侵入者達
「残念?・・・我が妻ライラを殺しておいて・・・万死に値する!」
「妻の私を殺すつもり?」
「ワシの妻は今でもライラただひとり!」
破壊神の身体が瑠璃色に輝くと無数の矢がデメテルに放たれるが直撃する瞬間、矢を溶かす菜の花色の光があった。破壊神はゆっくりと光が放たれた方向に視線を移すとそこには思いもよらない人物がいた。いや、その人物がそうであることはすでに承知しているが、この段階で正体を現すとは思わなかった。
「やはり、貴様もか・・・アレスよ。」
「勘付いていたか・・・破壊神、我が主の命により死んでもらう!」
破壊神は十六善神のふたりと対峙することとなったが意図も簡単にデスサイドにピサロの配下である十六善神の侵入を許すこととなろうとは破壊神自身思いもよらなかったであろう。
否、破壊神は気づいていた。完全な防御などこの地獄道には存在しない。もともと閻魔大王より奪った世界でありいずれは天道軍が奪い返しにくる。
「奪い、奪われる・・・ならば勝ち続けるしかないか!」
闘気を極限まで高める破壊神の視界にメイドババアが映ると出刃包丁を投げつけてきた。出刃包丁は瑠璃色の矢に打ち落とされたが破壊神は眉間にしわをよせて言った。
「どうやら十六善神の侵入を三人も許してしまったようだな。」
「破壊神、冥土の土産に十六善神トライアングルアタックを見せてやろう!」
破壊神を中心にして三方を取り囲んだアレス、デメテルそしてメイドババアの三人は同時に攻撃を開始した。アレスがイレイザーを放つと破壊神は瑠璃色のウォールで防御。後方二方向からデメテルとメイドババアの鋭い刃が飛び交ってきたがそれもウォールで防ぐと破壊神は藍色の輝きを放ちデメテルとメイド婆に衝撃波を浴びせた。援護攻撃を失ったアレスに黒色の輝きが放たれるとイレイザーは吸収されていく。負けじとアレスはイレイザーの放出量を増やすが吸収力の勝る黒色の輝きにすべてを吸い取られた。
「ほれ、おまえのエネルギーだ。受け取れ!」
「くそっ、黒玉の能力か! ぐあぁぁぁ~~!!」
破壊神は吸収した菜の花色の光をアレスに放った。細長い黒混じりの菜の花色粒子砲を全身に浴びながらもアレスは菜の花色の輝きを最大まで高め、破壊神の放ったイレイザーを弾き返した。それはデスサイドの城壁を破壊しながら上空へと消えていった。無傷の破壊神に対してアレス、デメテル、メイドババアは圧倒的な力の差を思い知ることとなった。
「ドライアングル・・・なんと言ったか・・・十六善神とは思えぬセコい技だの。」
「遊びはこれまでだ・・・」
目つきの変わったアレスは茶色と菜の花色の輝きを放ちデメテルからは両手、両足に鋭い爪が現れた。メイドババアは人型ではあるが無色の液状になった。
「メイドババアはいつからフェイクになったのだ?」
「我の存在を知っていようとはさすが破壊神。
死を迎える前に面白いことを教えてやろう。」
無色の液状の姿をした亜人種はフェイクと呼ばれている十六善神だった。そのフェイクから長き歳月を掛けての計画が語られた。この計画はデメテルが破壊神の妻ライラを暗殺する以前から始まっていた。当時の地獄道は閻魔大王により統括されていたが破壊神の総攻撃を受けており事態は深刻さを増していた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ピサロ様、増援を・・・破壊神を止めるには十六善神の力が必要なのです!」
「閻魔大王、それを決めるのはあなたではないわ!すでに十六善神は潜入させているし、もう少しの辛抱よ。」
「有難い!我ら一丸となって破壊神を止めてみせます。」
閻魔大王との通信を終えたピサロは天道の自室より窓の外を眺めている。天道の創造神からすべての権限を任されている統括者に登りつめたピサロの頭にはいくつかのシナリオが作られていた。破壊神の侵略も閻魔大王の最後もすべてピサロのシナリオ通りに動いている。
「閻魔もうっとおしい男だわ、まったく・・・フェイクさんはいるかしら?」
ピサロは十六善神のフェイクを呼び出すとシナリオの全貌と任務を伝えた。フェイクは天道より地獄道へ向かったのはこの時だった。液状の姿をもつフェイクはどのような姿にも変えられメイドババアを暗殺するとその姿に化けて任務の遂行に取り掛かった。
「なるほど・・・メイドババアはすでに殺されていたか。
ならばメイドババアの弔いもせねばの。」
破壊神は瑠璃色の矢に藍色の輝きを合わせると衝撃波により加速された無数の矢がフェイクに突き刺さった。衝撃によりフェイクの身体は飛ばされると石柱に張り付いた。しかしデメテルの鋭い爪が石柱と瑠璃色の矢を切り裂くと身動きの取れなかったフェイクが自由を取り戻した。
「菜の花色最大闘気ブレストイレイザー!」
アレスは巨大な菜の花色の波動砲を放出させたが破壊神の瑠璃色波動砲により打ち消された。闘気を失ったアレスは不敵な笑みを浮かべている。アレスは灰色の輝きを放つと辺りは灰色に包まれていく。
「菜の花色玉と瑠璃色玉は同じ属性
・・・勝負にはならないか。ならばこれならどうだ!」
「ソウルキラー・・・」
ソウルオブカラーの能力すべてを無効にする事により破壊神もアレスも能力を使えない。アレスは剣の柄を握ると破壊神を斬りつけた。
「ソウルオブカラーが使えねば、ただの老人に過ぎん!」
ニヤリと笑みを浮かべたアレスは破壊神に飛びかかると鋭い刃が破壊神を斬りつけた。だが、破壊神から流血はない。アレスは手にした剣が折れた事に気づいた瞬間、破壊神の拳が視界に映ると激しい衝撃にアレスは石柱に張り付いた。老体も老体、その身体のどこにこの凄まじいパワーがあるのだろうか。次にデメテルが破壊神に飛び掛ると石柱をも切り裂く爪で斬りつけるが破壊神の身体を傷つけることが出来ない。破壊神は素早い斬撃を繰り出してくるデメテルの腕を掴むとそのまま石柱に張り付いているアレス目掛けて投げつけた。悲鳴をあげながらアレスの横にデメテルも張り付く。その直後、液状の身体を持つフェイクは右腕を振りかぶると遠く離れた破壊神にその液状の伸びた腕が襲い掛かる。破壊神は身体半分動かし攻撃をかわしたがフェイクの攻撃に足元の大理石は陥没した。それはフェイクの攻撃力の強さを証明した瞬間だった。
「我をただのピエロと思っておいでか。我が闘液術をお見せしんぜよう。」
フェイクは両腕をクネクネと動かせると次第にそれは伸びていく。振りかぶった両腕が破壊神を挟み込むように襲い掛かると破壊神は浮遊してそれをかわした。だが次の瞬間、浮遊した破壊神の頭上に別の液状の物体が襲い掛かってきた。フェイクの伸ばされた頭部を破壊神は回避出来ず両腕をクロスさせ防御することで直撃を免れた。
「腕の骨が折れたか・・・」
大理石に着地した破壊神にアレスの茶玉上級闘気 オーバークエイクが襲い掛かる。足場を失い後方へ回避しようとした瞬間、デメテルの爪撃が破壊神の服を斬り裂いた。斬り裂かれた服の下から血の流れるのを確認した破壊神は冷静に戦況を把握していく。
「なかなかの連係プレーではないか。ワシもそろそろ本気を出さねばならぬな。」