1.勇者じゃないんです
私は今、異世界にいる。
なぜ異世界にいるのか、と言うと、まぁお決まりの
『前世』だとか
『転生』だとか
『選ばれし勇者』だとか
『突如現れた異次元空間に巻き込まれて』だとか
『ランプを擦ったら魔神が出てきて、こことは違う別の世界へ行きたい、とお願いしたら連れて来られたそこは剣と魔法の世界でした』
とかと同じ理由である。
私は場合はこうだ。
ある日ある時ある場所で、とある少女に出逢ったから、だ。
少女は問うた。
『君は男か?女か?』
『いや、スカート履いた男は普通に考えていないと思うんだけど』
『君は10代か20代か?』
『20代だよ。』
『君は1番目か2番目か?』
『…何、その質問。んー、…じゃ2番目で』
奇妙奇天烈な質問をしてくる少女に律儀に受け答えしていた私。
少女の『あい、解ったー』の一言を聞き終えた直後、私の視界は歪み地面がぐらりと揺れるのを体感し、そして気が付けば見慣れぬ場所に一人ぽつんと立っていた。
そしてゆっくりと膝から崩れ落ちる。
「………」
これはアレか…。
異世界トリップ。異世界トリップしちゃったよ系なのか……っ!!
そう私が気が付くのに、コンマ5秒もかからなかった。
私は異世界への扉を開いてしまったのだ。
とりあえず、こんな時の対処法としては慌てず騒がず冷静に。
辺りを見回して見ましょう。
私は一人頷く。
遠くには街が見えた。そして今私が立っているこの場所は、街から少し離れた場所にある小高い丘の頂上付近。数歩離れた場所には大きな樹木があり、それは樹齢うん千年と思われるほどの大木だった。
「…ファンタジーっぽーい」
樹木を見上げて射し込む光に目を細め、暫し和んでいた私の視界に一人の人物。
そう。
この人物こそが、この物語の主人公、
いや、
ファンタジー世界においての『主人公』と言うべき、超重要人物。
『勇者様』だったのである。
あ、
当たり前だけど、私は勇者じゃないので。