ハープを奏でる女
「姉さん、やっと門に辿り着きやしたぜ・・・アレはなんでやす?」
「デュポン、行くわよ!」
「姉さん、ちょっと、お待ちください!何か・・・様子が変ですぜ。」
その頃、リディーネ達は門が見える所まで辿り着いた。リディーネは先を急ぐあまり走り出そうとしたが門から異様な気配を感じたデュポンに制止された。巨大な門に視線を向けるとそこには数体の魔物らしき姿が見えた。この位置からはよくは見えないがハープらしき楽器を奏でている女とその周囲を黒い影がユラリユラリと踊っている。 しばらく様子を伺っていたもののいつまでも待っていられるわけもなくリディーネの我慢が限界に達した。
「もう無理!デュポン行くわよ。あんなのアタシの紅玉で瞬殺よ!」
リディーネは焦っていた。門にいる魔物もハープを奏でている女も警戒するべき相手でありデュポンは慎重に事を進めるべきだと考えている。しかしリディーネには先を急がなくてはならない理由があったのだ。門に近づいたリディーネは闘気を高めると業火を魔物にブチ当てた。ユラリユラリと動いていた黒い影は業火を浴びてユラリユラリと倒れていった。女はハープを奏でながらリディーネを見つめた。
「私の奏でるハープはお嫌いかしら?」
「お嫌いかしら?・・・大っ嫌いよ!」
「そう?メトロノーム達は私の奏でるハープが大好きなのよ。」
ハープの音色が変わると業火に燃え倒れていたメトロノームが再び立ちあがりユラリユラリと踊りだした。次の瞬間、リディーネの前にデュポンが飛び出してくるとその身体から切り傷が数箇所現れた。膝をついたデュポンの身体は切り刻まれていた。
「デュポン!」
「怪我はありませんか、姉さん。奴らはオラッチと同じ風の属性でさぁ・・・。」
ハープの音色に合わせてユラリユラリと踊っているメトロノームはその手足から再びカマイタチを繰り出すとデュポンの身体を切り刻んでいく。それでもリディーネの身を守ろうと傷つき苦しみながらもデュポンは懸命に守ろうとしていた。
「退きなさい!アタシの紅玉で攻撃するわ!」
「ダメでさぁ・・・同じ属性でも奴らの能力は段違いでやす。
姉さんの攻撃は奴らには効かないでやすよ。」
「やってみなきゃ、わかんないでしょ!紅玉上級闘気 朱玉」
デュポンに守られた状態で闘気を高めると上空に巨大な火炎玉が現れた。その巨大な火炎玉はメトロノームの頭上に落ちていく。しかしハープの音色が激しいリズムに変わるとメトロノーム達は一斉にカマイタチを放ち出す。すると巨大な火炎玉が切り刻まれ消滅していった。
「アッ、アタシの朱玉が・・・」
ガックリと膝をつき戦意を喪失したリディーネにカマイタチが襲うがデュポンが身を盾にして守った。
「うふふ・・・メトロノームの力が理解出来たかしら?もちろん分かったところであなた達の死は免れないわ。最後の曲レクイエムをあなたに捧げましょう。」
女のハープの音色が変わるとメトロノームの手足が急に伸び始めてそれはムチのようにリディーネとデュポンに襲い掛かった。
「きゃあああああ~~」
切り刻まれて痛みを堪えているリディーネの姿を見たデュポンは身体を膨らませてリディーネを包み込んだ。
「そんなことしたら死んじゃうよ?ねぇ、デュポン!」
「姉さんが無事ならオラッチは大丈夫でさぁ。」
デュポンは確実に死に向かっていた。意識が朦朧として力尽き覆っていたリディーネから離れると倒れこんだ。
「デュポン・・・デュポン!」
何度も何度もリディーネは呼びかけたが何の反応も示さなかった。そのリディーネを取り囲むようにメトロノームは位置するとカマイタチを繰り出してきた。死を覚悟して目を閉じたリディーネであったがカマイタチによる激痛はなかった。ゆっくりと目を開けると桜色の壁に包まれている。振り返るとミカが桜色の輝きを放ってほかにもタカヒト、てんと、リナにポンマンがそこにいた。涙ぐみながらも仲間の存在を喜んでいるリディーネ。
「おっ、遅いじゃないのよ!何やってたのよ!」
「これでも早く来たほうだよ。僕達もあれに襲われていたんだから。」
「仲間の大切さが分かったかしら?ちょっとは懲りてくれるといいんだけど。」
「それにしてもあれを遠隔操作も出来るってことはかなりの能力者だ!」
「ヤツはアリシアと言って十六善神の中でも最強と名高い四天王のひとり。絶対音域のアリシアだ!」
「気安く名を呼ばないでいただきたいわ・・・まあ、いいでしょう。
ところで・・・あなた方の奏でる悲鳴は何オクターブかしら?」
ハープを奏でるアリシアの音色が変わるとメトロノームの踊りも変わり今度は手足を伸ばして直接ミカのレインボーウォールを切り刻んでいく。
「ちょっと、いつまでこうしているつもり?反撃しなさいよ!」
「そんなこと言ったって、火炎も雷撃もてんとの風撃も通用しないんだもん!」
「何が、だもんよ!アンタそんなんでよく生きてこれたわね!」
「・・・・うん・・・ごめん・・・」
「リディーネ、言い過ぎ。タカちゃん、気にしちゃあダメだよ。」
リディーネのキツイ一言に落ち込んでしまいミカの慰めの言葉にさらにへこんでしまったタカヒトだった。事実、タカヒト達はここまで来るのにメトロノームの襲撃に遭っていた。赤タカヒトの火炎撃もリナの雷撃も、もちろんてんとの風撃もメトロノームには通用しなかった。
ここまで来れたのはミカのレインボーウォールに守られての事だった。真実を知ったリディーネはガッカリした表情で肩を落とした。
「てっきり助けに来てくれたと思ったのに・・・もうバカ!」
リディーネはタカヒトの肩を叩きながら泣き出した。ミカの理力も限界に近づきつつあり、レインボーウォールの崩壊も近い。絶望感がリディーネをパニックに陥れた。そんな絶望感が漂う中でポンマンが口を開いた。
「あきらめるな!・・・むずかしい事だがそれが生きると言うことだ。」
ポンマンの言葉に誰もが驚いた。いつもおちゃらけていざと言う時に大した事も出来ないポンマン。その言葉は皆の心に響いた。あきらめてはいけない・・・簡単なようだが実に難しい。
十六善神の四天王の一角を相手にこの状況下であきらめないのは不可能に近い。それでもポンマンは「諦めるな!」と言っている。誰もが死を覚悟した状況でポンマンの言った一言に共感した者がいた。
(ポンマンの言うとおりだな。白玉よ、私達の出番のようだぞ!)(紫玉)
(そうだね、紫玉。タカヒト、行くよ。)(紫玉)
「えっ?紫玉と白玉なの?」
次の瞬間、タカヒトの身体が紫色に輝くと白髪で紫色の瞳をした白紫タカヒトがいた。この姿を見てリディーネは目を丸くして驚いていた。白紫タカヒトはミカを見つめるとミカも白紫タカヒトを見つめた。そしてうなずくとレインボーウォールは消えた。白紫タカヒトは冷静に状況を把握するとアリシアを見つめた。
「あら、勇敢な方ですのね。
嬉しいわ・・・私と一緒にこの音色を楽しんでくださるのね。」
「お前に諦めない者の強さを見せてやろう。」