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未来のきみへ   作者: 安弘
地獄道編 Ⅱ
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殻保有種

 「遊んでくれるの?」


 ドンコイは身体の脂肪をスプリングのように縮めてそれを一気に解き放つとアンフィスバエナ目掛けて飛んできた。脂肪の塊にブチ当たったアンフィスバエナは簡単に吹っ飛ばされる。 

 地面を滑るように飛ばされたアンフィスバエナは地面にしがみつき制止すると体勢を整えて周囲を見渡す。だがそこにドンコイはいなかった。次の瞬間、アンフィスバエナの頭が真っ暗になると上空より脂肪の塊となったドンコイが勢いよく落ちてきた。


 「あっ、ががが・・・・」


 アンフィスバエナは地面に顔を強打し、意識が朦朧としている。ドンコイは再び上空に飛ぶと降下し、アンフィスバエナに激突した。その重さにアンフィスバエナの身体が九の字に折れ曲がる。意識が混濁したその目に再度上空から落下してくる脂肪の塊が映るとアンフィスバエナは顎を開き猛毒を吐き出した。


 「ビギャァァァアア~~!」


 自慢の脂肪が猛毒を浴びてただれると激しい激痛に叫び声をあげてドンコイは地面を這いずり回った。なんとか意識を取り戻したアンフィスバエナはドンコイの変化に気がついた。ドンコイはただれた脂肪を切り取ると新たな脂肪がそこに見えた。


 「なるほど・・・殻保有種ならば勝機もあるか。」


 秘密を知ったアンフィスバエナはドンコイへの反撃を企てる。再び猛毒を浴びせるとドンコイは土塗れになり地面を這いずり回る。身体はガクガクしながらもアンフィスバエナは立ちあがるとドンコイを見下ろした。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 一方、ヴリトラも巨大な魔物と一戦交えていた。巨大な龍になったヴリトラが戦っている魔物は化鯨と呼ばれる十六善神の中で最も巨大な魔物である。

 骨だけで身体を構成している化鯨は上空を浮遊してはヴリトラ目掛けて体当たりを仕掛けた。ヴリトラも巨大な魔物ではあるが化鯨のそれとはあまりにも差がありすぎた。ヴリトラの身体は化鯨の激しい体当たりに勢いよく吹っ飛ばされ地面が陥没した。しかし化鯨は追撃することもなくただ上空を浮遊している。浮遊を続ける化鯨に地面から這い出てきたヴリトラの闘志に火がついた。


 「この私がなめられたものね。七鬼楽の力をお見せいたしましょう。」


 ヴリトラは浮遊している化鯨に向かって飛んでいく。ヴリトラの存在に気づいた化鯨も重量感ある身体を動かす。物凄いスピードで化鯨に突っ込んでいくヴリトラは激突する寸前にヒラリと体をかわしながら鋭利な鱗で化鯨の骨に傷をつけた。しかし化鯨はたいしたダメージを受けることもなくヴリトラを追っていく。重量感ある化鯨はヴリトラ目掛けて突撃を繰り返していくが寸前のところでそれをかわすと鋭利な鱗で何度も化鯨の骨に切り傷を入れていく。

 その繰り返しに何かを確信したヴリトラは再び地上に降りた。そのヴリトラ目掛けて化鯨は重量を生かして落下速度を増していく。ヴリトラはまたもヒラリと化鯨の体当たりをかわすと恐ろしいほどの衝撃に周囲の空気がビリビリと震えた。化鯨の激突によって陥没した地面はヴリトラが激突して出来た陥没とは比べ物にならないほど大きく深かった。だが何事もなかったかのように化鯨は身体を起こすと再び浮遊しようとした。


 「動かないほうが身の為よ!」


 そんなヴリトラの言葉など無視するかのように化鯨は上空目掛けて浮遊をした。だが浮遊していったのは化鯨の上半身のみで下半身は地上に置かれている。巨大すぎる化鯨は身体の異変には気づいておらず浮遊してから再度地上にいるヴリトラ目掛けて突撃してきた。


 「哀れな魔物・・・」


 ヴリトラはまたもヒラリとかわすと化鯨は再び激しい勢いで地面に激突した。激しい衝撃に粉々に砕けた化鯨は二度と浮遊することはなかった。ヴリトラは化鯨の攻撃をかわしながら自らの鋭利な鱗で骨にわずかな切れ目を入れたのだ。小さな亀裂は度重なる衝撃によりその亀裂が深くなり化鯨を支えていた複数の骨は粉々に砕けたのだった。しかしヴリトラも無事に済んだわけではなかった。化鯨の攻撃をかわしたとはいえ衝撃をもかわせたわけではない。鱗が削げ落ち内臓もズタズタにされたヴリトラは血を吐くとその場に倒れた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 「僕は痛いのが嫌いなのに・・・遊ぶは止めて殺してしまおう。」


 「殺す?・・・誰を殺すつもりなのか?」


 アンフィスバエナはすでに瀕死の状態であったが唯一の活路はドンコイが殻保有種であるかもしれないという可能性だった。殻保有種の弱点はパズズやベルセブブを見てわかっている。

