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未来のきみへ   作者: 安弘
地獄道編 Ⅱ
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大焦熱地獄デスサイドへ

 「ふたりはうまく逃げれたかな?」


 「大丈夫だよ、タカちゃん。だってあんなに強いんだもん!」


 タカヒト達はアリシアから逃走することに成功して今は大焦熱地獄にいた。いままでとは全く異なったこの大焦熱地獄は冷たい岩石とヘドロのようなマグマから構成されている。てんとは岩石と岩石にはさまれた周囲から姿を隠せる場所を見つけた。


 「ミカ、ここでふたりの回復を待とう。タカヒト、護衛を頼む。」


 「タカヒト、行ってくるけど、ミカにへんなことしたらダメだぞ!」


 「なっ、何言ってるんだよ・・・・早く行きなよ、ポンマン。」


 「あっ、はっはっはっ。行ってくるよ。」 


 ポンマンとてんと、デュポン達は魔物の襲撃を警戒して周囲を見てまわった。タカヒトとミカは意識のないリナとリディーネが回復するのを待っている。意識のないリナとリディーネが目の前にいるが、ミカとふたりっきりになるのはタカヒトには久しぶりだった。


 「・・・・」


 本来ならミカはいままでと同じように学校に行って楽しく遊んだり勉強していたはずだ。しかし狭間に落とされた上に、今では生命の危険な状況に追い込まれている。狭間に落ちた者が死ぬということは無限空間に飛ばされるということであり、生まれ変わりことはなく、魂のまま彷徨うようになる。タカヒトはてんとにそう聞いた・・・。


 「・・・あのね、ミカちゃん・・・」


 「なあに?」


 リナの顔を拭く手を止めるとミカはタカヒトの顔を見つめた。ミカに真っ直ぐ見つめられたタカヒトはすっかり話すタイミングを失ってしまう。ミカの表情からはタカヒトへの恨みや憎しみ、後悔といったものは全く感じられずタカヒトへの好意的な笑顔があったからだ。その表情に見とれていたタカヒトは言うべき言葉を失っていた。


 「生きるも死するも儚いもの。何故生きる?・・・それが悩みの種。」


 「誰!・・・魔物?」


 いきなり背後から現れた者にミカとタカヒトは驚愕しながらも臨戦体勢を整えた。正体不明のその者は厚手のマントを前にかきあわせて頭には破れかけた帽子を被っていた。杖を持ち憂いの表情を浮かべているその者は近くにある岩場に歩いていくと腰を降ろした。


 「魔物?私は詩人・・・堕ちていく世界を憂いている。」


 「この大焦熱地獄で詩人なんてちょっと怪しい。ねえ、タカちゃん!」


 「ミカちゃん、詩人って何?」


 「・・・タカちゃんの疑問ってそこなの?」


 急に引き締めていた気力を失ったミカであったがこの詩人に戦意は無いと判断した。詩人は自らをレインと名乗りこの大焦熱地獄で詩を歌いながら旅をしていると語った。口数は少ないレインだがタカヒトには心を開いたようで詩について話し込んでいた。怪しい人物ではあるのだがレインと話しているタカヒトは実に楽しそうだった。ミカはリナとリディーネの容態が心配になったらしく警戒しながらもその場から離れ、ふたりの看病を続けた。ミカが去っていくのを目で追いながらタカヒトはレインに質問をした。


 「聞いてほしい事があるんだけど聞いてくれる?」


 真剣なタカヒトの眼差しにレインは首を縦に振ると話を聞いた。タカヒトの話とはミカの事である。タカヒトは以前からミカに対して申し訳ない気持ちを持っていた。自分が原因でミカは狭間に堕ちてしまい、今はもっとも危険な状況に巻き込んでしまった。


