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未来のきみへ   作者: 安弘
畜生道編
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小さな洞窟とモグラ

 デノガイドやイーターのいなくなった部屋は静まり返っていた。タカヒトは目の前で起こった出来事にショックを受けている。


 「タカヒト・・・おい、タカヒト!」


 てんとが何回か名前を呼んだがタカヒトの耳にはなかなか届かなかった。やっとのことでタカヒトは我に返るとてんとを見つめた。


 「てんと・・・今の何なの? あんなデカいムカデ見たことないよ。

国王はどうなったの?僕達これからどうなるの?」


 「デノガイドとか言ったな。国王は喰われたらしい。しかもそれによってデノガイドは攻撃能力を更に高めたようだ。それよりデオルトはまだ生きている。助けよう。」


 「うん・・・でもまたデノガイドやイーターが来たら?」


 「助けるのか、助けないのか、君が決めればいい!どうする?」


 しばらくの沈黙の後、タカヒトは真っ直ぐてんとを見つめる。


 「デオルトを助ける!」


 しかしそうは言ったもののタカヒトにはどうやってデオルトを救出するか考えが思い付かなかった。てんとがフロアを見渡すとパピオン兵が持っていたらしいロープを発見した。タカヒトにこの場で待っているように伝えるとてんとは柵の間を外して羽根を広げると降下していく。フロアに落ちていたロープを掴みその一方をデオルトの身体に巻き付けて結んだ。ロープのもう一方を持ち上げるとタカヒトの元に戻ってきた。


 「よし、タカヒト。このロープを引っ張るのだ!」


 てんとはタカヒトにロープを手渡すとタカヒトは力いっぱいロープを引っ張り上げる。デオルトの身体はどんどん引っ張られるとそのまま喚起口まで引き込んだ。巻き付いたロープを取るとタカヒトはデオルトの様子を伺った。デオルトは気絶をしているだけで身体にダメージはそれほど無さそうだ。


 「デオルトは大丈夫みたいだね。それでこれからどうするの?」


 「ここから少し戻ると二手に分かれる道がありその一方は外に繋がっている。一旦、態勢を整える為にここから脱出する。」


 タカヒト達は喚起口から来た空調ダクト内を戻るとてんとが言った通りに二手に空調ダクトが分かれていた。来た空調ダクトとは別の空調ダクトに進むと一寸の明かりが見えてパピオン国を抜け出す排気口へ出る事に成功した。排気口から大樹木を降りていく際、タカヒト達は沢山の動かなくなった騎兵団の兵士達を至るところで見かけた。

 パピオン国を支えている大樹木には当初タカヒトが見た沢山のイーターは一匹もいなかったが大樹木を支えている地面にはパピオン国の騎兵団の兵士達が息もせずに倒れていた。それは兵士達の身体で地面が見えないほどである。パピオンの身体は引き千切りられ見るも無残な姿をしていた。大樹木の枝に数十匹のパピオンが垂れ下がっていた。


 「なんなの!昨日まで一緒にいたパピオンが・・・うっ、ぶっ、げほっ!」


 あまりにも壮絶な光景にタカヒトは膝を地面につくと胃の中のものを吐き出した。恐怖と絶望のすべてを吐き出すように苦悶の表情を浮かべながら・・・。しばらくその場から動けないタカヒトを座らせるとてんとはどこかへ飛んでいった。すべてを吐き出してゲッソリしたタカヒトにてんとは食糧庫から戻ってくると薬草を練った飲み物をお椀に入れて持ってきた。


 「これを飲め。しばらく休む事にしょう。」


 てんとのお椀を受け取るとゆっくりとそれを飲んだ。てんとはタカヒトとデオルトの様子を見ながらも辺りを警戒していた。ヤケに静かであったが時折吹く風が死臭を連れてくる。いたたまれなくなったタカヒトはなんとか立ち上がるとデオルトを背負った。


 「もう行こう・・・てんと。」


 「大丈夫なのか?」


 タカヒトがうなずくとてんとは浮遊して先を進んでいく。壊滅したパピオン国を脱出するとタカヒト達は西の森へ向かって歩いていた。そんなタカヒト達を大樹木の頂上から眺めている人物がいた。茶色の厚手のマントを前にかき合わせ深々とハット帽をかぶっている人物だ。

          