 ただどこにそれがあるのか、わらないのも事実である。それを捜すことから始めなければならない。アンフィスバエナはドンコイから距離を取る様に上空へ飛び出した。ドンコイには飛行能力は無いものの自らの身体をスプリングのように縮ませるとそれを一気に開放させて飛びあがった。


 「おい、逃げるなんてズルい、卑怯者!」


 ドンコイが上空高く飛びあがってもそれ以上の高度にアンフィスバエナは浮遊した為、ドンコイが攻撃を与えることは出来ない。


 「うぅ~~、バカ、カバ、おまえの母ちゃん、デベソ。」


 痺れを切らしたドンコイはアンフィスバエナを挑発することしか出来ない。顔を真っ赤にしながら苛立ちを増していくドンコイはすでにアンフィスバエナの術中にはまっていた。高く跳びあがろうと必死になってゴムボールのように跳ねているドンコイには跳ぶことしか頭の中になかった。ゴムボールと化したドンコイにアンフィスバエナは猛毒を吐き出した。


 「ぎょあぁぁぁ~!!」


 発狂にも近い叫び声を発しながらドンコイは地面に落下いくとそこは大きく陥没した。巨漢が作り出したお椀状の陥没した地面にアンフィスバエナは大量の猛毒を撒き散らすと最も深いお椀の底にいるドンコイの身体は少しずつではあるが溶け出していく。


 「ムッ、あれか!」


 地上に降り立ったアンフィスバエナの目に溶けていく脂肪の中から赤茶けた殻が薄っすらとではあるが確かに見えた。大量の脂肪を垂れ流し新しい皮膚を形成していくとドンコイはスッと立ちあがった。脂肪の海に腰まで浸からせてニヤけた表情を浮かべながらアンフィスバエナを見つめていた。


 「ちょっと痛かったけど、もう元気!慣れたからもう効かないよ。」


 ドンコイの言った事はハッタリではない。アンフィスバエナが最初に猛毒を浴びせた時よりも今回のドンコイの回復時間は短くなっている。ドンコイの攻撃力はさほど強力なものではないがそれを補うように相手の攻撃を受けながら防御力を高めていく。つまりアンフィスバエナが猛毒を浴びせれば浴びせるほどそれに対する防御力が増していくのである。アンフィスバエナにとって猛毒攻撃が逆に不利になる可能性が出てきたが至って冷静に状況を分析していた。


 「それはわかっていたこと・・・想定内の範囲だ。」


 お椀のように陥没した地面の底でドンコイはヘラヘラと笑っている。再び浮上したアンフィスバエナは獲物を捕らえるような鋭い眼光でドンコイを睨みつけた。


 「勝機はこの一瞬に掛かっている。」


 急降下しながら加速度を増していくアンフィスバエナは顎を開くと猛毒を吐き散らした。それはお椀の底にいるドンコイに注がれ絶叫と共に脂肪が再び溶けていく。それでもドンコイの脂肪が溶ける速度が著しく遅くなり猛毒に対する抵抗力が増してきていた。溶けている脂肪の海でドンコイは余裕ともとれる笑みを浮かべている。アンフィスバエナはドンコイの両腕に鋭い前足の爪を食い込ませると更に猛毒を吐き出す。


 「グフフ・・・馬鹿の一つ覚えみたいな技は効かない。」


 「馬鹿の一つ覚えはおまえだ。私がただ猛毒を撒き散らしたとでも?」


 アンフィスバエナは双頭の顎を開くとドンコイに噛み付き脂肪を剥ぎ取り猛毒を流し込んだ。抵抗をするもドンコイはアンフィスバエナの前足と後足に拘束されて動けない。


 「グフフ・・・無駄、無駄、無駄」


 脂肪が溶けても回復する速度が次第に増してきたドンコイに対してアンフィスバエナはただある一箇所のみの脂肪を剥ぎ取っていく。ドンコイの脂肪の奥深くに鈍く光る赤茶色の殻を見つけるとアンフィスバエナは片方の頭を脂肪の中に押し込んだ。だが溶ける速度よりも回復する速度が完全に速くなっている。ドンコイはアンフィスバエナの前足、後足の拘束を解くと軽々と放り投げた。溶けた脂肪まみれのアンフィスバエナは地面に叩きつけられて起きあがれない。


 「グフフ、やっぱり馬鹿の一つ覚えだ。さあ、僕の番だよ。どう殺そう。」


 「貴様の番?これが何か知っているか?」


 「僕の・・・それは僕のだ!返せ、返せ、返せ!!」


 アンフィスバエナの片方の顎には赤茶色の殻が咥えられていた。一瞬、顔を引きつらせたドンコイは殻を奪い返そうと襲い掛かる。アンフィスバエナはそれを一気に噛み砕いた。


 「ギャアァァァ~~・・・アバババ・・・・」


 恐怖に歪んだ表情をしながらドンコイはドロドロと溶け始めていくとアンフィスバエナの目の前に大きな脂肪の水たまりを出来あがった。勝ちを拾ったアンフィスバエナは蝙蝠のような翼を広げると飛び立った。地上にはフェンリルの遺体と動かなくなっているヴリトラの姿が目に映ったが次第に自らの身体が地上に近づいていくのが分かった。衝撃とともに目の前が真っ暗になっていく感覚を感じながら目を閉じていく・・・。


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