クリスタルの力
「ガルよ、おまえに聞きたいことがある。ジャンスより大叫喚地獄の門の鍵はおまえが持っていると聞いたのだが本当か?」
「・・・鍵を手に入れてどうする?」
タカヒト達は親方の部屋にいた。ガルは部屋の窓から外を眺めると親方の姿が視界に入った。五百名の配管工は親方を心配して姿を見たいと部屋に入ってこようとしていた。さすがにそれは無理だった為、親方はマイクを持ち自分達の無事とクリスタルの持ち帰りを報告していた。
「我々は破壊神に会わなくてはならない。
その為には大叫喚地獄の門の鍵が必要なのだ。」
そうてんとは答えたが背中を向けたままガルはしばらく沈黙を続けていた。
「ちょっと!黙ってないでなんとか言いなさいよ!」
「アレ? リッ、リディーネ?迷子になっていたんじゃあなかったの?」
「はあ?何言ってんの!ポンマン達が迷子になったんでしょ!配管のおっさんに聞いて来たのよ。ってそんなことどうでもいいわよ!ガルだっけ?答えなさいよ!」
「・・・・・確かに鍵は私が持っている。だが・・・」
ガルは振り返ると説明を始めた。門の鍵は物質として存在しているのではなくガルのエネルギー体が門の開閉を行う唯一の手段らしい。つまり門にはガル本人がいかないと開けることが出来ないと言うのだ。
「だがもし私の存在にピサロが気づけばかならず奴を送り込んでくるだろう・・・
奴が来たらこの国は壊滅する。それが一番恐ろしいことだ。」
ガルは門を開ける協力をしたいがその為にこの国や民を巻き込むわけにはいかないと拒んだ。リディーネはひつこく迫ったがガルは首を縦には振らなかった。
「このぉ~、強情者・・・各なる上は!」
リディーネも破壊神に会わなければならないと必死だった。例えガルを傷つけても門を開けさせると言って引かなかった。そこへ皆への説明を終えた親方がのそっと部屋に入ってきた。
「んっ?どうしたんだ?」
親方はリディーネとガルの話をゆっくりと聞いていた。おもむろに煙草を取り出すと火をつけ、一息ついた。
「なるほどな。だが、それなら問題はない。クリスタルを使えばいい。」
「クリスタルを使う?」
リディーネはもちろんその場にいた皆が親方の顔を見つめた。親方は煙草をくわえたまま、椅子にドカッと座るとポケットの中からクリスタルを取り出した。
「このクリスタルにはエネルギー量の増産と貯蔵する力がある。」
蒸気設備場ではすべてのタービンから得られるエネルギーをクリスタルが一時的に貯めて定期供給している。今回は第14タービンが事故により破損して停止していた。それにより第17と18タービンにかなりの負担かかっていたのだ。クリスタルを増設することでエネルギーの生産量と貯蔵量を高め第17と18のタービンの負担を軽減させることが今回の目的だった。
「つまりそのクリスタルがあればガルのエネルギーを貯め、
門の鍵の代用鍵となるのだな?」
「その通りだ。もちろんお前達の危険が回避出来るわけではないが少なくともガルの心配事は解消されるだろう。」
「よく分かんないけど門は開けられるってことでしょ?だったら早く行くわよ。」
「まて、リディーネ!物事には順序というものがある。まずはリナ達の休息と旅立ちの準備が必要だ!」
「分かった・・・でもあんまり長くは待てないわよ!」
苛立ちを隠せないリディーネはそう言い残すとデュポンを連れて部屋を出て行った。
「どうやら、納得したようだ・・・リナとミカは疲れているだろう。休憩を取ったらどうだ?タカヒト、ふたりを頼む。」
タカヒトはふたりを連れて部屋を後にした。部屋に残ったてんとはガルから沢山の情報を聞き出すことが出来た。ガルが言うには破壊神のいる大焦熱地獄にはいままでの地獄にはいない全く異質の魔物が存在していてその能力も残虐性も比にならないらしい。てんとは装備品を集める準備に取り掛かかることにした。
次の日の朝、タカヒトが血相を変えて部屋に入ってきた。部屋にはてんとがポンマンと共に出発の準備をしておりタカヒトには買い物を頼んでいた。しかし買物袋ひとつ持っていなかった。
「タカヒト、そんなに急がなくても大丈夫・・・
あれ、買い物はどうしたんだ?」
「それどころじゃないよ、ポンマン!
