14.動き出す
牛ボスの一件の後、何故か急に話せるようになったアルファルド君と、何故か急に言葉が解らなくなった水色の獣『ミズイロ』(命名、私)とともに、私達は次の目的地を目指していた。
まぁ次の目的地ってのがどこなのか、私は知らないんですけどね。
「アルファルド君」
「………」
「アルファルドくーん」
「…………」
「あーるーふぁーるーどーくーーん」
「…………」
ガン無視は酷くないですか?
アルファルド君と話が出来るようになったのは、牛ボスを倒した後。気が付いたら私の声は彼に届くようになっていて、彼の言葉を私は理解できるようになっていたのだ。
話しは数時間前に遡る。
「アルファルド君!!」
私は走りながらアルファルド君へと手を伸ばした。手を伸ばして何がしたかったのか。そんな事は考えていなかった。
そしてもう少しで届く、という所で景色が微妙に変わる。へ?と思う間もなく体が走っていた勢いのままに前に傾き、慌てて体勢を整えようとしたのだが足元にあった何かに引っかかってそのまま派手にスッ転んだ。
「いっ…たたた……」
何だろう…なんか今、数秒意識が飛んだ……?と思うと同時にバァン!!!と何かが激しく叩きつけられる音がした。びくっとして音のした方を見ると、牛ボスが壁にめり込んでいた。
何が何やらさっぱり解らずパニックに陥っていた私は、躓いた何かがアルファルド君であった事を知った。
そのアルファルド君は意識を取り戻したのか、ふらふらと剣を支えにして立ち上がり牛ボスに向かって走りだし、
剣を突き刺した。
パキィン!と何かが割れる音がした。牛ボスの体が、砂のようにサラサラと崩れていき、そこには砂山が出来た。アルファルド君は砂山をかき分け、そこから手のひらサイズの黒い玉を手に取った。
ズキリと、
頭に重い痛みを感じて顔をしかめる。さっき転んだ時にぶつけでもしたのだろうか。
黒い玉を見つめたまま動く気配のないアルファルド君に、私は頭の痛みに耐えながら仕方なく近付く。
何をそんなに凝視してるんだ、と私も一緒になって黒い玉を覗き込む。その玉の中で何かが微かに蠢めいた。
「……なんかいる」
急にアルファルド君が顔をあげた。一瞬、目があったと思いドキリとした。アルファルド君は腰に戻していた剣に手をかけ、辺りを見回す。
何事?と私も辺りを見回すが特に何もなく、遺跡の崩壊が続いているだけだ。
ん?崩壊?
「そうだっ!早く逃げなきゃ!!」
この遺跡が壊滅寸前であった事を思いだし、私は叫ぶ。アルファルド君の方を見ると、いつの間に鞘から抜いたのか、剣をかまえ険しい表情をして、
「誰だっ!!」
と叫んだ。
誰だ……って………
えっ!?日本語!?
「なんで急に言葉が……」
「誰だ!!出てこいっ!」
アルファルド君はなおも叫び続ける。
だからさっきからなんなのさ。誰かいるの?
若干イライラしながら辺りを見回すが、やはり何の気配もない。
誰もいないじゃん。
まったく、と息をつき、はたと気付く。
もしかして。
アルファルド君を見る。
「後ろだよ」
そう声をかけてみる。実際は前にいたのだが。
予想通り、アルファルド君は後ろを振り向き剣をかまえた。
まさかとは思ったけど……私の声が届いてるの?
「あ、ごめん。やっぱ前だった」
アルファルド君が素早く前にふり向く。
「やっぱ右かも」
右にふり向く。
「やっぱ左」
左……には振り向かなかった。
アルファルド君は何を思ったか数歩歩き、剣を振るう。剣先が私の数センチ横をヒュンッと通りすぎる。
…………。
じりじりと私はアルファルド君から離れ、彼の後ろに回りちょっと離れる。彼は、声から位置を判断して剣を振るったらしい。怖すぎる。
「あ、あのー、私は決して君の敵ではないんだけどー…」
「……敵じゃないんなら姿を現せ」
いや、私もそうしたい所なんだけど無理だし。
それよりも。
「いい加減早く脱出した方がいいと思うんだけど」
「…………」
アルファルド君が走り出したので、私もその後を追った。
無事に遺跡から脱出したのち、遺跡外で待たせておいた小さな生き物、ミズイロと合流。ここで、ミズイロの言葉が解らなくなっている事に絶望し、しばし意気消沈。姿は見えているらしい事に少し浮上。
アルファルド君にミズイロを紹介し、私は敵ではない事を説明。私はこことは別の世界から来た、ただの一市民なのだ、と。
信用してくれたのかどうかは不明。今に至る。
信用されてないよなー……。
ため息をはく。
言葉が通じて声が届くようになったのが、何が原因で何が要因だったのか、今でもずっと考えているが皆目検討もつかない。
そして、もうひとつ。
私は、何故か自分の『名前』が解らなくなっていた。
母の名前も、父の名前も、妹の名前も。学校の先生や友達、隣のおばちゃんや近所に住む人達。私以外の人達の名前は覚えているというのに、自分の『名前』だけが出てこなかった。地球という星の日本という国で産まれて生きてきた。小学校、中学校、高校に通い、就職せずに進学して短大に入った。自動車があってバイクがあって、電車があって。家の近くにはスーパーや公園があって。
それら全ての事が記憶として私の中に残っているというのに、自分の名前だけが誰かの手によってモザイクがかけられたかのように見えてこない。
私は自分の名前を
消されてしまったのだろうか?
解らなかった。
ただ、これだけは解る。
何かが私の中で動き出したのだと。




