイロはいつもより長く鳴いた。それはどういう意味なのかな、ミズイロさんや。
そしてアルファルド君はすぐに帰って来た。一人で。
「あれ、早いね」
私はそんなアルファルド君に声をかける。
「買い物は済んだからな」
そう言ってアルファルド君が私に差し出したのは眼鏡だった。レンズに色がついてる眼鏡。サングラス、だ。
「サングラス?」
「さんぐらすってなんだ」
私はソレを受け取り、かけた。目の前が茶色く染まる。
「どうしたの?これ」
「買った」
そう言ってアルファルド君は眼鏡をかけた私をじっと見る。多分、私の目が黒いのが分からないかどうか確認しているのだ。結果、大丈夫だったらしい。
それからまた暫くして、ネイルが街から出て来た。じゃあ、行こうぜっ!と張り切って先陣を切って歩き出した彼女に、私は何処に行くの?と髪の毛と目がばれないようにしながら聞いてみた。そっぽを向いて顔を見られないようにしながら。
サングラスをかけているからか、アルファルド君は少し安心しているようだ。
「ずっと先だ」
「ずっと先?」
「ああ。この街からなるべく離れんだよ。ここの近くにいちゃ、疑われちまうからなぁ」
ネイルが笑う。
疑われる?
アルファルド君達は街で何かしたのだろうか。私の隣にいたアルファルド君に聞く。
「アルファルド君、なんかやったの?」
あの街で。
アルファルド君は答えなかった。
そして、夜になるまで歩き続けた私達は、街道横で野宿することになった。ネイルが周りに魔物避けの魔法をかけたので、辺りは虹色の膜が張ったようになっている。綺麗だ。ミズイロがその中を飛び回る。
「じゃ、いってくるなっ!レイト」
そう言ってネイルとアルファルド君は私をそこに置いて、ネイルの魔法で二人で何処かへと行ってしまった。何処に行くんだよ、と思いはしたのだがあまりのネイルの素早い行動に何も言えなかった。連れて行ってももらえなかった。
帰ってくるのを起きて待ってはいたのだが、なかなか帰ってこない二人に、私はいつの間にか寝入ってしまっていた。疲労が祟ったのだろう。朝までぐっすり寝た。
そして起きたら二人は戻って来ていて。
「何処行ってたの?」
「…知らない方がいい」
アルファルド君はそう言って静かに目を閉じた。
ネイルの手には昨日までと違う魔法使いの杖が握られていて、その日から数日後に『とある街で保管されていた勇者の杖が盗まれた』と私が小耳にはさんだとしても、それはまぁ。
気付かなかったフリをしようと思う。
「アルファルド君、ネイルってさ、女の子だよね?」
「…………」
黙っちゃうの!?
微妙すぎる謎が残された。