ミカちゃんが・・・ルキアと一緒に歩いていたんだ!」
「・・・それで?別に一緒に歩いていただけだろ?」
「だって・・・一緒に歩いていたんだよ!」
「ミカが誰と歩いていようと関係ない。
今はもっとほかにすべき事があるんじゃないのか?」
ポンマンの冷静な言葉にタカヒトはうつむくと無言のまま部屋を出ていった。タカヒトにも今すべき事はもちろん分かっていたがミカの事が心配でいても立ってもいられなかったのだろう。
「・・・少し言い過ぎかな?」
「いや、あれでいい。」
一方、体力の回復したミカはルキアに誘われて蒸気設備場を案内されていた。ミカにとってすべてが新鮮で配管のうんちくを得意げに喋っているルキアも楽しそうだった。
「それでさあ・・・アレ?」
歩いていると小さなパイプから蒸気が漏れていた。ルキアは近くの工具を取り出すと修理を始めた。パイプレンチを両手に持ち締め込んでいくと蒸気の漏れは止まった。
「ルキアって凄いね。なんでも直せちゃうんだね。」
「まあな、一流は道具を選ばずになんでも直せるんだ!」
ミカの言葉にルキアは嬉しくなってパイプレンチの使い方を教えていた。ふたりの後を尾行していたタカヒトが配管の物陰から見つめていた。そこには手を取り合ってミカに優しく教えているルキアの姿があった。
「手を触ってる?なんだよ、ミカちゃんもミカちゃんだよ!
あんなに嬉しそうにさ・・・って僕は何やってんだろ・・・・。」
急に自分が寂しく思えてきたのかタカヒトは急いで、てんとに言われた買い出しに向かった。出発の準備には二・三日必要だった・・・。
「親方、年なんだからあまりムリしちゃダメよ・・・じゃあ、行って来るわ。」
「おう、気を引き締めて行ってこい。ワシらはいつでもここにいるからな!」
親方はリナに笑顔を見せて言った。いよいよ門へ向かって、てんと達は旅立つ日が来た。今回はガルに忠告された通りに完全武装で乗り込むことになった。蒸気の国は鉄鋼の技術も発達しており軽く動きやすい武具を得ることが出来た。見た目は今まで着ていた衣服と変わらないが熱や直接攻撃をかなり軽減してくれる武具を装着している。待っていられなかったリディーネは「先に行ってるわ」と言い残してデュポンと共に出発していた。てんと達が旅立とうとしている最中もミカがルキアと話し込んでいた。
「何してるんだ、ミカのヤツ・・・なあ、タカヒト」
「・・・・」
ポンマンはワザとタカヒトを挑発するように言ったがそれ以上にタカヒトは落ち込んでいた。挑発したポンマンの方が逆に申し訳なさそうになった。
「時間がない。先に行こう!」
てんとは皆に伝えると親方達の見送りの中、出発していく。それでもミカはルキアと話していてその姿を見たタカヒトは何かを諦めたのかに歩きだした。
「ミカ、どうしても行ってしまうのか?俺とここで一緒に生活しないか?」
「ゴメンね。ルキアは明るくて何でも出来てそれにカッコいい・・・
でもね、私には守らなきゃならない人がいるの!」
「どうしてもか?」
「うん、私しか守ってあげられない・・・ゴメンね。」
「そうか・・・・そいつは幸せ者だな。しかし参ったなぁ~、失恋しちゃったよ
・・・近くに来たら遊びに来いよ!」
「うん、ありがとう。行って来るね!」
ミカはルキアに精一杯手を振ると走っていった。途中親方達に挨拶をして一路、タカヒト達のもとへ走っていく。ルキアも親方達のもとへトボトボと歩いてきた。
「ルキア、おまえ振られたのか?そいつは残念だったな!」
「はん!俺はこう見えて結構もてるんだぜ!失恋のひとつやふたつどうってことないさ!なっ、ロエル。」
「はい、ルキアさん・・・・でもルキアさんはそんなに失恋しているんですか?」
「・・・・」
トボトボ歩いているタカヒトを不憫に思ったのかポンマンは面白い話やジョーダンを言っているがタカヒトの表情は変わらなかった。そんなタカヒトの心模様を映し出すように空は曇って今にも雨が降りそうだった。ションボリしているとタカヒトの名を呼ぶ声が聞こえてきた。タカヒトが振り返るとミカが笑顔で走ってきた。
「タカちゃん・・・・ハァハァハァ・・・もう、置いてかないでよ。ハァハァハァ・・・んっ、何で目を真ん丸くしてるの?」
「えっ、ミカちゃん・・・・?」
「さあ、行くわよ!気を抜かないでね、タカちゃん!」
ミカは呼吸を整えるとリナの傍に近づいてふたりは話をしながら歩いている。ポンマンも笑顔を浮かべるとミカとリナのところに走って会話に入った。ポカ~ンとして突っ立ているタカヒトにてんとは声を掛けた。
「何を突っ立っている、タカヒト?早く行くぞ!」
「てんと、ミカちゃんが来たよ?なんでだろう?
ルキアとずっと一緒にいると僕は思ってた。」
「さあ、何故だろうな・・・」
「はっ、もしかして・・・
今回の目的を達成したらルキアのところに戻るんじゃないかな?」
「タカヒト・・・・おまえ馬鹿だろ?」
「えっ??」
「冷静に考えてみろ。これから我々はここに戻れるどころか命を落とすかもしれない危険な場所に向かっていくのだぞ!そしてミカは今、ここにいるのだ。」
「・・・ってことは。」
「そういうことだ。分かったら行くぞ!」
「うん!」