ロザリオ家の人々
ケインが距離をとると同時にポンマンはミカとリディーネのいる位置まで後退した。ミカもリディーネも誰も止められなかったケインの攻撃をポンマンが受け止めたことに驚いていた。だがそれ以上に驚いたことがある。それは・・・
「ポンマン・・・いたんだ?」
「えっ、リディーネ?」
「私もてっきり逃げたかと・・・あっ、ゴメンなさい。」
「ミカまで・・・・ヒドイよ、ヒドイよ!」
ポンマンは泣きじゃくるように騒いでいるとか細い長剣を持ったケインが襲い掛かる姿が視界に入り両手に持った短剣を握り絞め向っていく。鳴り響く金属音はケインとポンマンの間でしばらく続いた。ケインから繰り出される剣先が見えなくなろうともそれを軽やかにかわしていくポンマンの姿にミカとリディーネは驚いた。
「ミカ、大丈夫なの?あのポンマンだよ。」
「分からない・・・ポンマンのこんな姿初めて見たから。」
困惑するミカとリディーネだったがケインはそれ以上に驚いていた。接近するも再び後退してある程度の距離を取ったケインはポンマンの持つ短剣を見つめた。するといままでのケインとは思えないほどの憎悪の塊のような表情に変わっていく。ケインはポンマンとの距離を瞬時につめると八つ裂きにすべく連続斬撃を繰り出す。ポンマンは素早くそれをかわしてケインの間合いから離れようと距離を取るがケインがそれを許さない。ミカ達にはケインの一方的な攻撃に見えるが攻撃を仕掛けているケイン自身はそうは思っていない。
「そのフザケた格好はなんだ?それでもロザリオ家の者か!」
ポンマンと鍔競り合いをしているケインは一瞬身を引くとか細い長剣を巧みに動かしてポンマンの顔を斬りつけた。バサッとポンマンの顔が割れて、これを見たミカとリディーネは顔を両手で覆い隠した。しかしポンマンの悲鳴がないことに気づいた二人は恐る恐る瞳を開けると地面に落ちたのはへのへのもへじの仮面だけだった。布のようなモノで出来ていたことにふたりは驚いたがもっと驚いたことがあった。
「ミカ、アレ見て!ケインがもうひとりいる。」
ミカとリディーネの視線の先にはケインと同じ顔をした男が立っていた。だがそれは紛れもなくポンマンなのだ。ケインから距離を取ったポンマンは光り輝くと黒いコートを羽織っていた。その姿は正にケインとうりふたつであった。
「やっと正体を現したか!ロザリオ家の長兄・・・
我が双子の兄 イザーク・L・ロザリオよ。」
「えっ、ポンマンとケインが双子?」
ミカもリディーネもケインの言葉に驚愕した。ロザリオ家のことは分からないがいつも一緒にいたポンマンが最強の剣術使いであるケインと血のつながりがあることが信じられなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「兄ちゃん、待ってよ!」
「ケイン、早く来ないと置いてくぞ!」
幼いケインは兄イザークの後を追いかけていった。ロザリオ家は天道においてもっとも名門の一家のひとつであり剣術に長けた一族でもある。天道の世界で統括者を守る者こそロザリオ家なのである。
代々統括者を守る一家に生まれた少年イザークは剣術において、師範代をもすでに上回っていた。幼いケインはそんな兄イザークが誇りであった。剣術以外にも学問にも優れたイザークはよくケインに本を読んで寝かしつけていた。そんな穏やかな日々は続かなかった。イザークはロザリオ家当主に呼ばれた。細く奥行きのある部屋には黒装束に身を包んだ剣士達が並び、その先に当主が座っていた。イザークの父親であり、最強の剣士ホーク・L・ロザリオは白く光る剣を見つめていた。イザークが一礼するとホークは手にした剣から視線を移しイザークに言葉をかけた。
「父上・・・今、何をしろと言われましたか?」
「イザークよ、おまえもすでに成人。ロザリオ家に生まれ、今日まで剣術を磨いてきた。その集大成をして人道へ出向き、我が家に伝わる神剣サリタリオンを真っ赤に染めてみせよ。」
「・・・・できません・・・」
神剣サリタリオンは持ち主を選ぶ魔剣でもあり、その刃が血で染まった時にはじめて力を発揮するといわれている。剣術にも学問にも長けていたイザークであったが誰よりも優しすぎた。歴代ロザリオ家において最強とも謳われていたイザークは優しさという不純物が身体から離れなかった。
「ロザリオ家のすべてをお前に叩き込んだつもりだ。
お前が辞退するならば、幼いケインが跡を継ぐことになるがよいのか?」
「・・・・」
「それがお前の答えか・・・今より長兄イザークは病死!
