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未来のきみへ   作者: 安弘
地獄道編 Ⅱ
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地獄の交響曲

 「くらいやがれ!赤玉上級闘気 メガフレア」


 赤タカヒトから放たれた激しい炎柱が第一師団の進軍を阻止した。だが事態が好転したわけではない。側方から第四師団と第六師団が挟み撃ちを仕掛けてきたのだ。


 「赤タカヒト、側方からふたつの師団が挟み撃ちを仕掛けてきた。撤退するぞ!」


 「チェッ!・・・しょうがねえな!」


 渋々と赤タカヒトは従った。あまりに大きすぎる戦い・・・ピサロ率いる天道軍と破壊神率いる地獄道軍の大戦争が開始されたのは数日前の事だった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 大焦熱地獄の門を潜り抜けピサロ達が行軍を開始した情報はすぐに破壊神の耳にも届いた。すでに戦闘態勢が整えられていた地獄の猛者達が迎撃を行うのに大して時間は必要ない。満を持して迎撃を開始した破壊神達に隊を乱すこともなく天道軍も応戦していく。長距離攻撃を得意とする四悪王のティシフォネ、メガイラ、アレクト、ステンノがデスサイド内の砲火場に配置していた。竜胆色、茄子紺色、菖蒲色、古代紫色の波動砲が放たれるとピサロ率いる天道軍にひとすじの閃光が走る。数百の兵士が一瞬にして消え去る中、十六善神のギル、ドンコイ、バクがシールドを築きピサロへの直撃を阻止していた。


 「手荒い歓迎、実に刺激的!さあ、この交響曲を楽しみましょう!」


 オーケストラの指揮者のようにピサロは身振り、手振りで表現すると十六善神のひとりであるインドラが前に出てきた。インドラは理力を高めるとデスサイド内の砲火場にいる四悪王の頭上に雷撃を落とした。


 「させるか! 天空カードセット・・・フルハウス」


 五大鬼神のアスラがカードを手にすると押し寄せる雷撃の方向を変えて四悪王への直撃を阻止した。いつまでも続く双方の長距離攻撃の連鎖にウンザリしたピサロは行軍を再開すると約十六万の兵士達が一斉に前進してくる。ピサロの戦略は乾坤一擲。その名の通り十六万の兵士は破壊神のみを狙うものだ。 一方、破壊神の戦略は二十万の兵力で逆扇型の布陣を取った。一直線上に突き進む天道軍をけん制しつつ、完全防御と持久戦に持ち込ませるものだ。


 「どうやら勝負を焦っているな。パズズ、ベルゼブブ、側方から展開せよ!」


 アスラの指示を受けたパズズ、ベルゼブブはデスサイドより飛び立っていく。眼下にはおびただしい数の兵士で地面が見えなくなっていた。


 「さて、自慢の熱風を味あわせてやろう。」


 パズズが顎を開け、熱風を吐きつけると同時にベルゼブブも慈雨を降らせた。数万度にも達する熱風を浴びた天道軍はそれを避けるように慈雨の降る場所へと引き寄せられた。だがそれは恵みの雨ではなく、硫酸の雨。その雨を浴びた兵士の皮膚は少しずつ溶けていく。

 熱風を浴びるか、それとも皮膚を溶かされるか?苦しみから逃げ出した先はやはり別の苦しみが待っている。苦しみの連鎖に恐怖した天道軍は次第に統制が取れなくなった。天道軍はこの攻撃により一万単位の兵士隊である第三師団を失った。


 「天道軍といえ俺達の攻撃からは逃れられんようだな・・・グエッ!」


 次の瞬間、パズズとベルゼブブの身体が真っ二つに裂けた。状況を理解できないベルゼブブの目に映ったのは十六善神の四天王ケインであった。細身に白いコートを羽織った姿でその手には風に揺られる柳のようなか細い長剣が握られていた。


 「クックックッ、弱いものイジメに集中しすぎて俺に気づかなかったようだな。」


 「貴様は・・・ケインか。」


 笑みを浮かべるケインはか細い長剣を振ると剣風で更にパズズとベルゼブブの身体を斬り刻んでいく。パズズは完全にバラバラになると数千万匹のバッタに姿を変えて退却していく。


 「どうやら今回はおまえの勝ちらしい。」


 ベルゼブブもそう言い残すと数千万匹のハエの姿になり撤退していく。天道軍は第三師団を失ったものの五大鬼神のパズズとベルゼブブを撤退させたことは事実上勝利と言っても過言ではなかった。


 「作戦を第二布陣に移行!」


 ピサロの合図に天道軍は行軍を止めて扇型の布陣へと展開していく。それは地獄軍の逆布陣を包み込むよう展開された。だが地獄軍の布陣を包み込むには天道軍の兵力では圧倒的に不利な状況である。しかしピサロは不敵な笑みを浮かべている。


 「不利ですって?私の交奏曲をあなたの曲と一緒にされるのは心外だわ。」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 それから数日が経ち、大戦争に巻き込まれたタカヒト達は天道軍の師団を相手に撤退を余技なくされていた。