 「逃げることは悪いことではない。命さえあれば次がある。

 命さえあれば必ずチャンスは訪れるものだ。」


 静かな大樹木に風が吹くとハット帽をかぶっている人物は消えていった・・・。


 「ハァハァハァ・・・」


 タカヒト達はなんとか命を繋ぎとめる事に成功していた。パピオン国から西へと向かっている途中でイーターに遭遇した。しかし気づかれる事もなく森まで走って逃げる事が出来た。てんとは飛びながらも何かを探しているようで急に止まるとそこには小さな洞窟があった。


 「とりあえずここに身を潜めるぞ!」


 洞窟の入口はかなり小さくてタカヒトが身をかがませないと入れない位だった。その為イーターは入ることが出来ない絶好の場所でもある。デオルトを洞窟の奥へ連れて寝かせるとタカヒト達も少し休むことにした。イーターとの戦いに加えデノガイドの襲撃でタカヒトの疲労はピークに達していた。

 疲労による睡魔に襲われたタカヒトはウトウトしていると洞窟の入口付近にずんぐりむっくりした何かがうっすら映った。タカヒトは目を擦りながらジッとそれを見つめると大きさが100cmくらいのモグラのような生物が立っていた。タカヒトの顔が急にサァ~~と蒼く引きつる。それとは対照的にてんとは生物に対して攻撃体勢をとった。 


 「おまいらは誰だが?うん、そこに寝てるのはデオルトでねえか?

  いったいなにさ、あっただが?」


 「えっ!デオルトの事を知ってるの?」


 モグラのような生物はヒョコヒョコ近づいてくるとタカヒトはいままでの出来事をすべて話した。てんとは最初、警戒をしていたがモグラが話を黙って聞いている姿を見て攻撃体勢を解除する。タカヒトの話を聞き終えたモグラのような生物は少しの間考え込んでいた。


 「話さ、わがったが。そんなことがあったがね。国王様まで・・・・

  まあデオルトの姿さ見ればなんとなくわがるだが・・・とにがくここさも危ね!

  ここにもイーターさ来るがに。ささっ、奥の部屋さ来るが。着いて来るが!」


 モグラのような生物はヒョコヒョコと洞窟の奥へと歩いていくが洞窟はさほど大きくなく行き止まりになっている。ところが一番奥に着くとモグラは砂を掘り始めた。掘り出していくうちにモグラのような生物の身体が少しずつ見えなくなる。タカヒトは心配になって穴に近づいていくと突然ヒョッコリとモグラのような生物が頭を出した。


 「ついて来るが!」


 不安な表情を浮かべながらもタカヒトはデオルトを連れててんとと共にその穴に入っていく。タカヒトは這いずりながら穴を抜けるとその先には広い空間が広がっていた。

 タカヒトはその広い空間を見ながらゆっくり穴から這い出るとモグラのような生物は入ってきたその穴を埋め始めた。手でパンパンと砂埃を振り払うと得意げにモグラのような生物は言った。


 「これでここがわがらなくなったが。はやぐ横にさせておまえ達も休むが。」


 デオルトを近くにあった土のベッドに寝かせた。恐怖の連鎖と逃走した負い目・・・いろいろな感情が入り乱れる不安定な精神状態の中でタカヒトはモグラのような生物すら信用出来ない状況だった。

 警戒心を保ちながら土のベッドの上に座っていたのだが気がついたら眠ってしまっていた。どれ位眠っていたのだろうか・・・タカヒトはベッドに横になっていてハッと我に返り目を覚ました。


 「僕、眠っちゃったんだ。」


 タカヒトがてんとの姿を見るとさすがに疲れが溜まっていたのだろう、椅子の上で眠っていた。とりあえず命の危険はなさそうだと感じたタカヒトはデオルトの方に目を向けるとぼんやりしながらも目を開けて意識を取り戻していた。


 「デオルト!」


 タカヒトはデオルトに声を掛けた。最初はタカヒトの声に反応をさほど示さなかったがデオルトは少しずつ意識をハッキリとさせていった。


 「デオルト、大丈夫?気分はどう?」


 「うむ、・・・私は大丈夫だ。国王は?我が王はどこにおられるのだ?」


 キョロキョロと周りを見回しているデオルトにタカヒトはいままでのことをすべて話した。するとデオルトは激しく動揺して肩を震わせるといきなりタカヒトの胸ぐらを掴み涙ながらに怒鳴り出した。


 「こっ、国王がなぜ・・・私はこれからどうすればいいのだ!なぜ?なぜ助けてくれなかった?お前達は伝説の勇者ではなかったのかぁ~~!」


 ベッドから落ちると床にひざまずき声を震わせデオルトは泣き叫んだ。その姿を見てタカヒトは声を掛けることも出来ずただ立ちすくんでいた。その様子を見ていたてんとはデオルトに近づいていく。