ケインをロザリオ家の跡継ぎとする。イザークを殺せ!!」
「父上!」
黒装束の剣士達が一斉にイザークに襲い掛かった。腰に吊るした二本の短刀を握り締めるとイザークは黒装束の剣士達を倒していく。次にイザークに刃を向けたのは父ホークであった。手にした神剣サリタリオンでの連続剣技はイザークの急所を的確に狙っていた。しかし剣術に関してはすでにイザークの方がホークのそれよりも上回っていた。神剣サリタリオンを弾き飛ばすとホークの首元にイザークの短刀が向けられた。
「父を・・・この私を殺す気か!」
「父上・・・私はロザリオの名を捨てます。
イザークの名も捨て、独りで生きてゆきます。」
イザークは振り返ることもなく幼きケインの顔を見ることもなくロザリオ家を天道を去っていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
数年後、次兄でありながら長兄を差し置いて一族の長を継ぎ現在は十六善神の四天王まで登りつめた。だが何故次兄であるケインがロザリオ家を継いだのか?それはケインの一言で明らかになった。
「何故、貴様はロザリオ家を逃げ出したのだ!」
「ケイン・・・代々ロザリオ家に受け継がれる事に疑問を感じないのか?」
ロザリオ家は天道の統括者を警護する一族であるがそれは表向きの姿で本来の目的は天道に敵対する存在を暗殺する血塗られた一族である。代々暗殺を仕込まれていた長兄が一族を治めるのだがポンマン、いやイザークはそれが理解出来なかった。ロザリオ家に代々伝わる剣術を会得しながらも暗殺者になりきれなかったイザークは仮面を被りポンマンとして放浪の旅へと逃避したのである。イザークがいなくなりすべての責任を受けることになったのが次兄のケインである。ケインは代々伝わる暗殺術を死ぬ思いをしながら会得したのだった。
「貴様が何を考えようと俺の苦しみは分かるまい!この神剣サリタリオンに認めさせるのに何万の血を浴びたことか。どれほどの悲鳴を耳にしたことか!」
「・・・・」
「・・・命をとして謝罪せよ!」
ケインが神剣サリタリオンを構えるとイザークもそれに応じるしかなかった。ロザリオ家の暗殺術を継いだケインと長兄でありながらロザリオ家から逃げたイザークの戦いがここに開始された。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「デメテル、ここで何をしているのだ?
逃げるようにメイドババアに伝えておいたはず。」
「心得ております。ただ、私ひとり逃げるのはあまりにも忍びないものです。」
「もうよい・・・おまえの陰謀はすべてお見通しだ。双面のデメテル。」
デメテルは髪の毛を振り回すと無数の鋭い針が破壊神に襲い掛かるが破壊神が瑠璃色の輝きを放つと鋭い針が溶けていく。
「チェッ、バレちゃあしょうがねぇ~。
騙しきれたと思ったが・・・クソ面白くねぇなぁ~。」
デメテルの口調が変わった。これが双面のデメテルと呼ばれている由縁だ。十六善神ではあるがデメテルの攻撃力はさほど強力なものではない。しかしそれを補うものがデメテルにはあり、ピサロはそこが気に入って十六善神に取り入れた。
「デメテルさん、あなたのその残虐なと・こ・ろ。私、好きよぉ~。」
デメテルは暗殺を得意としておりピサロの命令があればどのような要人であっても数年のうちに暗殺に成功している。今回の破壊神暗殺に関してはデメテルもこれほど困難になるとは夢にも思っていなかった。用心深い破壊神には側近すら近づくことは容易ではなく唯一近づくことを許されていたのが破壊神の妻ライラだけである。デメテルは長き歳月を経て破壊神の妻ライラに近づくことが出来るようになった。実際はこの状況になるまで数名のメイドを暗殺しているわけだが・・・。それは破壊神が地獄道を治めていた閻魔大王との五百年戦争の為に遠征へと向かった頃である。当時のデスサイドは鉄壁の防御力を誇っていたがいくつかの弱点とも言うべき侵入路が存在していた。内部に潜入していたデメテルはその存在に気づいてそこからピサロの暗殺者部隊を忍び込ませた。
「なっ、何者?ここで何をしている・・・ハッ、やめて!」
「ドサッ」とライラはその場に倒れると大理石の床が血で染まった。丁度その時、なかなか寝付けなかった娘のリディーネが母親の叫び声を聞きつけ目を擦りながらライラの部屋に入ってきた。ライラの身体から流れる血はリディーネの足元にも近づいてきた。幼いリディーネには何が起きたのかはもちろん理解出来ていなかったがライラが倒れていることだけは分かった。
「ママ・・・どうしたの?・・・起きてよ・・・ママ!」
幼いリディーネは倒れているライラに近づくと何度も何度も呼びかけた。そんなリディーネの隣に座るとデメテルは残虐な一面を表した。
「アラアラ、お譲ちゃん大変よ。血がこんなに流れてる。フフ・・・
もう手遅れね、残念だわ。」
「ママ・・・ママ、ママ・・・ママァ~~~」
恐怖と母の死が幼きリディーネを混乱させていく。実際この時の記憶はリディーネにはない。それもデメテルの思惑通りとなってしまっている。破壊神が遠征より戻ってきてからもデメテルはメイドとして働いていく。それからも破壊神に近づくために邪魔となるメイドを次々と始末して今現在の地位まで昇りつめた。
「うまくいってると思ってたのに残念だ!何故分かった?」
「悲しい事だがワシには相手の思考が読める。
おまえを生かしておいたのは妻を守れなかった自分への戒め。」
「なるほどね・・・最初からわかっていたとは・・・残念、残念。」