 「赤タカヒト、側方からふたつの師団が挟み撃ちを仕掛けてきた。撤退するぞ!!」


 「チェッ!・・・しょうがねえな!ふたつの師団ぐらいで・・・・ゲッ、何だ、あの数は!多すぎるにもほどがあるぞ!」


 赤タカヒトの激しい炎柱が第一師団の突撃を阻止したがそれは天道軍の罠であった。正面の第一師団に攻撃をさせて引き付け側方から第四・第六師団が攻撃を仕掛けてくるという作戦であったのだ。調子に乗った赤タカヒトはまんまと相手の作戦に乗ってしまったというわけだ。


 「くそが!赤玉中級闘気 フレイム」


 奥歯を噛み締めて怒りを表した赤タカヒトから火炎の波が放たれていく。第四・第六師団に直撃するも前進を止めることは不可能だ。第四・第六師団の総攻撃に赤タカヒトは一目散に逃げていく。


 「調子に乗りやがって!」


 「おい、小僧!手を貸してやろう。」


 逃げる赤タカヒトの頭上に悪魔の王 イブリースが現れた。イブリースは闘気を高めると薄色の輝きを放ち始めた。右腕を振るいあげた瞬間、戦慄を感じた赤タカヒトはその場に倒れこむようにうつ伏せになった。


 「うおおおぉぉ~、なんて衝撃だ!」


 凄まじい爆撃音が赤タカヒトの身体に伝わった。身体を起こして後ろを振り向くと薄色の業火が第四・第六師団の半数を焼き尽くした。口をアングリ開けている赤タカヒトの頭上をイブリースはニヤけながら飛び去っていった。

 イブリースは悪魔の王でありながら現在は破壊神の最強部隊 五大鬼神の一翼を担っている。しかし破壊神の指示など無視するかのように気ままに殺戮を楽しんでいるようだ。先に撤退していったてんと達になんとか追いついた赤タカヒトは同じく五大鬼神であるアスラのいる前線基地まで戻っていた。指揮官のアスラがいる前線基地には最前線からの戦況が次々と入ってきた。


 「戦況を報告します。イブリース様、第四・第六師団と交戦中。

  パズズ様、ベルゼブブ様はケインの襲撃により負傷。」


 「戦況を報告いたします。西部より第七・八・九師団進行中!

  ジン様が迎撃開始されました。」


 「戦況を報告!東部より第二・五・十・十一師団が進行中!!」


 「四悪王の長距離攻撃を東部に集中!

  フェンリルとヴリトラ、アンフィスバエナを迎撃に向かわせろ!」


 ピサロの戦略がアスラの戦術をおしている形となっていた。天道軍十六万に対して兵の数は破壊神率いる地獄軍のほうが四万ほど多い。数の少ない天道軍は不利なはずだが優勢なのは天道軍である。しかし兵力の少ないはずの天道軍は優勢であるにもかかわらず単純な攻撃を続けている。てんとは天道軍の戦略の統一性のなさに困惑していた。第三師団を壊滅させたとはいえ天道軍は師団の半分を依然温存させている。ピサロの考えそうないくつかの戦術をてんとは検証していた。


 「残りの師団はどこから・・・・まさか!」


 てんとは赤タカヒト達を連れてアスラいる軍会議室に入っていくと大焦熱地獄デスサイド周辺の地図を見つめた。デスサイドは巨大なマグマの海に包まれていて後方からの攻撃は受け付けない構造となっている。天道軍の進行してきた方角はデスサイドを見上げる場所で戦術から言えばもっとも不利な地形から攻撃を仕掛けている。もっとも不利な地形から天道軍の半数を送り込んでくるピサロは戦術を知らないのか?


 「違う!ピサロは戦略に長けているはず。ヤツのねらいは・・・・」


 てんとは地図の隅々まで細かく見ていく。この無駄な戦術から好機を掴むチャンスはどこにあるのか?てんとがそれに気がつくのにさして時間はいらなかった。現在の戦況は中央から第一・四・六師団が攻撃、それをイブリースが迎撃に向かっている。東部からは第二・五・十・十一師団が攻撃、七鬼楽のフェンリル、ヴリトラ、アンフィスバエナが迎撃に向かい後方から四悪王が長距離攻撃を行う。西部からは第七・八・九師団が攻撃、これをジンが阻止に向かっていた。快進撃を続けていた天道軍は地獄軍におされ次第に後方に撤退しつつあった。善戦しているように錯覚してしまうような戦況だがこれは明らかにピサロの戦術だとてんとは語った。


 「それじゃあ、デスサイドから兵士達を遠のけるのが目的ってこと?」


 「ピサロは地獄軍本隊をデスサイドから引き離し後方から仕掛けてくるはずだ!」


 「後方からってデスサイドの後方はマグマの海に包まれているのよ。」


 「リナ、ピサロの戦略を侮るな!」


 

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