24.フード付ローブ
「それ、どうするの?」
遺跡を脱出した後、アルファルド君は徐に小さなビー玉みたいなものを取り出した。私の推理が正しければ、それは白虎の砂山から彼が拾っていたものだろう。
「これでローブを作る」
「ローブ?」
ビー玉で?
そう思っていると、アルファルド君がビー玉を握り込む。私はそれを覗き込む。アルファルド君が顔をしかめた。
多分近すぎたのだろう。距離が。
見えない時は普通にこの距離だったのに。私は少し離れる。
アルファルド君はそのビー玉を数秒握り締めた後、地面に思いっきり叩きつけた。
カシャンッ、と軽めの音がしてビー玉が割れて壊れる。そして、ファンタジーっぽくゆらゆらと空間みたいなものが揺れたかと思うと、そこには白くて長い、フードの付いたローブが転がっていた。
「凄っ、さすがファンタジー…」
アルファルド君がそれを拾い私に突き出す。私はアルファルド君のそのローブを持つ手をじっと見る。受け取らない。
「…何?」
「着ろ」
「…それ、地面に落ちてたやつだけど」
アルファルド君が私を睨む。
分かってるよ、冗談だよ。冗談。
私はローブを受け取りはおる。
「暑い」
「フードも被ってろよ」
はいはい。
私は渋々フードも被る。私の髪の毛、そして元の世界の衣服を隠すためのローブなのだ。これは。それにしても暑い。
「暑いっ!」
フードを取る。ミズイロが鳴いた。
「ね、アルファルド君。あのビー玉って何でも作れるの?」
歩きながら前を行くアルファルド君に聞く。遺跡を出発し、次の目的地へと私達は足を進めていた。ビー玉発言にアルファルド君は首を傾げるが答えてくれる。
「大抵はな」
「凄いなぁ。さすがレアアイテム」
れああいてむ?とアルファルド君はやはり首を傾げる。
「でもさ、そんなレアアイテム、このローブに使っちゃって良かったの?」
たかがローブに。
そう呟くと、アルファルド君が振り向き睨んだ。すみません。私のせいですよね。ごめんなさい。
「でもさ…、そんなにヤバい?」
魔王色。
「バレたら殺されるぞ」
「………」
殺されるのね。魔王じゃないのに。
スタスタとアルファルド君は前を歩いて行く。その背中を見ながら、私は口を開いた。
「…ごめんね」
申し訳なさが私を襲う。いや、もうホント。申し訳ない。
アルファルド君が振り向きその顔に渋さを作る。渋面。
「お前は魔王じゃないんだろ?」
「…うん」
多分。
そう言われると自信がない。心の中で『多分』と付ける。私は魔王じゃないよね?魔王になるためにここに呼ばれたんじゃないよね?違うよね?
俯いてたらいつの間にか来ていたアルファルド君が、私の被っていたフードをぐいっと下に引っ張った。のぉっ。
「な、何?」
「人が来た」
アルファルド君がフードを下に引っ張るから頭が上げられず、私は地面をただひたすら見る。横を人が通り過ぎる。アルファルド君は手を離した。
そのまままた歩き出したアルファルド君の後を追い、アレ、と頭に何かが引っ掛かる。
頭に引っ掛かった何か。
それは私の静電気体質だ。
「今、弾かれなかったよね…」
アルファルド君は私を触った。私が触ろうとすると弾かれるのに。そういえば、さっきのローブの受け渡しの時も大丈夫だった。
もしかして、姿が見えると同時に静電気体質も治ったか?と思い、前にいるアルファルド君に近付きすっと手を伸ばしてみた。
バシッ!
弾かれた。
静電気体質は健在だった。
「痛い…」
駄目らしい。
私が触るのは駄目だが、他人が私を触るのは良い、ということか。
ううう、と唸っていたらアルファルド君が不気味気にちらりと後ろを振り返って見ていた。
静電気体質は治らなかったが、幽霊スキルは何処かへと消し飛んでいたのは確かだ。だけど、そのせいでまさか『暑い』とか『お腹空いた』とか『疲れた』みたいなそういった人間っぽい所も復活しているだなんて。
この時の私はまだ気付いていなかった。
そして、アルファルド君の方向音痴に、この人間っぽい所のせいで物凄く悩まされる事になるのである。
幽霊スキル、
カムバック。
何も感じないでいられたあの頃が懐かしい。