 「確かに我々はおまえの望む勇者ではない。しかしあの厖大な数のイーターとデノガイドとか言う化物相手に騎兵団は壊滅・・・・もし我々が勇者であったとしても勝てはしなかっただろう。しかし大切なのはこれからだ!おまえがどうするかによってこれからのすべてが変わるはず。今は休むことが先決だ!身体を休めて回復してから皆で計画を練ることにしょう。」


 てんとの言葉にデオルトは少しずつ冷静さを取り戻した。モグラのような生物もデオルトに「てんとの言う通りにするべきが」と促すと涙を拭きデオルトは落ち着きを取り戻した。


 「グラモ・・・・・そうだな。タカヒト殿、さきほどは見苦しいところを見せてすまなかった。私は少し休ませてもらうことにする。」


 ベッドに戻り横になったデオルトはかなり疲労が溜まっていたらしくすぐに眠りついた。

その姿を見たグラモはタカヒト達にも休むように促した。タカヒトもデオルトの隣のベッドに横になるとさきほどの警戒心などまったく無くなりすぐに深い眠りについた。てんとはデオルトとの関係を聞こうとするとグラモはグーモー族とパピオン国の相互協力関係を語った。

 長い間、グーモ一族はこの畜生道で畑を耕し生活してきた。だがイーターによる畑の破壊行為にホトホト困っていた。そんな時デオルト達パピオン騎兵団の助けもありイーターの襲撃は無くなっていく。その結果、畑で収穫した作物の一部をパピオン国に提供してイーターの襲撃から守ってもらうという関係が成り立っていたわけだ。グラモは短い手を降り上げて興奮気味に語ったが話を割るようにてんとは口を出した。


 「イーターの凶暴さは騎兵団の力では対抗できないのではないか?」


 「もちろんだが!イーターの強さは圧倒的だがで。そんでも当時のイーターは相当頭が悪かったけぇ~。わてら畑耕してる時にイーターが襲撃に来たら待機していた騎兵団が攻撃するんだが。もちろんイーターには通じないんがイーターは怒って騎兵団を追いかけていくんやが。

 ずっと追い掛けて行ってバカなイーターは迷子になるんだが。そんな事を繰り返していたおかげでなんとか作物を作る事が出来たんだが。・・・まあそれもデノガイドがくるまでだがね。」


 「デノガイドの出現か・・・」


 「いつの頃からか・・・どこから来たのか?わからないだがデノガイドがこの地に現れてからイーターの能力が急激に変わったが。その頃から騎兵団による攻撃もイーターには通じなくなってグーモー族の畑地は荒らされ続けていったが。その結果、我らグーモー族はパピオン国王の考えに従い地中に潜り作物に更に力を入れていったがね。」


 「地中に潜る?」


 「明日、皆に見せたいものがあるが。今日はもう眠る事にするが。」


 グラモはあくびをしながら部屋の片隅で横になって眠りについた。ベッドの方に目をやるとタカヒトが安心しきったように眠っていた。その姿を見たてんともとりあえずの平穏に安心しながら床についた。


 「タカヒト!朝だが、起きるが!」


 次の日の朝、タカヒトはグラモに起こされた。目をこすりながら奥の部屋へと歩いていく。寝ぼけ眼でグラモの後を歩いていくと目の前にテーブルいっぱいの食べ物が見えた。そのテーブルの周りにはグラモに似た体型のモグラが大小合わせて十五匹いた。ビックリしてすっかり目を覚ましたタカヒトはグラモに問い掛けた。 


 「皆、グラモの仲間だが。」


 得意げにグラモは言った。すでにデオルトもてんとも席についていて皆、タカヒトが来るのを待っていた。あまりにもそっくりなグラモの仲間の顔を見ながらタカヒトは用意された席に座る。


 「みんな揃ったが。それでは・・・いただきますが!」


 「いただきますが!」

 

 タカヒトが口にした食べ物は人道で食べたことのある米によく似ていた。グラモに問い掛けてみるとそれはご飯と言った。同じ食べ物に驚いたがグラモが言うにはこれはパピオン国の農務大臣から教わったものをグーモー族が改良した物らしい。タカヒトは確かにパピオン国で変わった米らしきものを食べたことがあった。改良されたご飯はタカヒトに人道での記憶を蘇らせていった。その時は何も考えずにただ食べていたご飯がこんなにおいしく穏やかな気持ちになれるとは思ってもいなかった。人道での思い出を思い起こすようにタカヒトはご飯を噛締めながら食べていた。


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