 「なるほど・・・それでタカヒトはどうしたいんだ?」


 「うん、謝ろうって思ってる。前にも謝ったんだけど・・・」


 「謝って済む問題なのか?」


 「それは・・・そうなんだけど・・・」


 レインの言葉にタカヒトは黙り込んでしまった。確かに謝って済む問題ではない。巻き込んでしまった事は事実なのである。


 「謝れば君は気が済むかもしれないがミカはどう思うだろう?ミカはタカヒトに謝ってほしいのか?謝って許してくれるのか?謝るといっても義や誠意というものがなければ謝るとは言わない。それはただ単にその場を取り繕っているだけか、表面的なものに過ぎない。」


 「うん・・・ミカちゃんはどう思っているんだろう?」


 「さてな?ただ、君と一緒にいる時のミカは実に楽しそうだ。この場合、謝るよりほかにすることがあると思う。」


 「謝る事よりほかにすること?それって何?」


 「それは自分で考えることだ。

  謝られることよりもミカはそれを望んでいると思う。」


 リナとリディーネを看病しているミカの姿を見ながらタカヒトはレインに言われたことを考えた。ミカが一番望んでいるのは謝ることではない。ずっとミカに謝る事だけを考えていたタカヒトにとってレインの言葉は思いもよらないものだった。


 「僕、難しくてよくわからないけど考えてみるよ。」


 「・・・いい決断だ。その決断が未来のきみを支えてくれるだろう。」


 「未来・・・?」


 決意を新たにしたタカヒトにレインは笑みを浮かべていた。しばらく談笑しているとてんと達が戻ってきた。タカヒトはレインを紹介しようと立ちあがった。


 「ちょっと、待ってて!てんと達に紹介するから!」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 「レイン?・・・何処にいるんだ?」


 「何処って・・・あれ?レインさん?・・・どこにいったんだろう?」


 さきほどまで座っていた場所にレインはいなかった。タカヒトは周囲を見渡したがやはりレインの姿はなかった。幻?夢でも見ていたのだろうかとタカヒトが落ち込んでいるとミカが近づいてきた。


 「タカちゃん、レインさんは帰ったんだね。」


 「そうだよ!夢じゃない。確かにいたんだ!」


 そう、レインはいた。確かにここにいてタカヒトと話をしていた。どうしてレインがいなくなったのか、タカヒトにはわからなかった。そんなタカヒトの姿を遥か上空で厚手のマントに破れかけた帽子を被ったレインが見つめていた。


 「大焦熱地獄デスサイドへようこそ タカヒト

  これから降りかかる試練を乗り越えられるのなら・・・あるいは・・・。」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 運命はすでに決まっているもの・・・運命を変えることなど誰にも出来ない。

運命が変わったと感じた。しかしそれすらその時に変わるとすでに決まっていたこと。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 「ちょっと、タカヒト、何やってんの?置いてくわよ!」


 「待ってよ!」


 リディーネが罵声をあげるとビクつきながらタカヒトは走っていく。レインがいなくなってから少し経った頃、リナとリディーネが意識を取り戻した。ふたりともアリシアに操られた時の事は全く憶えていなかった。そのことを追求する必要はないとてんとは判断して黙っておくようにタカヒト達に伝えた。


 「リディーネには言ってみようかな?」


 「ダメだよ、タカちゃん。ああ見えてリディーネは傷つきやすいんだよ。」


 「そうだぞ、タカヒト!

  あのキツさは傷つきたくないという心の裏返しかもしれないな。」


 「そうかなぁ~~・・・。」


 ポンマンに言われてタカヒトはなんとなくリディーネを見つめている。リディーネにも寂しい想いをした事があるのかと感じながらもその要素を外見から見ることが出来ないタカヒトだった。視線に気がついたリディーネは急に立ち止まるとタカヒトを睨みつけた。


 「ちょっと、何、アタシを見てんのよ。変な気を起こさないでよね!」


 「・・・本当に裏返しかなぁ~?」


 「???何?なんか言った?」


 「ううん、別に・・・それより先を急ごうよ。」


 タカヒトに言われて少し機嫌を悪くしたリディーネは口を膨らませながらも大焦熱地獄デスサイドを目指して歩き出していく。破壊神のいるデスサイドは目の前に近づいていてリディーネの心は次第に浮かれていった。


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